カスタムという楽しみ! ファッションをもっと自分らしく ~リフォーム工房SARTOの靴職人~

リメイク、リフォームを支えるプロフェッショナルのイメージ

スーツ、ジーンズ、スニーカーから、時計、バッグ、帽子など小物に至るまで。ファションにおけるカスタムは非常に奥深く、ユニークなアイデアに満ちています。

男性ファッション誌「smart」の元編集長でライターの佐藤 誠二朗さんが、ファッションにおけるカスタムの楽しさやトレンドについて、毎回その道の達人にインタビュー。哲学とアイデア、具体的なノウハウを紹介する連載のスタートです。

 

単なるお直しだけではなく、トレンドを意識した提案を

ファッションは日々の生活を豊かにしてくれるもの。お気に入りの服を着ているだけで、一日中ハッピーな気分でいられる人も多いでしょう。そしてファッションの楽しさは、トレンドと最新作を追い求めることだけではありません。

お気に入りの一着をいつまでも大切に着続けること、それに手持ちの服をカスタム・リメイクしてオリジナルの一着を作るのも、ファッションの醍醐味の1つです。

そんなファッションの“カエライフ”を探る連載第1回。ハイセンスな洋服のリフォーム工房SARTO(サルト)をご紹介します。

SARTOは、サイズの合わなくなった服や、流行遅れだけれど愛着があってどうしても手放せない服を見事に再生させてくれるプロフェッショナル集団です。

 

リフォーム工房SARTOのイメージ

SARTOの創業は2000年。社長の檀 正也さんは当時のことをこう振り返ります。

「福岡で創業した当時は、クイックなものが求められた時代。だからうちも、“裾あげ1時間・特急30分仕上げ!”というようなことを売りにしていました。でも、東京に進出してからは、クイックな仕事と並行して、難しい注文を受けて丁寧に仕上げることにも取り組みました。それが現在につながっています」

洋服のお直しの基本はサイズ調整。既製品をより格好良く着こなしてもらうために、人それぞれの体にぴったり合うよう修正するのが第一です。でもSARTOはそこから一歩踏み込んだ仕事をして、高い評価を受けるようになりました。それはちょうど、日本人の意識が大きく変わり始めた頃でもあったそうです。

「大きなきっかけは東日本大震災です。古いものでも大切にし、長く着続けようという意識が芽生え始めました。バブルの頃に買ってクローゼットの奥に眠っていた服なんか、デザインは古くても素材はしっかりしているので、直せばまだまだ着られますからね」

同じ頃に起こったカスタマイズブームも、SARTOにとっては追い風になりました。ファストファッションの店で買った2000円の服を8000円かけてカスタマイズし、自分だけのものに仕立てて着るというような流行です。

安く買った服にお金をかけて、自分だけの一着にするというのは、実はとても豊かな服の楽しみ方なのかもしれないと檀さんは語ります。

 

オリジナルのスーツも販売するSARTO

お直しだけではなく、オリジナルのスーツも販売するSARTO。各人の体型に合わせて調整する腕に長けた職人揃いなので、最高の一着を手に入れることができる。

世の中にはたくさん、服のリフォーム屋さんがありますが、SARTOが高い評価を受けている理由は、その提案力。スタッフはファッションのトレンドを熟知し、お客さんの好みやパーソナリティに合わせたカスタムの提案をします。

「細いシルエットが流行った頃、『もっともっと細く』と要望するお客さんに、『そんなに細くしたら3年後には着られなくなるから、やめませんか』と提案したりもしました。トレンドの傾向をお教えするのも、私たちの役目。技術を身につけた上で、ファッション性を忘れないことも大事だと思っています」

 

ものには思いが詰まり、八百万の神が宿る

「僕自身は新しいものも嫌いではないですが、古いものにより惹かれます。男というのは面倒臭いもので、既製品よりもオーダー服が好きだし、歴史・ヒストリーがある古いものに惹かれる傾向があるのですね。服はやっぱりスーツが一番。中でもイタリアのものが好きですね」

 

店内のイタリアのスーツのイメージ

 

アンティークの時計のイメージ

SARTO銀座本店の店内にはオリジナルの服に加え、ネクタイやアンティークの時計なども並べられている。

そう語る檀さんがSARTOを創業して19年。よき思い出についても聞いてみました。

「震災後、ものには思いが詰まり、八百万の神が宿ることを感じる人が多くなった気がします。おじいちゃんのタキシードやお母さんのウェディングドレスを直して着たいという若い人、亡くなったご主人のコートをリメイクして着たいという女性のオーダーなんかも来るようになりました。そういう服を仕上げてお客さんにお渡しする際、感動して大泣きされたこともあります。スタッフもみんな号泣していましたけど(笑)。そういうことが一番の喜びですね」

そんな檀さんは、クルマもやっぱり古いものが好き。今は1965年式のフィアット1200カブリオレに乗っているそうです。

「僕世代だと、バイトして安いクルマを買って、自分でカスタムして乗るのが普通でした。その意識が抜けないから、自分でいじれる古いクルマに惹かれるんです。ただし、買って3年ほど経ちますが、出かけて何事もなく帰ってこられたのは、数えるほどしかないかもしれません(笑)。でもそういうところも含めて愛着があり、可愛い。古い服と同じです」

 

SARTO代表取締役・檀正也さん

SARTO代表取締役・檀 正也さん。お直し専門会社の営業を経て、2000年にSARTOを開業。単なるお直しにとどまることなくトレンドを意識した高い技術で、ファッション業界にその名が広く知られている。

 

ビスポーク靴職人による靴のカスタム

今回訪ねたSARTO銀座本店は土地柄、高級服や靴のお直しのオーダーが中心。店内にはビスポーク靴職人の森口 豊さんによる靴・革製品の修理、オーダー、リメイクを受けるYutaka Moriguchi Shoemakerが併設されています。

 

ビスポーク靴職人が修理、オーダー、リメイクした手がける靴・革製品

 

ビスポーク靴職人の森口 豊さん

森口さんはこの道10年。そろそろベテランと呼ばれるキャリアなのかと思いきや、「この世界ではやっと一人前。まだまだ、これからです」とのこと。

靴で一番多いオーダーは、すり減ったかかとの修理、カバンは擦れて色が落ちてしまった四隅の補色だといいます。リメイクでは、靴は染め替えやソールの付け替え。カバンは取っ手を変えたり、追加したりすることも多いのだとか。

店内のフィッティングルームには、ちょっとユニークな履きものがありました。前から見ると革のドレスシューズなのに、かかと部分がありません。

 

SARTO銀座店のフィッティングルーム

SARTO銀座店のフィッティングルームには、森口さんによって革靴からカスタムされたスリッパが置かれている。スーツなどをフィッティングする際、革靴を履いたような状態で確認することができるのだ。

「これも靴のカスタム例で、お医者さんに多いオーダーです。お医者さんは脱ぎ履きしやすく楽な履きものがほしいけど、普通のスリッパでは支障がありますからね。前からだときちんとした革靴に見えて、しっかり足にフィットするスリッパがいいんです」

そういう森口さんの横で聞いていた檀さんが、「これ、最高級靴のエドワード・グリーンを使ってるんですよ。靴の神様に怒られるかもしれませんよね」といって笑いました。

確かに、新品で買えば10万も20万もする高級靴をカスタムベースにするのはちょっと勇気が必要ですが、履き古して捨ててしまうくらいだったら、こうして生き返らせたほうがずっといいのではないかと思えるでき栄えです。

 

森口さんが行なったカスタム例を、ほかにもいくつか見せてもらいました。

 

①ブーツの染め替え

ブーツの染め替え

ブラウンの革がすっかり汚れてしまったトリッカーズのブーツを、真っ黒に染め直したもの。黒くすることによって高級感が増し、まったく違う趣のブーツに生まれ変わっています。ブーツによく見られる、履き口につけられたループ状のストラップ(プルストラップ)も、元は布製でしたがレザーに変更されています。

 

②タッセルを追加した革靴

タッセルを追加した革靴

J.M.ウェストンのプレーントゥに、レザー製のタッセルをつけるカスタムです。飾りを追加することによって、印象はぐっと華やかに。もともとはフォーマルなシューズですが、このカスタムによってカジュアルな印象が強くなっているので、普段着にも合わせやすくなっています。

 

③アウトソールをレザーからラバーに

上記のJ.M.ウェストンのプレーントゥにはもう一箇所のカスタムポイントが。ソールをレザーからラバーに替えています。これは今、とても流行っているカスタム方法なのだそうです。

見た目がカジュアルなスニーカー風になるのと同時に、ワークブーツやアウトドアブーツで使われるビブラムソールを使用しているので、履き心地もぐっと向上。特に年配の方にはオススメのカスタムだそうです。

こうしたカスタムは、高い技術を持った職人さんにこそできる技。ではプロは一体どんな手法でカスタムをしているのでしょう。カスタムする際のポイントについて、森口さんに伺いました。

「どのカスタムも楽ではありませんよ(笑)。色の染め替えは革用の漂白剤を使い、まず元の色を抜きます。黒が真っ白にはなることはありませんが、グレーになるくらいまで抜き、その後はお客様のご要望に合わせて選んだ新たな色に染めていくのです。一度では染まりきらないので何度も繰り返し、最後に色止めをします。新品の靴は白い皮を使うので染まりやすく、染め替えのほうが根気のいる作業ですね。

ソールを替えるためには、靴をいったんバラバラに分解します。高級革靴の多くはグッドイヤー・ウェルト製法(下記写真)という、ソールの変更を前提にした作りなので、交換することが可能なのです」

 

アッパーとソールが直接縫いつけられていない高級靴

高級靴の多くは、19世紀末に確立されたグッドイヤー・ウェルト製法で作られている。アッパーとソールが直接縫いつけられていないため、ソールが磨り減っても、靴底全体を新たなものに取り替えられる。

もう1つ、森口さんオススメの革靴カスタム法としてあげてくれたのが“チャールズ・パッチ”。

長年、履いていると屈曲する部分がどうしてもひび割れしてくる革靴に、当て布のように革を貼って修理する方法です。

イギリスの貴族は贅沢なようで、実は質素・倹約を旨とする人が多いもの。この“チャールズ・パッチ”は、同じ靴を10年以上も履くというチャールズ皇太子がやっている修繕方法なのだそうです。

 

修復ビフォアーとアフターのチャールズ・パッチ

チャールズ・パッチを施した革靴のビフォー(左)、アフター(右)。

 

一般人ができる靴のカスタムは「磨き」

ここまでに紹介してもらったカスタムは、私たち素人には到底真似できるものではありません。そこで、森口さんに「簡単にできるカスタムを教えてください」とお願いすると、「磨き」という答えが返ってきました。

「革靴にがんばって磨きをかけ、ピカピカに光らせるのが流行っています。このオールデンのコードバンも、磨かずに履いているとくすんできますが、がんばって磨き、表面にワックスをつけてコーティングするとこんなにピカピカになります。一般の人に靴のカスタムは難しいですが、ピカピカに磨き上げるのはおもしろいので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょう」

 

ピカピカに磨かれたコードバンレザーのオールデンの靴

コードバンレザーのオールデンの靴。手前が森口さんによってピカピカに磨きをかけられたもの。

磨くのは誰にでもできるけど、本当にピカピカにするのはけっこう難しいのだそうです。森口さんに2つのコツを教えてもらいました。

1つは、最初にブラシを使って、隅々までしっかり汚れ落としすること。洗顔と一緒で、汚れた上から磨いても曇るだけなのです。そして2つめは、ワックスを布ではなくて指で塗ること。布はワックスを吸収してしまうので、指で塗った方が効率的。これはプロも使うテクニックなのだそうです。

 

ビスポーク靴職人・森口 豊さん

ビスポーク靴職人・森口 豊さん。アパレル会社で働きながら柳町 弘行氏の元で修業し、独立。靴やレザーアイテムのオーダーメイドはもちろん、さまざまな修理、カスタムの腕も第一級。

 

靴づくり、修理、カスタムに使う道具

靴づくり、修理、カスタムに使う道具。使いやすく、目的に合うものを探すと、今は生産されていないこともあり、アンティーク品を探すときもあるという。

そして、もっと手軽に一般の人ができる靴のカスタムは、ヒモを替えること。靴のヒモは、実は非常に目立つ要素なので、その色や素材を替えるだけで雰囲気がまるで違うものになるのだそうです。これなら簡単そうですね。

プロフェッショナル集団・SARTOのカスタム指南はまだまだ続きます。次回はいよいよ、洋服をご紹介します。

 

文/佐藤 誠二朗
写真/木村 琢也

取材協力:SARTO

第2回