プロが教えるクルマのスポイラーとは? 図解でその種類・効果を分かりやすく解説!

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クルマの「スポイラー」ってどんなものか説明できますか?クルマのアクセサリーカタログにはたくさん出てくるけれど、今さら聞けない……そう思っている人も多いはず。

クルマ好きにとっては当たり前の言葉ですが、クルマに詳しくない人にとっては「?」となるフレーズなのが「スポイラー」。

そこで今回は、スポイラーの意味や効果、純正品の特徴などについてプロの開発者にお話を伺いました。解説してくれるのは阿部 将寛さん(株式会社ホンダアクセス)。少しマニアックなことも分かりやすく解説してもらったので、クルマ好きにも楽しめる内容になっています。

それではさっそく解説のはじまりはじまり~!

 

阿部さん
阿部 将寛さん
Honda純正アクセサリーメーカー「株式会社ホンダアクセス」で主にエアロパーツの開発に携わる。Honda「VEZEL Modulo X」の開発ではエアロパーツを担当したほか、以前にはN-ONE、STEP WGN、Freedの純正エアロパーツ開発も担当。

目次

 

そもそもスポイラーって何?エアロパーツと同義

車に装着されているいろいろなスポイラーを説明した図

 

― そもそもスポイラーってなんですか?

阿部さん

阿部さん
クルマの主に車体外部に装着するパーツの総称です(上図参照)。あとで詳説しますが、見た目だけではなく、空気の流れの調整を通じてより高い操縦性や快適性を目指すためのパーツのことを指します。ほぼ同じ意味として「エアロパーツ」と呼ばれることもあります。

 

― スポイラーと呼ばれるパーツには主にどんな種類がありますか?

阿部さん

阿部さん
付ける箇所によって呼び名が異なります。付ける位置は大きく分けるとフロント(前)、サイド(横)、リア(後ろ)になります。

阿部さん

阿部さん
ただし、同じ場所についているスポイラーでもメーカーによって呼称が異なることも多く、下記以外にも名称の違いはあります。

 

主なスポイラーの種類・呼称
●フロントバンパースポイラー
●フロントアンダースポイラー
●ハーフスポイラー
●サイドアンダースポイラー
●テールゲートスポイラー
●リアバンパースポイラー
●トランクスポイラー
●ルーフスポイラー
※上図のように、車体下部に装着するパーツはロアスカートと呼ばれることも多い。その理由はコチラで解説。

 

Honda「シャトル」のロアスカート(フロント用)の写真

Honda「シャトル」のロアスカート(フロントスポイラー)

Honda「VEZEL Modulo X」のテールゲートスポイラー

Honda「VEZEL Modulo X」のテールゲートスポイラー

Honda「S660」のアクティブスポイラー

Honda「S660」のアクティブスポイラー。車速が約70km/hになると自動で上がり、車速約35km/hで自動格納という珍しいタイプ(また、運転席側のスイッチにより手動で操作も可能)

Honda「レジェンド」のトランクスポイラー。黒い部分がスポイラー部分

Honda「レジェンド」のトランクスポイラー。黒い部分がスポイラー部分

 

Honda「CR-V」のリアエアロバンパー 。リアスポイラーの一種

Honda「CR-V」のリアエアロバンパー。リアスポイラーの一種

 

― スポイラーの語源は?

阿部さん

阿部さん
スポイラーとは英語の「Spoiler」が語源で、空気の流れをスポイル(無効化する)するというところから付けられた名称です。

阿部さん

阿部さん
もともとは航空機の主翼に装備される装置の一種でした。降下時や減速時に主翼のスポイラーが立つ場面を見たことがある方も多いと思います。転じて自動車に採用されて今の形になりました。

 

飛行機の翼についたスポイラーが立ち上がっているようす

飛行機の翼についたスポイラーが立ち上がっているようす

 

スポイラーの効果とは?クルマと空力の関係も解説

― スポイラーにはどんな効果がありますか?

阿部さん

阿部さん
いまお話しした空気の流れを制御する「空力=空気力学」のほかには、ドレスアップ効果もあり、多くのお客さまに支持されています。

 

スポイラーの効果
① 空力(走行性)
② ドレスアップ(見た目)

 

阿部さん

阿部さん
なお、「空力=空気力学」のことを「Aerodynamics(エアロダイナミックス )」といい、これがスポイラーの別名でもあるエアロパーツの語源になっています。

 

― クルマの「空力」とはどういう意味ですか?

阿部さん

阿部さん
走行中のクルマ周辺の空気の流れは複雑です。空気が流れる力によって発生する揚力(ようりょく)、抵抗、圧力、速度などの変動は、クルマの性能に密接にかかわります。

阿部さん

阿部さん
ここでいうクルマの性能とは、操縦安定性、騒音、燃費などのことです。つまり、空気の流れを制御する=空力を追求することによって、そうしたクルマの性能を調節することができるんです。

 

クルマと空力の関係
空気の流れをコントロールすることが、クルマの性能を左右する!

 

― 揚力(ようりょく)とはどんな力ですか?ダウンフォースとの関係は?

阿部さん

阿部さん
先ほどの主翼の例でいうと、翼上下で生じる圧力差によって上向きの力が働きます。これを揚力(ようりょく)といいます。

 

翼まわりの空気の流れの図

 

阿部さん

阿部さん
レーシングカーなどでは、この揚力の原理を上下逆さまに利用して地面に車両を押し付ける力を発生させるんです。この下向きの力を「ダウンフォース」といいます。

阿部さん

阿部さん
下図はそのイメージ図です。後輪駆動のレーシングカーでは、その強大なエンジンのパワーを無駄なく路面に伝えるために、空気の力を利用します。大きなリアウィングによって、流れてくる空気に下向きの力を発生してもらうんです。その力がダウンフォースです。

 

ダウンフォースのイメージ図

ダウンフォースのイメージ図

 

― 私たちが普段乗るようなクルマにも関係がありますか?

阿部さん

阿部さん
私たちが普段乗るクルマ(市販車)の開発現場でも、揚力バランスやダウンフォースはクルマの操縦性を左右する重要な要素のひとつです。ただ、下向きの力=ダウンフォースを最大にすることだけが重要なわけではありません。市販車は、レーシングカーに比べて路面、速度、風向きなど、多くの変化のもとで走る必要があります。

 

― 市販車ではスピードだけが追及されているわけではないからですか?

阿部さん

阿部さん
そうです。クルマの曲がりやすさ、直進のしやすさ、乗り心地、騒音、燃費などを総合的に達成するためには、ダウンフォースだけではなく4つのタイヤにかかる力のバランスや、空気によって発生する抵抗を調節することで、より高い操縦性や快適性を目指す必要があるからです。

 

いろんな名前のパーツの違いを教えてもらおう!

― アンダースポイラーとロアスカートは違うものですか?

阿部さん

阿部さん
どちらも働きは同じです。機能を表すSpoiler(無効化する)を使った表現が「アンダースポイラー」、見た目を表すSkirt(スカート)を使った表現が「ロアスカート」です。車種の性格や、どういった機能をお客さまに届けたいかなど、売り手の意思によって呼び方が異なってくるのだと思います。

 

Honda「FREED フリード」のロアスカート。上からフロント用、サイド用、リア用と分けられている。名称はスカートだが、スポイラーの一種

Honda「FREED フリード」のロアスカート。上からフロント用サイド用リア用と分けられている。名称はスカートだが、スポイラーの一種

 

― リアスポイラーとリアウィングはどう違いますか?

阿部さん

阿部さん
市販車に関していえば、基本的には同じです。上で説明したようにスポイラーとウィング(翼)は、本来は明確に役割が異なるのですが、市販車のオプションパーツという観点では基本的に同じ。上で説明した「ロアスカート」と「アンダースポイラー」の違いと同様に、見た目あるいは役割の違いをネーミングによって表しているのだと思います。

 

国内最高峰のカーレース「SUPER GT GT300」で走るHonda「NSX GT-3」につけられたリアウィング

国内最高峰のカーレース「SUPER GT GT300」で走るHonda「NSX GT-3」につけられたリアウィング

 

Honda「シビック」トランクスポイラー ウイングタイプ(販売終了)

Honda「シビック」トランクスポイラー ウイングタイプ(販売終了)

 

― トランクスポイラー、テールゲートスポイラーの違いは?

阿部さん

阿部さん
「トランクスポイラー」は、装着する部分がトランクなのでトランクスポイラーと呼ばれています。同様に「テールゲート」につけるスポイラーはそのまま「テールゲートスポイラー」と呼ばれることが多いです。

阿部さん

阿部さん
車両のカタチによって空気の流れ方は異なるので、トランクスポイラーとテールゲートスポイラーの空力的な役割は厳密には異なりますが、商品としての役割は同じと言えるでしょう。

 

いろいろなテールゲートスポイラー(左上:フィット、右上:シビックTYPE R、左下:N-BOX、右下:シャトル。[すべてHonda車])

いろいろなテールゲートスポイラー(左上:フィット、右上:シビックTYPE R、左下:N-BOX、右下:シャトル。[すべてHonda車])

 

Honda「インサイト」のトランクスポイラー。トランク部分に装着されている

Honda「インサイト」のトランクスポイラー。トランク部分に装着されている

 

― ダックテールというのもありますよね?

阿部さん

阿部さん
見た目上の違いで、同じくスポイラーの一種です。翼形状やトランク上面にせり上がるスポイラー形状と区別するため、トランク後方に上面を延長したような形状のものをダックテール(アヒルのおしり)と呼ぶようになったんだと思います。

 

Honda「シビック」トランクスポイラー ダックテールタイプ(販売終了)

Honda「シビック」トランクスポイラー ダックテールタイプ(販売終了)

 

車検は通るの?

車検のイメージ写真

 

― スポイラーを付けていても車検は通りますか?

阿部さん

阿部さん
日本では保安基準にて車両外装の寸法、形状が規定されており、安全のためにその項目を守る必要があります。スポイラーも例外ではありません。もちろんこれに抵触するものを装着した状態で車検は通りません。私たち作る側は特に注意しなければならない部分ですね。

 

純正品と市販品の違いは?

― メーカー純正品と市販品の大きな違いはなんですか?

阿部さん

阿部さん
車両に取り付けるスポイラー、という意味では商品としての大きな違いは無いと思います。

阿部さん

阿部さん
ただ、私たちホンダアクセスはHonda純正アクセサリーメーカーとして量産車と同時期に開発しているので、車両側の特徴、特性を十分に理解しながら作っています。また、それによって車両の発売と同時にお客さまにお届けすることもできます。純正品として上記のような開発を厳しい基準で行っているので、ディーラーで購入いただく純正アクセサリーは、安心して長く使っていただける品質のものを、自信を持ってお客さまにおすすめできると考えています。

 

究極のクルマを目指すコンプリートカーModulo Xとは?

Honda「VEZEL Modulo X」

Honda「VEZEL Modulo X」

 

― スポイラーは見た目重視にも思えるのですが、空力にこだわったスポイラーは市販されているのでしょうか?

阿部さん

阿部さん
私たちは性能目標をもってディーラーオプション品を開発しており、ホンダアクセスの「Modulo」のエアロパーツはどれも空力にこだわって開発されています。

阿部さん

阿部さん
また、コンプリートカーである「Modulo X」シリーズは、その性能目標が車両まるごとの完成形として設定されています。これはつまり、他の専用パーツ(前後左右のスポイラー、サスペンション、ホイール、シートなど)との相互のマッチングを十分に図りながら開発しているということです。その開発のこだわりについては、下記の動画をぜひご覧ください。

 


 

※ 「Modulo X」シリーズとはHonda車を知りつくした熟練のエンジニアが、ベースとなる車両にさらなるこだわりをもって磨き上げたコンプリートカーブランド。

 

― 「Modulo X」シリーズのスポイラーは、空力も見た目もともに考慮しているということですか?

阿部さん

阿部さん
もちろん「空力」と見た目としての「ドレスアップ」の両立を図って開発していますが、見えない部分にも細部に渡って工夫をこらして「空力」を突き詰めています。通常、サスペンションなどの部品の開発では、クルマの動作の量やバランス、動き方を調整する「セッティング」と呼ばれる作業が行われますが、Modulo Xシリーズではまさしく「空力のセッティング」を行っています。

阿部さん

阿部さん
車両全体を考えて開発をしているModulo Xは、デザイナーの意思(実現したいカタチ)を守りながらも、細部にまで調整が及ぶので、一部のスポイラー単体の効果だけではなく、車両トータルとしての完成度を高めることができます。

 

― 本日はどうもありがとうございました!

 

VEZEL Modulo Xと阿部さんの写真

 

VEZEL Modulo Xの詳細はこちら!

文/カエライフ編集部
写真/カエライフ編集部