ハンズフリー通信キット:懐かしの車の純正オプションをしのぶ会 ②

懐かしの純正オプションをしのぶ会②ハンズフリー通信キットのアイキャッチ画像

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…時代によってクルマの流行も移り変わってきましたが、クルマのオプション(付属品)にも時代を映すものがありました。すでに販売終了となったクルマのオプション(ここでは純正アクセサリー)について、当時のカタログ写真とともにオプション本人の声として紹介する連載企画。

題して、クルマの純正オプションをしのぶ会。今回は、ハンズフリー通信キットです。

当時を知る人は、クルマとの懐かしい思い出に浸る気持ちで、当時を知らない人は、往年の人気番組を見るような気持ちで、それぞれお楽しみください!

 

ハンズフリー通信キット氏:私のこと、知ってます? 知らない人のほうが多いんじゃないでしょうか…。 え? それでも話します? わかりました、私の歴史みたいなものを話せばいいんですよね。

カタログ上では存在感がうすくて、大々的に取り上げられたことは多くないんです。だいたいページの端っこのほうにちらっと取り上げられるタイプで…。まあ、カタログには写真さえなくて、巻末の一覧に文字だけで出てるなんて思い出もありますね。

私、エアロパーツさんのような派手さがまったくないからですかね。サイズもほら、かなり小さいですし、デザインもそれほど重視されないですから。あ、ついつい冒頭から話しすぎました。私、ちょっとおしゃべりでして…。とにかくそんな私を取り上げていただき、どうもありがとうございます。

はい、歴史ですよね、えっと1992年に「ハンドフリーユニット」というアクセサリーが登場しました。これが直系の先祖、というか私の親にあたりますね。

携帯電話ハンドフリーユニット(92年シビックの純正アクセサリーカタログより)

携帯電話ハンドフリーユニット(1992年シビックの純正アクセサリーカタログより)

そもそもこの「ハンドフリーユニット」ってどういうものだかご存じですか? マイクとスピーカーが内臓されたユニットに携帯電話をセットすることで、ハンドフリーで通話ができるようになるアイテムです。

いまどきだと、Bluetoothでナビにつなげて通話する人も多いんでしょうかね。当時はまだナビ自体がありませんでしたし、携帯電話もまだまだ出始めたころ。その形状も黒電話の受話器のようなものでした。

運転席の横にそのユニットをセット。そうすれば、手で電話機を持たずに話すことができる、というのが私の親にあたる「ハンドフリーユニット」の役割です。

地味なアイテムに思われるでしょうね…。でも誕生当時は、大きく紹介されたと聞いております。

当時のカタログをご覧ください。1992年のものです。「世界初」という文字がカタログに踊っております。「世界初」ですよ、そうカンタンに書けないワードです。本当に誇らしいことですね。

携帯電話ハンドフリーユニット(92年シビックの純正アクセサリーカタログより)

「世界初」と大きく書かれた当時のカタログ写真(1992年シビックの純正アクセサリーカタログより)

携帯電話の普及率が、1993年にはまだ3.2%です。『ポケベルが鳴らなくて』という歌が大流行したのが同じく1993年なので、まだ時代は携帯以前のポケベル全盛時代です。ポケベル、知ってますか? 懐かしいですね。公衆電話から番号だけでメッセージを伝えたりしてね。女子高生がおそろしい速度で公衆電話のボタンを連打する光景もよく見かけたものです。

あ、ついおしゃべり癖で話がそれちゃいました。とにかくそんな当時に、携帯電話をハンドフリーで使えるアイテムとして登場したのです。世界初というのもうなづけますよね。この後、携帯電話が急速に普及していく未来を知っている現在から見れば、まさに先見の明をもったアクセサリーだったといえるんじゃないでしょうか。

携帯電話ハンドフリーユニット:1992年のHondaプレリュードの純正アクセサリーカタログより

1992年のHondaプレリュードの純正アクセサリーカタログより

世界初という鳴り物いりで登場したハンドフリーユニットでしたが、95年に入るころにはいったんカタログから姿を消してしまいました。

94年の時点では、携帯電話の普及率はまだ5.8%。普及率が50%を超えるのは、98年を待たなくてはならず、登場が早すぎたのかもしれません。

2年ほどのブランクを経て、97年後半ごろから「ハンドフリー通信キット」として、各車種に復活・登場していきます。これが私ですね。つまり、私は親の顔を知らないんですよ。

99年には道路交通法の改正があり、運転中の携帯電話の使用が禁止されるようになった時代です。急速に普及していた携帯電話、それを車内で安全につかう方にむけて販売されるようになったのが私だったというわけです。

ハンドフリー通信キット(97年シビックの純正アクセサリーカタログより)

ハンドフリー通信キット(1997年シビックの純正アクセサリーカタログより)

 

上が私が誕生したときのカタログです。カタログ上ではNewなんて付けてもらいましたけど、紙面上のスペースは割とひっそりとしていました。「世界初」で登場したハンドフリーユニットとは扱いがちょっと違いましたね。

私たち「ハンドフリー通信キット」が従来のハンドフリーユニットと違うのは、ホルダーが別売りだった点でしょうか。

携帯電話ホルダー(98年シビックの純正アクセサリーカタログより)

携帯電話ホルダー(1998年シビックの純正アクセサリーカタログより)

 

携帯電話がどんどんと普及していった時代で、私たちもいろんな方に使っていただくようになっていきました。

ただ、このころ同時にカーナビも徐々に普及していったのです。2000年代に入ると、その出荷台数は右肩あがり。ナビの進化とともに、私の機能は自然とナビに吸収されていくことになったのです。カタログが見開きで最大8ページもナビにさかれていることもあったくらいですからね。ナビを付けるのが当たり前になっていった時代でした。

この時代には、ナビのオーディオシステムを使って携帯電話のハンズフリー通話を可能にするアクセサリーがたくさん出ました。以下、ざっと紹介します。

  • 2001年ごろ:インターナビ(インターネットと連動したHondaの純正ナビ)と連動して使うタイプの「ハンドフリー通信キット」が販売。
  • 2004年ごろ:「インターナビ ハンズフリーTELコード」が販売。
  • 2007年ごろ:Bluetoothで携帯電話をナビにつなげる各種コードが販売。

インターナビシステム対応ハンドフリー通信キット:2001年アコードの純正アクセサリーカタログより

2001年アコードの純正アクセサリーカタログより

ハンズフリーTELコード:2004年シビックの純正アクセサリーカタログより

2004年シビックの純正アクセサリーカタログより

インターナビ・ハンズフリーTELコード:2007年シビックの純正アクセサリーカタログより

2007年シビックの純正アクセサリーカタログより

そのままナビに仕事を譲りながら、徐々に私は存在感を薄くしていったというのが悲しいかな実態でしょうか。純正アクセサリーとしての私の仕事は終わりは2008年ごろになります。

私の人生って割とあっけないですよね。それほど大きなイベントもなく、11年ほどの寿命をまっとうしました(世界初のハンドフリーユニットを含めれば16年ほどですね)

おまけの話で、僭越ながら私の名前「ハンフリー通信キット」なんですが、発売からしばらくはハンフリー通信キットでした。え、そんな細かいこと? 渡邉さんと渡邊さんの違いみたいなもんで(わたなべさんには失礼かもしれませんけど)、些細といえばそうですが、本人にとっては気になるんです。

いつ変わったのかというと、2006年11月ごろまでは「ハンド」だったんです。それが2007年6月ごろに「ハンズ」に変更されました。ナビとつなぐTELコードは2004年の時点ですでに「ハンズフリーTELコード」だったりするので(上写真参照)、遅ればせながらそれに合わせたのかもしれませんね。販売終了直前に名前を変えられたアクセサリーは私くらいなんじゃないでしょうか。

 

先祖の話:パーソナル無線 / 自動車電話用ポスト / ハンドフリー・カーテレホン

初代のハンドフリーユニットが「世界初」として売り出されたのはほんと誇らしいことですが、私もかなり活躍はしたんですよ、16年というのは純正アクセサリーとしては取り立てて短い人生というわけではありません。でもやっぱりちょっと地味だったのと、ナビたちが大活躍しましたからね、仕方ないです。

せっかくなんで、もっと先祖の話をしてもいいですか? 私おしゃべりが好きなのに、こんなふうに話をできる機会が滅多にないもんですから…。

私の大元の先祖は、「パーソナル無線」までさかのぼれるんじゃないでしょうか。1984年のHonda プレリュードのカタログで誕生したのが最初だったようです。

パーソナル無線:84年プレリュードの純正アクセサリーカタログより

1984年プレリュードの純正アクセサリーカタログより

受話器型の「カーテレフォン」を運転席と助手席のあいだに設置するタイプのものでした。このパーソナル無線は現在のような携帯電話ではなく「無線」です。電話というよりはトランシーバーに近い存在ですね。

とはいえ自動車電話の先駆けといえるような存在です。私たちの生みの親である「ホンダアクセス」ってわりと積極的な商品展開をするんですよね。けっこう”攻め”るんです。時代を先取りした商品とか、目新しいものとか。私の親、世界初の「ハンドフリーユニット」はそんな姿勢を象徴するようなアクセサリーかもしれません。まあ、その分早すぎてあまり売れなかった商品もあるんですけどね。

あ、また話それちゃってます? そうそう、このパーソナル無線。カタログ紹介では「見知らぬドライバーたちとの情報交換とふれあいに」とも書かれているのが印象的ですね。実際に見知らぬドライバーと情報交換した人は、どれくらいいたんでしょうね。牧歌的な時代を感じさせるこの紹介文を先祖はとても喜んでいたと伝え聞いております。

別の親族に「自動車電話用ポスト」というモノもいたそうです。

自動車電話用ポスト:88年プレリュードの純正アクセサリーカタログ

1988年プレリュードの純正アクセサリーカタログより

これは自動車電話を置いておく専用スタンドで、自動車電話を別で購入した人向けのものだったようです。ただの「電話置き」といってしまえばそれまでですが・・・。とはいえ、電話機本体をすでに持っている方向けの商品という意味では、私のようなハンズフリー通信キットにもこのモノの血が流れているんだろうと思います。

パーソナル無線につづいて、通信機能をもったアクセサリーとして誕生したのが、「ハンドフリー・カーテレホン」でした。これはいわゆる自動車電話ですね。

ハンドフリー・カーテレホン:89年のアコードの純正アクセサリーカタログ

1989年のアコードの純正アクセサリーカタログより

携帯電話の前身となるPHSがサービスを開始したのが1995年。それよりも6年も前のことですから、カタログにあるように「エグゼクティブ」の「ゆとりのアイテム」だったんだろうと思います。価格もそれなりにしました。

その付属品として販売されていたヘッドレストユニットは、今思えば特徴的なシェイプをしていましたね。近未来的な形状が話題になったとかならなかったとか。

ヘッドレストユニットの写真

ヘッドレストユニット


「同乗者に聞かれることなく、耳元で通話ができます」というアイテムです。ただこれを使って話している本人の声は同乗者に聞こえちゃいますけどね…。

自動車電話であるこのハンドフリー・カーテレホンも、1994年ごろには姿を消しました。わずか5年ほどの寿命ですね。

それに比べれば、ほら、私の11年ってけっこう長いの分かっていただけました? 細く長い人生だったんです。ほそーく、ながーく愛されたアクセサリーといったら言い過ぎかもしれませんが、それもこれも使っていただいたり、販売していただいたみなさんのおかげです。この場を借りて、お礼を言わせてください。どうもありがとうございました。私おしゃべりなもんで、ついいろいろ長く話しちゃいました。またみなさんとどこかでお話できることを楽しみにしていますね。

 

※本記事の内容はHonda車の純正アクセサリーを前提に書いているため、車全般に当てはまるものではない点ご了承ください。

 

文/神山ともひろ(カエライフ編集部)