木製ハンドルが懐かしい! なぜステアリングホイールのデザインは多種多様なのか?

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記事提供元/くるくら
文/小川フミオ

 

ステアリングホイール(ハンドル)は、人とクルマをつなぐ重要なパーツのひとつだ。素材もデザインもいろんなバリエーションがあってクルマ好きを楽しませてくれる。モータージャーナリストの小川フミオがその魅力について語る。

ステアリングホイールは偉大である

丸いだけなのに、なんとも惹かれる。ステアリングホイール(ハンドル)は、クルマ好きにとって、とても大事なパーツではないだろうか。丸いといっても、素材やかたちが微妙に違うところが魅力だし、最近では円形でないものまで登場してびっくりだ。

私は幼稚園に通っていたころ、バスに乗っていて、あの丸いもの(ステアリングホイール)で巨大な車体を動かしているという事実に気づき、これこそ偉大な装置だとあがめていたのを思い出す。

どうしてステアリングホイールにはバリエーションが多いのか。アクセルペダルとかブレーキペダルには、多様性はないのに......というと、やっぱり大事な機能を担っているからなのだ。

言ってみれば、ステアリングホイールは、クルマと"対話"するための重要な道具。運転中、ドライバーは意識的にしろ無意識的にしろ、ステアリングホイールを握る手の平や指から、クルマがどんな路面の上をどんな状態で走っているかを知る。

たとえば雪の上がわかりやすいかも。タイヤが滑ってグリップを失うとき、ステアリングホイールに手ごたえがなくなることで、私たちは「あ!」と、自車が危険な状況に陥ったことに気づくものだ。

素材もデザインもさまざま

マツダ・ロードスター|Mazda Roadster
1989年に登場した初代ロードスターのVスペシャルには、ナルディ製のステアリングホイールとシフトノブが装備されていた。ウッドはマホガニーを使用していた。

ステアリングホイールは、特に、モータースポーツと密接な関係を持っている。有名なのは、イタリアのナルディだろう。1907年にボローニャで生まれ、自動車エンジニアになったエンリコ・ナルディが製作したウッドリム(丸いところが木製)のステアリングホイールだ。

1950年代にランチアやフェラーリなど多くのスポーツカーに採用されたことで人気が出たナルディ。エアバッグが普及するまでは、日本でも自分のクルマ(たとえセダンでも)にも同社のステアリングホイールを取り付けるひとが少なくなかった(私もそのひとり)。

そのあとレザー巻きが滑りにくいこともあり、機能性と、ちょっとした贅沢な気分と、そして美というさまざまな観点から広く普及するようになった。最近のスポーツカーでは、さらに滑りにくいということで、人工スエード巻きのステアリングホイールが多くみられる。

小径かつ、グリップ径が太くなっているのも、モータースポーツからの影響だ。アストンマーティンなどは、円形でなく四角に近い形状で、これもサーキットなど大きく転舵しない(ステアリングホイールを回さない)走行では、手にうまくなじんで扱いやすい。

アストンマーティン・ヴァンテージ・ロードスター|Aston Martin Vantage Roadster
四角形に近いステアリングホイールを採用する、アストンマーティン最新のヴァンテージ・ロードスター。

フェラーリ 296GTB|Ferrari 296 GTB
最新フェラーリのステアリングホイール。走行モードの切り替えスイッチはもちろん、ウインカーやワイパー、ヘッドランプもステアリングホイール上で操作が可能だ。

メルセデスAMG プロジェクト・ワン|Mercedes-AMG Project ONE
メルセデス最新のスーパーカー「プロジェクト・ワン」のステアリングホイール。ここまでくると、もはやレーシングカーそのものである。

グリップ径が太いクルマが増えたのはなぜ?

BMW 3シリーズ|BMW 3 Series
径が太めのステアリングホイールは、新型3シリーズでも引き継がれている。

そういえば、グリップ(握り)径が太くなっているのには、じつはもうひとつ理由があるとか。量産車では、BMWが太いグリップを採用したのが早かった。そのときはびっくりしたものだけれど、レクサスのエンジニアと話していたら、「ネイルを伸ばしている女性には握りが太いほうが喜ばれる」と指摘されて、もういちど私はびっくりしたものだ。

実際、といえるかどうかはともかくだけど、いまやグリップ径が太いのは当たり前になってきた感がある。当初「スポーツステアリングホイールは細いほうが繊細な操作ができる」としていたマツダでも、SUVを中心に、グリップ径が太めになりつつあるように感じられる。

以前は、1970年代から80年代にかけてのシトロエン車の1本スポーク(衝突の際に変型させてドライバーを守りやすいと説明されていた)や、アバルトがアフターマーケットで売っていた「ブーメラン」(スポークの角度が4時45分と変わっている)など、スポークにもいろいろな主張があった。これも楽しかったな。

シトロエン DS|Citroen DS
シトロエン DSから採用された革新的なステアリングがこの1本スポークと呼ばれるもの。衝突の際の衝撃吸収のため8時の位置にオフセットされていた。

まだまだ進化する!

最新の動きは、レザーからの脱却だ。グリーンとかベジー(菜食主義)などと通称されるレザーフリー(革不使用)の内装が、高級車の世界で広がりつつある。とくに北米の富裕層がそれを要求するとか。

軽自動車だってレザーフリー。だけど、高級車だとウッド(ただし栽培と伐採の認可を得たものにかぎる)や金属などを使うところが、合成樹脂で成り立っている軽自動車とは違うんです。

ベジーインテリアの先駆けは米国テスラ。きっかけは、株主総会で、天然皮革は残酷だから使わないでほしい、と注文があったことだとか。シートは人工皮革で作れたが、ステアリングホイール用の人工皮革はハードルが高かったらしい。

それでも、テスラは開発に成功。予備知識なしに、たとえば同社のモデル3に乗り込んで、シートに身を落ち着け、ステアリングホイールを握ると、上等な感触だ。私も、試乗のあとで「あれは人工皮革です」と広報担当者から聞かされて、びっくりした記憶がある。

びっくりといえば、円形からの脱却も、いよいよ始まりそうだ。レクサスの電動車「RZ」を皮切りに、トヨタ「bZ4X」では、軸なしのステア・バイ・ワイヤを量産車に搭載する。ステアリングホイールは信号だけになり、転舵はモーターが行う。ぐるぐる回す必要がなくなるため、すでに公開されている画像をみると、これらのクルマのステアリングホイールは円形ではない。もはやホイール(輪)と呼べない。

実際に運転してみてどうか。私はいまのところプロトタイプを以前操縦させてもらったことがある。そのときは、楽チンでびっくりした。量産車のほうは、追って報告させていただきますので、お楽しみに。

レクサス RZ|Lexus RZ
レクサス初のBEV専用モデルとしてまもなくデビューするRZ。先進の電動化技術を満載するクルマにふさわしく、ステアリングはステア・バイ・ワイヤを採用する。航空機の操縦桿を彷彿とさせる未来的デザインが特徴だ。

 

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※この記事は、くるくらに2022年7月4日掲載されたものです。