ジムニー シエラをオフロード仕様にカスタム! 自然写真家・瀬尾拓慶さんの撮影旅に密着【車中泊×アクティビティ連載Vol.04】

ジムニーシエラの荷室に座る瀬尾さん

スマホやSNSの普及により、以前よりも写真を撮影することが身近になっています。まだ見ぬ景色を求めて、クルマで遠く離れた場所へ旅する人も多いのではないでしょうか。

アウトドアアクティビティを楽しむために愛車をカスタムし、その活用術を取材する連載企画。第3回は「クルマはカメラと同じく重要な撮影機材です」と語る自然写真家の瀬尾拓慶さんにインタビュー。

瀬尾さんはスズキのジムニーシエラをカスタムし、日本各地の山を訪れ、その土地ならではの景色や動植物を独自の視点で切り取り、作品として発表してきました。今回は、実際に奥多摩の撮影旅行に密着し、クルマの使い方やカスタムのポイント、撮影に関するこだわり、自然写真を撮影したい人へのアドバイスを教えていただきました!

笑顔の瀬尾さん
瀬尾 拓慶
1990年生まれ、神奈川県出身。幼少期より音楽や自然とデザイン制作環境に囲まれ育つ。多摩美術大学環境デザイン学科を卒業後、写真家の道へ。車中泊をしながら林道を通って山奥へと通い、空間における光を意識した作品作りをおこなっている。カメラカタログなどの広告媒体への作品提供をはじめ各種媒体へ作品提供やデザインを手がける。
ホームページhttps://www.takumichi-seo.com
Facebook@Takumichi.S
Instagram@takumichi.seo
Youtube@Photographer Takumichi Seo
本記事の取材の様子をこちらの動画
で公開中。

 

↓↓↓過去の連載記事【車中泊×アクティビティ連載Vol.01】はこちら↓↓↓

 

↓↓↓過去の連載【車中泊×アクティビティ連載Vol.02】はこちら↓↓↓

 

↓↓↓過去の連載【車中泊×アクティビティ連載Vol.03】はこちら↓↓↓

 

目次

 

自然写真家 瀬尾拓慶さんが切り取る、光と影

笑顔でインタビューに答える瀬尾さん

雨上がりの5月某日の奥多摩。アウトドアに出かけようと思ったときに天気が崩れ模様だとテンションが下がるものですが、瀬尾さん曰くネイチャーフォトの場合はむしろ雨が降りそうなときのほうが絶好のチャンスのよう。

撮影旅の前にまずは、瀬尾さんが写真家の道を志したきっかけ、愛用のカメラ、クルマのことについてお話をうかがいました。

瀬尾さん:もともと僕は幼少期から渓流釣り好きの父と一緒に山奥に出かけて、そこで出会った自然の美しさを表現したいと思ったのが、写真家になった原点です。大学では建築や空間デザインを学んでいたのですが、そこで気づいたのが、風景の美しさを構成しているのは面に当たった光と影の対比だということです。

写真を撮り始めた当初は街中でスナップ撮影をしていたのですが、そのことに気づいてからは自然のなかで作品撮りをするようになりました。やはり、山のなかのほうが様々な光と出会うことができるんです。

 

瀬尾さんが愛用する、PENTAX K-1 Mark II J limited 01とPENTAX K-3 Mark III

左:「PENTAX K-1 Mark II J limited 01」 右:「PENTAX K-3 Mark III」

そんな瀬尾さんの愛機がペンタックスのカメラたち。現在は「PENTAX K-3 Mark III」や「PENTAX 645Z」に加えて、「PENTAX K-1 Mark II J limited 01」を愛用中。

瀬尾さん:もともと父親がペンタックスの愛用者で、僕も写真を撮り始めたときに父親から譲ってもらったんです。が、そのカメラが壊れていたので修理に持ち込んだところ「直すよりも新しいモデルを買ったほうがいい」と言われて……、以来、ずっとペンタックスユーザーです。

 

カメラの設定風景

撮影時は画面に目を向けず、慣れた手つきであっという間に設定を完了。

瀬尾さん:僕の今の作風ができたのはペンタックスのおかげと言っても過言ではありません。というのも、現在のデジカメ撮影においては、Raw(まったく処理をしていない生データ)で撮影しておいてLightroomやPhotoshopでレタッチをおこなうのが一般的な手法。

ですが、僕は見たときの感動をそのまま表現したいので、レタッチを一切おこなっていません。そのため、色温度や色相など様々な設定を撮影の瞬間にカメラ内で調整するのですが、ペンタックスは直感的に操作できるんです。

 

カメラの設定風景

ペンタックスには、さまざまな撮影モードが搭載されており、その使い勝手が極めて優秀なことでも知られています。しかも、この「PENTAX K-1 Mark II J limited 01」では、瀬尾さんが普段ネイチャーフォトで使用している設定が「PH-mode T.Seo」としてあらかじめ内蔵されています。

瀬尾さん:このモードにすれば、あとはシャッタースピードや絞り、露出等の設定だけで誰でも雰囲気のある写真を撮れますよ。

 

腰のカメラホルスターにカメラを装着する瀬尾さん
腰のカメラホルスターにカメラを装着する瀬尾さん

瀬尾さん:それから、山中を歩くことが多いので、ストラップではなく腰につけるカメラホルスター「スパイダーホルスター」を使って、腰から提げるようにしています。

これなら両手がフリーになるので、茂みを掻き分けながら歩いたり、岩場を登る時に便利です。また、山の中をブラブラとカメラが揺れることなく安定するので疲れにくいですし、カメラをぶつけたりする心配がありません。

 

撮影道具として、旅を共にする愛車・ジムニー シエラ

ジムニーシエラの外装(フロント)

ここからは、瀬尾さんの愛車・スズキのジムニー シエラについてご紹介。

ジムニー シエラは、軽自動車のジムニーと見た目の違いはほとんどありませんが、排気量がジムニーは『658cc』、ジムニー シエラ『1460cc』と大きく異なります。瀬尾さんは、遠方の山へ出かけたり、林道をはじめとした悪路を走ることが多いことから、ジムニー シエラを選んだそう。
「黒蔵」とニックネームをつけて可愛がっているようですが、ご本人曰く「今ではカメラと同じぐらい重要な撮影機材のひとつ。あくまで道具なので、枝で擦れたりドロドロになっても気にしていません。今回の撮影に備えて久しぶりに洗車しました(笑)」とのこと。

 

ジムニーシエラの外装(サイド)

瀬尾さん:ジムニー シエラを買おうと決めたのは、奥多摩で写真撮影を趣味とする飲食店の店主から勧められたからです。中古車をいろいろと見てまわったのですが、好みだった黒のボディカラーを見つけたので、すぐ決めました。

手に入れてからはジムニー専門ショップのAPIOさんにクルマの使用用途を伝え、少しずつカスタムしていきました。

 

ジムニーシエラのリアゲート

もともと悪路走破性に長けたジムニーですが、そこからさらに足回りが明らかにオフロード用に変わっていることに加えて、なにより目を惹くのがリアに着けられたシャベル。林道走行への本気ぶりが伝わってきます。

瀬尾さん:初代のシャベルは折れてしまったので、こちらは2代目です。シャベルは林道を走るときに土や石などを除去するなど、ギャップ(障害物)を回避するために欠かせないアイテムですね。汚れた状態で荷室に入れるのもイヤなので、蝶ネジでタイヤと一緒に留めてあります。

 

スーパーチャージャーを取り付けたジムニーシエラ
スーパーチャージャーを取り付けたジムニーシエラ

瀬尾さん:ジムニー シエラは1500ccのエンジンを搭載した普通車なので比較的パワーがあるのですが、僕の場合は奥多摩や長野など、高速道路を利用して長距離走行することが多い。

そのため、スーパーチャージャーを取りつけてパワーアップを図っています。長距離移動はもちろん、山道で急な坂道を登るときもパワー不足を感じなくなりましたね。

 

最小限のギアが積み込まれた荷室

瀬尾さんのジムニーシエラの荷室

次に、インテリアを見てみましょう。一般的なキャンプユーザーの場合、ジムニーの荷室に車中泊のさまざまな道具を積むとゆとりがなくなる印象ですが、瀬尾さんの場合はかなり余裕がありそうです。

瀬尾さん:僕は三脚も使いませんし照明機材も必要ない。そもそも自然のなかに持って行ける撮影機材には限りがあるので、ジムニーの荷室でも十分ですね。キャンプのようにゆったりと過ごすのではなく、撮影のために現地まで足を運び、ときにシャッターチャンスを待つための道具なので。

 

コンテナボックスの中身

山中で安全を確保するために必要な道具類はコンテナボックスにまとめて収納しているそう。

瀬尾さん:ロープや蚊取り線香、コッヘル(携帯用の小型調理器具)やカセットコンロなどの調理器具や、ポイズンリムーバー(蛇に咬まれたり毒虫に刺されたときに毒を吸い出す道具)、バッテリー付きのジャンプスターターなどが入っています。

山のなかではいつ他のクルマが通るかわからないため、ジャンプスターターとブースターケーブルの両方を備えておくようにしています。一度、山中でバッテリーが上がってしまって、エンジンが掛からなくなったことがあるので、それ以来、トラブルに対する備えはしっかりと。

 

ジムニーシエラに取り付けられた、「荷室フラットデッキ タイプ3」

瀬尾さん:荷室がフラットになるよう、APIOの「荷室フラットデッキ タイプ3」を取りつけています。車中泊時に快適になりますし、見た目もワイルドで気に入っていますね。

それにデッキ下のスペースにも道具を収納することができるので無駄がありません。ここはカセットコンロの予備など、こまごまとしたものを収納しています。

 

カスタム①:コンパクトで手軽な折り畳みベッド

瀬尾さんの撮影旅は前日夜にお目当ての場所に辿り着き、日の出とともに行動することが多いそう。そのため車中で仮眠を取ることが欠かせないそうです。瀬尾さんの場合は、ホームセンターで手に入れた合板と蝶番を使い、ベッドキットを自作しています。

 

折り畳みベッドを持つ瀬尾さん

瀬尾さん折り畳むと手で持てるぐらいコンパクトで軽いですし、邪魔になりません。各社からジムニー用のベッドキットが発売されているのですが、取りつけるためにシートを外したりする必要があるので、敢えて自分で作ることにしました。安定性は既製品と比べて劣るかもしれませんが、車中泊がメインではなく、撮影が目的なので、これで十分です。

 

折り畳みベッドの設置風景

組み立て方は、まず、助手席の隙間にヘッドレストとクッションを敷いて、その上からベッドキットをかぶせます。

 

折り畳みベッドの設置風景

リアシートも同様にヘッドレストを使って隙間を埋めつつ、キットの継ぎ目部分を固定。「このときに「荷室フラットデッキ タイプ3」の凹凸に引っ掛けるようにヘッドレストを置くと、安定性が増します」と瀬尾さん。

 

ジムニーシエラに折り畳みベッドを設置する瀬尾さん

折り畳みベッドの設置風景

全体の調整をすると、想像以上にフラットな空間が登場。

折りたたみベッドの上に敷いたスリーピングパッドとシュラフ

折りたたみベッドの上にスリーピングパッドとシュラフを敷いて完成。

瀬尾さん:撮影以外でも使用するクルマなので、運転席のシートを残したまま寝られるところが気に入っています。寝返りは難しいぐらいの横幅ですが、全長は190cm近く確保してあるので、足を伸ばしてぐっすりと寝て、撮影前に体力を回復できます。

 

カスタム②:見た目よりも機能を優先したオリジナルタープ

ベットキットに加えて瀬尾さんがDIYで作ったのがタープ。リアのバックドアが横開きのジムニーに合わせて、自分でカスタマイズしてコンパクト化した優れモノです。ただでさえ天候が崩れがちな山中で、撮影のタイミングを待つ際に欠かせないアイテムだそう。

 

ジムニーシエラにタープを設置する瀬尾さん

瀬尾さん:タープそのものはHARUSEのサンライトガードというジムニー用に作られたもので、もともとジムニーで釣りに行く人のために開発されたものだそうです。本来はアルミポール(伸縮不可)が付属していてピシッと貼ることができるのですが、すべて取り外しています。

 

ジムニーシエラにタープを設置する瀬尾さん

瀬尾さん:付属のポールの代わりに伸縮式のポールをホームセンターで手に入れて、車内に据えつけておき、必要なときに伸ばせば簡単に張れるようにしてあります。ひとりで山のなかで使うものなので、見た目よりも使い勝手を優先しています。

 

カスタム③:快適な乗り心地を実現する足回り

つづいて、荒れた路面を走ることも多い瀬尾さんにとっては要といえる、足回りをチェック。ノーマルの状態でも高い悪路走破性を誇るジムニー シエラですが、カスタムすることでより山の奥まで安心して入っていくことができるようになります。

 

瀬尾さんのジムニーシエラのタイヤ

まず、ホイールはワイルドボアXの15インチアルミに交換。タイヤは耐久性・耐摩耗性に優れ、砂や岩、泥など様々な悪路を走破できる性能がありながらも、街中も快適に走ることができます。

 

瀬尾さんのジムニーシエラに設置された牽引フック

フロントには万が一の場合に備えて牽引フックのT9を追加。こちらも9mm厚のスチール製で堅牢かつレッドの塗装が施されたAPIO製です。

 

マフラーを指差す瀬尾さん

瀬尾さん:純正マフラーのルックスがあまり好みではなかったので交換しました。パワーも出ますし、静かな林道を走っていても悪目立ちするような音はしないので、警戒心を与えず、野生動物と遭遇できる確率も下がらないように思います。

 

瀬尾さんのジムニーシエラに取り付けられたサスペンション

そして、サスペンションは「A2000Tiつよし君RE50安心キット」に変更したことで、車高が約2.5インチ(60mm)アップ。

瀬尾さん:こちらもAPIO製なのですが、このまま車検を通すこともできます。林道を走っていて一番怖いのが、岩にヒットして走行不能になること。ですので、サスペンションで最低地上高を上げつつ、ボディ下の弱い部分はプレートを追加して保護するようにしています。

この「A2000Tiつよし君RE50安心キット」にはプリロード(サスペンションの減衰性能の強弱をワンタッチで変える機能)が付いており、通常は悪路を走るときは柔らかめに設定し、高速走行などでは硬めに設定することができます。

 

カスタム④:撮影の視野を広げるルーフラック

ルーフラックは、通常荷物を積むために設置することが一般的でしょう。しかし、瀬尾さんは荷物を積むためではなく、撮影台として自分が登るために取りつけています。

 

瀬尾さんのジムニーシエラに取り付けられたルーフラック

ルーフラックを登る瀬尾さん

瀬尾さん:リアステップと予備タイヤを使って登り降りしています。前に使っていたルーフ キャリアは木の枝にヒットして壊れてしまったので、より頑丈なフロントランナー製に変えました。これならそうそう壊れないし、安心して登ることもできますね。

 

ルーフラックの上から撮影をする瀬尾さん

瀬尾さん:自分の前にブッシュ(藪)があって撮影の画角が取れないときや野生動物を探すときなどに、屋根の上に登ることが多いですね。

それから、単にぼーっとするときも車内にいるよりも屋根に登ってしまえば開放感を楽しめます。屋根に登る際にプリロードを一番硬く設定しておけば、揺れを気にすることなく撮影に集中できるんです。

 

ルーフラックの上に座る瀬尾さん

 

愛車・ジムニー シエラと共に山奥へ! 瀬尾さんの撮影旅に密着

愛車をじっくり見せてもらったところで、山のなかに入り、瀬尾さんが撮影していく様子に密着しました。手慣れた様子で奥多摩の林道に入っていく瀬尾さんですが、コースの決め方などはあるのでしょうか?

瀬尾さん:まずは大前提として、林道はクルマの通行を意図したものではなく林業や森林整備のための作業用の道路です。

そのため自治体によってはクルマで入ってはいけないと規則で決まっているところもありますし、去年入れたからといって今年も入れるとは限らない。出かける前に規則についてきちんと調べておきましょう。

 

林道を走る瀬尾さんのジムニーシエラ

瀬尾さん:そして、路肩が崩落していたり行き止まりで延々とバックで戻らないといけないこともあるので、絶対に無理をしないことが重要です。

クルマを走らせながらどこで切り返しができるかチェックしながら進むべきですし、不安に思ったらクルマを降りて先のほうまで歩き、道の状況を確かめることも大事です。それから、どこまで戻れば携帯の電波が入るかもこまめにチェックしておきましょう。

 

ジムニーシエラを運転する瀬尾さん

瀬尾さん:周囲の状況を把握しながら走らせていると、いい光景に出会えることがありますよ。とくに今の時期(5月中順)の奥多摩は深い谷間に新緑が映えて光の落ち方も非常に綺麗ですし、少し前の時期ならツツジが満開で美しかったです。その時々にベストな場所を探してまわるのもネイチャーフォトの楽しさだと思います




ちょっと待ってください!!!

 

ニホンカモシカを撮影する瀬尾さん

突然、クルマを降りたと思うと、カメラを構えて忍び足で進んでいく瀬尾さん。その先にはなんと特別天然記念物のニホンカモシカがのんびりと草を食べていました。急遽、撮影モードに入った瀬尾さんは最終的にニホンカモシカの5m近くまで近寄ることに成功していました。

 

瀬尾さんが撮影したニホンカモシカ

瀬尾さんが撮影したニホンカモシカの写真

瀬尾さん:この辺りはたまにニホンカモシカがやってくるのは知っていましたが、出会ったのは久しぶりです。

 

森の中に入っていく瀬尾さん

その後、ジムニー シエラを路肩に停めると、よりフォトジェニックな風景を目指して手慣れた様子でどんどんと山の奥に分け入って行く瀬尾さん。

 

森の中に入っていく瀬尾さん

瀬尾さん:奥多摩は山というよりも、谷の連続というべき急斜面が続きます。足元には常に注意を払うべきですし、毒虫や棘のある植物にも気をつけましょう。それから、熊や猪などの野生動物も多い。僕の場合は野生動物と出会いたいこともあって熊鈴をつけないこともありますが、熊スプレーは常備するようにしています。

 

奥多摩の森の風景

森の中で撮影ポイントを探す瀬尾さん

キャンプやアウトドアに出かけて自然の風景を撮ったものの、目の前に広がる光景は綺麗なのに写真に収めるとなんだかつまらない、という経験をしたことがある人も多いのでは? そこで瀬尾さんに自然のなかで撮影するときの極意を教えてもらいました。

瀬尾さん:なんとなく間伸びした写真になってしまうのは、見つけた被写体を撮ろうするあまり、周囲を空間として捉えていないことが原因のひとつです。空間は光と影のコントラストで構成されていますから、被写体を撮るというよりも光と影を撮るイメージで撮影してみてください。

 

森の中で撮影をする瀬尾さん

瀬尾さん:たとえば、被写体を撮りたいあまりに、前にある岩や木々を省いて構図を決めがちですが、むしろ前ボケとして入れ込んだほうが周囲の情景が伝わることもあります。

たとえばこの岩も上面は光が当たっているけれど、側面は影になっていて立体的じゃないですか。山を歩いていると、なにもないように見えるものこそ、実はフォトジェニックだったりするものです。

 

瀬尾さんが撮影した奥多摩の沢

瀬尾さんが撮影した写真

森の中で撮影ポイントを指差す瀬尾さん

森の中で撮影をする瀬尾さん

瀬尾さん:一般的には日の丸構図を避ける(中央に被写体を置く構図)や三分割法を意識する(画面の縦横を3つに区切って構図を作る)といった手法が大切と言われていますが、僕はまったく意識していません。それよりも、構図作りにおいては光のほうが重要です。

僕は「光の階段」という概念を提唱しているのですが、構図のなかに光と影が階段上に登場すると奥行きが生まれて良い写真になりますよ。

 

瀬尾さんが撮影した奥多摩の岩場

瀬尾さんが撮影した写真。手前から奥に向かい中央→左→右へと配置された大きな岩に光が当たり、それぞれの側面が影になっていることで光の階段が表現されている

瀬尾さん:とくに縦構図は間伸びしやすいと言われているのですが、光の階段を意識すると非常にいい写真が撮れます。

 

iPhoneで撮影をする瀬尾さん

瀬尾さん:スマホでネイチャーフォトを撮るときは、被写体にフォーカスをしたあとで暗めに撮ると雰囲気が出るように思います。

というのもスマホは自動で最適な明るさに調整するようになっていますが、実際の森の雰囲気はそれよりも暗くてしっとりと湿り気を帯びている。その雰囲気を写真上で表現するには露出を暗めにするのが手っ取り早いんです。

 

瀬尾さんがiPhoneで撮影した奥多摩の沢

瀬尾さんがiPhoneで撮影した写真

 

人との繋がりから、より良い景色に出会える

写真家の道を進み出した7年前以来、自然の美しさだけでなく魅力的な地元の人たちとの出会いもあり、足繁く奥多摩に通うようになった瀬尾さん。撮影旅の楽しみのひとつであり、美しい光景と出会いシャッターチャンスが増えるきっかけにもなる、人との繋がりについてもお話しをうかがいました。

 

鳩の巣釜めしの外観

まず最初に訪れたのが、奥多摩の入口である鳩ノ巣駅の近くにある釜飯屋さんの『鳩の巣釜めし』。瀬尾さん曰く「奥多摩周辺には釜飯を出すお店がたくさんありますが、ここが地域の釜飯屋さんの元祖的存在です」とのこと。

 

鳩の巣釜めしの店内の様子

その店内にはカワセミやヤマセミ、シカなどの野生動物を捉えた写真が飾られており、どれもイキイキとして素敵な作品。どうやら、こちらの店のご主人である岡部正樹さんはネイチャーフォトの腕前もプロはだしの写真好きのようです。

 

鳩の巣釜めしの岡部さんと話す瀬尾さん

瀬尾さん:岡部さんと出会ったのは、写真家になってすぐ、まだ電車で奥多摩に通ってた頃でした。はじめて食べたこのお店の釜飯がすごくおいしくて、もう一回食べたくなって訪れたときに、岡部さんから「写真を撮るんですか? いい写真は撮れましたか?」と話かけてもらったことを覚えています。

岡部さん:手が空いているときに写真が好きそうな人が来店すると声を掛けたりするんですが、瀬尾さんが来た日は雨が降っていて、ズブ濡れでお店に入ってきたのをよく憶えています。それで、「奥多摩で撮影するなら駅のまわりや観光スポットもいいけれど、もっと奥に行くとすごく撮影に向いている場所があるよ」って伝えたんです。

瀬尾さん:実は僕がジムニーを手に入れたのも岡部さんがきっかけ。「奥多摩で写真を撮るなら、絶対にクルマが必要だよ!」って熱く語られて、一緒にクルマに乗せてもらって林道の奥まで連れて行ってもらいました。

クルマ選びの際も岡部さんに「奥多摩は狭い道も多いからジムニーがいいよ」とお薦めしてもらって、その後すぐにクルマ探しをはじめたんです。

岡部さん:知り合ったばかりの頃は「これから写真を生業にしたいんです」と語っていて、ウチのお店の2階に泊めたりしていたけれど、あっという間にすごい写真家になってしまったよね(笑)。

瀬尾さん:僕が写真家として独り立ちできたのは、ジムニーでどんどんと山奥に入っていくことで美しい光景と出会えたから。岡部さんに「この時期はこっちの林道がいいよ」や「去年の台風であそこは通れなくなってるよ」と、奥多摩の林道について詳しく教えてもらいました。言わば写真家になれたのは岡部さんとジムニーのおかげなんです。

 

PORT OKUTAMAの入口

PORT OKUTAMAの店内の様子

そして「もう一軒、奥多摩でお世話になっているお店があるんです」と瀬尾さんが連れて行ってくれたのがこちら。奥多摩駅の2階にあるカフェと物販が一体型になったコンセプトショップの『PORT OKUTAMA』です。

オーナーの舩越章太郎さんと瀬尾さんは、『鳩の巣釜めし』のご主人を介して知り合いになったそう。

 

PORT OKUTAMAの船越さんと話す瀬尾さん

舩越さん:もともと僕は東京の三軒茶屋で音楽関係の仕事をしていた、奥多摩への移住者です。以前から奥多摩の日原エリアで音楽制作のスタジオを構えたりしていたのですが、せっかく移住したのなら地域に役立つようなことがしたいと思い、このお店を開きました。

奥多摩駅はJR青梅線の終着駅であり、豊かな魅力のある場所。奥多摩から日本中に向けて発信できる場所として『PORT OKUTAMA』を立ち上げました。

瀬尾さん:『PORT OKUTAMA』では僕のプリント作品を名刺がわりに飾ってもらったり、撮影で疲れたときには自分の家のようにゆっくりと過ごさせてもらったりしています。

奥多摩に通っているとよく「移住してしまえば?」と言われることもあるのですが、今は横浜にギャラリーを構えていてそれも難しい。その代わり『PORT OKUTAMA』が第二の家になってくれているような存在ですね。

舩越さん:『PORT OKUTAMA』ではオリジナリティある活動をやっている企業やクリエイターを積極的にサポートしていきたい。瀬尾君は奥多摩の魅力を写真というフォーマットを通じて表現してくれているから、ウチのコンセプトにもピッタリ合うと思っています。

 

まだ見ぬ景色を求めて、撮影旅は続く

森の中を歩く瀬尾さん

写真家の年齢層が比較的が高めなネイチャーフォトのジャンルで、気鋭の若手写真家として注目を浴びている瀬尾さん。最後に今後の写真家としての目標や、今後ジムニー シエラと一緒に旅したい場所について教えてもらいました。

瀬尾さん:今回訪れた奥多摩のように、写真家の道を歩むようになってから四季折々で訪れる場所が日本各地にできました。今後はそういった場所をより深く訪ねてまわって、土地や人の新たな魅力を写真で描き出せたらいいですね。

まだ訪れたことがない場所は日本にたくさんありますし、一度訪れた地域でもまだ走れていない林道はたくさんある。今後はジムニー シエラと一緒にそういった場所をひとつずつ訪ねていきたいと思っています。

険しい山のなかで機材を背負い、まだ見ぬ光景を目指して彷徨する作家活動は、タフな走りと小回りの利くボディサイズを備えたジムニー シエラが支えているようです。

鳩の巣釜めし

住所: 東京都西多摩郡奥多摩町棚澤375

電話番号:0428-85-1970

営業時間:11:00〜18:00のところ平日17:00まで。土日祝 17:30まで。

定休日:無休

PORT OKUTAMA

住所:東京都西多摩郡奥多摩町氷川210 JR奥多摩駅 2階

電話番号:0428-85-8630

営業時間:10:00~18:30(12月~3月 10:00~18:00)

定休日:水曜日、年末年始

facebook@Port Okutama

取材・文/廣田俊介
写真/長野竜成
編集/望月 祐(LIG)

 

↓↓↓過去の連載記事【車中泊×アクティビティ連載Vol.01】はこちら↓↓↓

 

↓↓↓過去の連載【車中泊×アクティビティ連載Vol.02】はこちら↓↓↓

 

↓↓↓過去の連載【車中泊×アクティビティ連載Vol.03】はこちら↓↓↓