「スーパーカブ」と「スーパーカー」。それは、ジャンルとしては全く違うけれど、どちらも乗り物であり、“スーパー”と名前が付く。実質同じなのではないか。いや、そんなことはないだろう。今回はそんな2つの乗り物を純粋に比べてみようという、とてもまじめで、とても愚直な企画である。
「“スーパー”な乗り物を取材しに来ませんか?」
そんなお誘いを受けてホンダアクセス本社に向かったライターの工藤貴宏。クルマが大好きでS660を所有し、普段はモータージャーナリストとして活動している。
ホンダを代表するスーパーな乗り物といえば「スーパーカブ」。今日の目的はその取材だ。
スーパーカブとは、1958年に販売がスタートして累計生産台数が1億台を超える小型オートバイ。ひとつのシリーズとしては世界最多の生産台数および販売台数を誇る、まさに超スーパーな乗り物である。スーパーカブが大ヒットしたことでホンダが躍進したといっても過言ではない。うん、いい車体だ。
しかし……ちょっと待て。あれはなんだ?
もしや……?
ホンダの誇る“スーパー”なクルマ。NSXでは?
解説しよう! NSXとは1990年に初代モデルが発売されたホンダの誇る、いや日本の誇るスーパーカー。このモデルは2016年に販売がはじまった2代目だ。かっこいい。だが、なぜここに置いてある??
スーパーカブも気になるけど、なかなかお目にかかれない超レアキャラのNSXも気にならないわけがない。モータージャーナリストとしてテンションが上がりまくりだ。せっかくの機会だし、(誰かに見つからないうちに)穴が開くほど眺めちゃえ!
ところで、スーパーカブとスーパーカー(のNSX)を見ていると、「ホンダ製」ってことと“スーパー”という響きのほかにも意外に共通点があるような気がしてきた。たとえば乗車定員。どちらも2名で同じだ。実質スーパーカブってスーパーカーだし、スーパーカーってスーパーカブでは? こんなスーパーな2台が並ぶことなんてめったにないし、スーパーカブとNSX(スーパーカー)を比較してみようではないか!
というわけで、ホンダアクセスさんにNSXの鍵を(土下座して)お借りして、比較を開始!
まずは車体のサイズから……全高はだいたい同じ??
スーパーカブ110の全高は1,040mmで、NSXの全高は1,215mm。スーパーカブのシートに座ると視線の位置はNSXの天井より上。当然ながら見える世界は全然違う。
いっぽう全長は、スーパーカブが1,860mmでNSXは4,490mm。ってことはNSXはスーパーカブに比べてだいたい2.4倍長いことになる。全長はNSXのほうがスーパーだ。
そんな長さよりも異なるのが幅。スーパーカブは705mmでNSXは1,940mm。
でも、実際にみるともっと違うように思える。数字で比べるとNSXはスーパーカブの2.7倍くらいしかないんだけど、それ以上に幅の違いを感じる……。
それは、スーパーカブの全幅をハンドルの両端で測っているからだ。ボディそのものだともっともっと幅が狭いから、カブとNSXの差が大きく感じるのだろう。
後ろから見ても車幅はやっぱり違う(当然だ!)。感覚的には、NSXの車幅はスーパーカブ7台分くらいに思える。
でも、タイヤの直径は大体同じくらい……か……。まあこれくらいなら実質スーパーカブはスーパーカーと言えるかも。
前輪の直径(外寸)はスーパーカブが約55cmでNSXは64cm。どっちも大きいなあ。ちなみにホイールサイズはNSXのフロントが19インチ、スーパーカブは17インチ。
まあ、太さは全然違うんだけど。
そしてブレーキに注目すると……。
どちらも穴あきのディスクローター。こんなところに意外な共通点があるとは! これは実質スーパーカブ=スーパーカー! ただ、ローターの径はぜんぜん違うけれど。
もうひとつ共通点といえば……
エンジンの搭載位置に注目したい。NSXは前輪と後輪の間にエンジンを積むミッドシップ。
スーパーカブだって、ミッドシップ(……と2輪では言わないかもしれないけど、前輪と後輪の間にあるからミッドシップといっていいよね?)。
ちなみにエンジン排気量はスーパーカブ(50㏄※もあるけれど今回の撮影車)が109㏄なのに対し、NSXは3,492㏄。ぜんぜん違うよ。違いすぎるよ。しかも、NSXはツインターボにモーターまでついている。なんてこった。
※厳密に言うと49cc
では荷物を積む場所はどう?
NSXの荷室はクルマとしては狭いけれど、しっかりと雨風をしのげる構造。
スーパーカブはフルオープンだから雨風をしのげないし、荷物を固定する手間も必要。
でも、車体のもっとも後ろに積載スペースが用意されているという意味では、スーパーカブもNSXも一緒かも。
あ、そもそも乗車スタイルもぜんぜん違うけどね。NSXはクルマなのでシートに座る感じ。
それにしても着座位置が低いのはさすがスーパーカー。
いっぽうスーパーカブは、跨ぐ感じ。雨風はしのげないけど、開放感は抜群!
ちなみに着座位置の地面からの高さは、NSXが約30cmなのに対し、スーパーカブは約70cm。ぜんぜん違うよ……。
NSXのヘッドライトはLEDを光源とするもの。レンズがたくさんあって宝石みたいに光るから、ホンダは「ジュエルアイ」と呼んでいる。ぴか~!
いっぽうスーパーカブのヘッドライトは……なんとLED。ってことは、NSXと同じではないか! 今どきのスーパーカブってなんだかスゴい!
排気口も見ておこう。
NSXはまさかの4本出し。パイプの径は中央の2本(楕円形なので広い部分)が75mm、左右の2本は50mmだ。
いっぽうスーパーカブは穴の径が約20mm。まあ排気量並み……ですかね。これぞスーパーカブ! な可愛げということか。でも、クロームメッキ仕上げのマフラーは、ヴィンテージスポーツカーみたいにカッコいい。
給油口も見ておこう。
NSXの給油口は助手席側のリヤフェンダーに。キャップがなく、給油ノズルを差し込めば口が開くキャップレス給油口になっている。ちなみに燃料タンク容量は59Lで、WLTCモード燃費(10.6km/L)から計算すると航続距離は625.4km。
いっぽうスーパーカブの給油口はシートの下に。燃料タンク容量は4.1Lだから、WMTCモード燃費(67.9km/L)から計算した航続距離は278.4km。ガソリン1Lで約68kmも走るなんて凄すぎる……と思ったら50ccモデルだと105.0km/Lだって!?
そういえば、キーもぜんぜん違う。向かって右の箱型がNSX。電波を使い、身に着けていればドアロック解除やエンジン始動ができる非接触式だ。左側のスーパーカブのキーは昔ながらですな。
では、操作方法を比べてみよう。
NSXはいかにもクルマ。ハンドルが丸い!
スーパーカブには丸いハンドルなんてついていなくて、バー型。もちろん操作方法はNSXとは全然違う。
NSXのメーターはとにかくカッコいい!
エンジン回転数を示すタコメーターが中央に鎮座し、そこは液晶になっている。
スーパーカブのメーターはとにかくシンプル。スピードメーターが目立つ質実剛健なデザインで、タコメーターはない。
あれ? こんなところに共通点が。
NSXのエンジンスターターはプッシュ式。
スーパーカブのスターターもプッシュ式。NSXと同じ方式なんて、やるじゃんスーパーカブ。いや、むしろプッシュ式スタートはスーパーカブのほうが先か。やるじゃん!!
ステアリングに組み込まれたスイッチは、NSXでは右側がクルーズコントロールのスイッチとインフォメーション画面の切り替え。左側はオーディオ操作だ。
スーパーカブでは、右がエンジンスターターのみ。左はヘッドライトのハイ/ロー切り替え、ホーン、そしてウインカー。
どこを探してもオーディオのリモコンがない……って、そもそもスーパーカブにはオーディオが付いてないからね。
クルマを動かすときには必ず触れるギヤ(走行レンジ)の切り替え。NSXはなんと、ボタン式セレクターだ。今どきだねえ。
任意の変速操作をする際は、ハンドルの奥にあるパドルが活躍。
いっぽうスーパーカブは手ではなく足で操作。「遠心クラッチ」と呼ばれる機構を組み合わせているので、クラッチ操作は必要ありませんね。
NSXのアクセルは足元にあって右足で操作。クルマとしてはごくごく一般的。というか当たり前のカタチ。
でもスーパーカブはハンドルの右側にあって、右手で操作。NSXとは全然違う。まあ、こちらも二輪としてはごくごく一般的だけど。
当然ながらNSXのブレーキは足元にあって、右足で操作する。
スーパーカブのブレーキ操作は全く違って、右手でハンドルの脇にあるレバーを動かしてフロントブレーキ、右足でペダルを踏んでリアブレーキを作動させる。クルマはひとつの操作で前後にブレーキを掛けるけど、バイクはフロントブレーキとリアブレーキをそれぞれ操作する仕掛けになっているのが興味深い。
いろいろ違うなあ……NSXとスーパーカブ(当たり前だけど)。
そもそも、この2台は「スーパー」という響きこそ同じものの、サイズも値段もターゲットユーザーもぜんぜん違うんだけどね。
いっぽうで、根底にあるものとしてしっかり共通していることもある。それは……
「ホンダが作った」ということ!!!
そして、みんなの憧れであり、多くの人にその名を知られている存在だということ。さらに、人々に移動の自由を与えてくれる存在だということ。
そして、乗り物好きをワクワクさせてくれる存在だということ。
まったく違う2台だけど、どっちも興味深い。どっちもホンダというメーカーのスーパーな存在だ。
これまでの比較を図表としてみると、こんな感じだろうか。
まじめに比較してみると、スーパーカーはスーパーカブ、スーパーカブはスーパーカーと言えるところもあれば言えないところもある。だが、みんなちがってみんないいのだ。
最後に、ひとつだけ言わせてほしい。
人生で一度くらいは、スーパーカーに乗ってスーパーマーケットへ買い物に行き、帰りにはスーパー銭湯へ寄ってくつろいでみたいものだ。もちろん、家に帰ったらスーパーマリオブラザーズで遊ぶのは言うまでもない。

- 工藤 貴宏(くどう たかひろ)
- 1976年長野県生まれ。
自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2023-24日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。スポーツカー好きでSUVやコンパクトカーとあわせ、ホンダ S660も所有。
編集 / 山口 真央(ヒャクマンボルト)
写真 / KEI KATO(ヒャクマンボルト)