軽バンのキャンピングカー改造プロセスをInstagramやYouTubeなどで発信しているテンと▲キャンプさん(以下、テンさん)。フォロワー数14,000人の人気の秘密は、格安アイテムを使った工夫の凝らし方。「これなら自分もマネできるかも!」と思わせてくれる、テンさん流改造ノウハウをご紹介します。
- テンさん
- キャンプとトム&ジェリーが大好きなテンさん。20代のうちにやりたいことをできるだけ叶えておきたいと、先輩から譲ってもらった軽バン(バモス)をゼロから自分でキャンピングカーへ改造中。その改造記録をInstagramやYouTubeで発信しながら、おすすめのキャンプギアも紹介している。
- Instagram : ten.to_camp
YouTube : @ten.to_camp
目次
自前でキャンピングカーづくりを始めたきっかけとは?
自作キャンピングカーをつくろう、とテンさんが動き始めたのは2023年10月のこと。会社の先輩から軽バン、バモスを譲ってもらったのがきっかけでした。
普段は自動車メーカーの関連会社で設計職をしているテンさん。新卒入社と同時にコロナ禍に見舞われ、同期メンバーとグルキャンに行くようになってから、キャンプにはまっていったといいます。
「いつかはキャンピングカーをつくって、日本一周の旅に出かけられたらいいなと思っていたんです。20代後半になって、やりたいことを今のうちにやっておきたいと考えていたとき、先輩からバモスを30万円で譲ってもらえることになって。これならば、もし改造に失敗しても後悔はない! と、知識も経験もまったくのゼロから始めることにしました」
目指したのは、快適に車中泊ができる居住空間。コンセプトは「あぐらをかいても、足を延ばして寝転んでも広々と過ごせる、自分の好きを詰め込んだ、おしゃれなキャンピングカーづくり」。できる限り安く仕上げる方法を追求し、ギアにもこだわりました。
車中泊できる快適居住空間を生み出すためのステップ
ステップ1:内装はがし
理想の居住空間に変えていくために、まず取り組んだのは内装はがし。オプションでついていた棒などをすべて取り外したあとは、壁、床、天井をはがしていきます。
「インパクトドライバーでネジを取り外していくと、壁も床も比較的スムーズにはがれました。一番苦戦したのは天井。ライトやサンバイザー、ミラーもすべて取り外さないと天井をはがせない! ということで、クリップリムーバーという専用工具も駆使しながら進めていきました」
すべて外し終わって改めて実感したのは、「クルマって鉄の塊なんだな…」ということ。ここから、自分好みの空間づくりが始まっていきます。
ステップ2:制振材&断熱材貼り
静かな車内空間づくりに欠かせないのが制振材です。防音効果を比較するため、テンさんが用意したのは3つ。
- 100円均一で購入したマグネットシートとアルミシート
- ホームセンターで調達したゴムシートと両面テープ
- ネットショップで購入した専用の制振シート
これらを貼り比べ、最も効果のあるコスパのいい商品を選んでいきました。
「圧倒的な効果を見せたのは、ネットショップで購入した専用の制振シート。3ミリ厚ながら制振性に優れていて、天井、壁、床全体に貼り付けました。全身を使ってヘトヘトになる大変な作業なので、圧着ローラーを使うのがおすすめ。貼り終えると、雨音やクルマの走行音はだいぶ静かになって、頑張った甲斐がありましたね」
次に着手したのが車内の断熱です。使ったのは、ホームセンターで購入したアクリアマット。綿のようなフカフカの素材を、壁の隙間に詰め込んでいきます。
「断熱は熱伝導率で決まるので、熱伝導率の低い空気の層で隙間を埋めていくのがポイントです。どれくらいきっちり隙間を埋めるのか、最初はサイズを測りながら進めていたのですが、フカフカ素材なのだからざっくりしていてもいいのでは…と最終的には適当な大きさに切って詰め込んでいきました」
さらに天井と床の断熱性能を高めるべく、ネットショップで購入した銀色の断熱シートの貼り付け作業を進めていきました。
「長さ5m×幅1mで約5,000円。金額は破格でしたが、天井への貼り付けには大苦戦…。畳サイズのシートを両手で支えながら貼っていって、すごく時間がかかってしまいました。これからやろうとしている方は、扱いやすい大きさに切ってからつなぎ合わせるように貼っていくことをおすすめします」
ステップ3:水平な床設置
制振と断熱を終えたら、続いて床づくりへ。クルマの床は細かな凸凹があるので、一枚板を貼ることで床底をフラットにしていきます。
「クルマの形状に合わせて板を切るために、段ボールを使って型取りし、ホームセンターで買った板をカットしてハメていきました」
使用した木材は強度もありながら、断熱性・気密性・防虫に優れているOSBという板材。エンジンルームのふたもつくり、もともとあったボルトの穴に板を固定したら完成です。
次は、床下に収納スペースをつくるために、テンさんがあぐらをかいてリラックスしても十分な高さを確保しつつ、車内の床を底上げします。
「選んだ方法は、木材でブロックをつくること。どんな幅のブロックをいくつ用意すれば、隙間なく空間にフィットするのか、一枚板のサイズを測っては図面に落とし込んで…と繰り返しました。クルマの床はキレイな長方形ではなく微妙に非対称だったりするので、細部まで計測しなければ、後々に誤魔化しの効かないズレとなって大変なことになるんです」
計測によりブロックのサイズが決まれば、木材をひたすら切り、金具で組み立てていきます。これが想像以上に大変だったというテンさん。ただ普段、設計の仕事で培っているスキルが役立ってか、計測通りにカットした木材はサイズもぴったりでした。
後部座席部分の段差もなくなり、完全フラットが実現したところで、最も重要な床板づくりに移っていきます。
「杉の羽目板で床板をつくろうと仮置きしてみたところ、軽く押しただけで曲がるほど、強度に不安がありました。そこで、厚さ11ミリの板を新たに購入し、その板に羽目板を載せる2枚構造にすることにしました」
身体が触れるところなので、羽目板のヤスリ掛けは入念に。ニス塗りとそれぞれ3回繰り返したそうです。
こうして、ようやく安心して眠れる床が完成しました。
ステップ4:壁&天井設置
床との統一感をもたせるため、サイドの壁や天井にも同じ杉の羽目板を使用。ウォールナットの油性ニスを塗り、ネジやボルトが外側から見えないように設置していきます。
形状が最も複雑な天井は、どう板を入れていくか悩みに悩んだというテンさん。試行錯誤の結果、両側に棚を設置し、棚と棚の間に入れた支柱に板をはめていく方法で進めることにしました。
天井に照明をつけるために配線を入れながら行った、天井の羽目板貼り。頭で板を抑えながらビス止めするなど苦戦しながら、ついに、床・壁・天井すべてが完成しました。小さなスポットライトを9つ埋め込んだら、やわらかな灯かりでおしゃれな空間に早変わり!
クルマのDIYに必須! テンさんおすすめ3種の工具
クルマをDIYするのに必要不可欠な工具のなかでも、テンさんおすすめの3種を紹介いただきました。
電動マルチツール
インパクトドライバーや、電動ノコギリ、ヤスリまでさまざまなニーズに応えてくれるのが「電動マルチツール」です。
「電動マルチツールを使えば、ネジの付け外しはもちろんのこと、木材の直線切り作業には丸ノコ、曲線切り作業にはジグゾー、ヤスリ掛けとアタッチメントを変えることができるので、めちゃくちゃおすすめです。むしろこれがないと始まらない」
フレキシブルシャフト
棚を設置する際などに役立ったのが、電動マルチツールに付けて使うフレキシブルシャフトです。電動ドライバーが入らないような狭い箇所でも、曲線を利用してネジ締めができる優れものだそうで、「複雑で狭い車内の改造に必需品では!?」とイチオシです。
型取りゲージ
「棚づくりの際に、複雑な形状に合わせて板を切るために使ったのが、型取りゲージです。範囲が狭い箇所に限られますが、細かな凸凹も正確に測れてとても便利です」
クルマの形状は直線に見えても、凸凹のところが多いので、型取りが重要。大きなところは段ボールで型を取りながら、周囲は型取りゲージを使えば、キレイな型が取れるそうです。
こだわりポイント&これまでに掛かった費用はいくら⁉
改造を通してテンさんがこだわったのは、3つ。
- 難燃剤を使うこと
- 必要なものはケチらないこと
- メンテナンス性を確保すること
制振材や断熱材、羽目板などはすべて難燃剤を使用し、防音など効果が高いアイテムをケチらず取り入れました。またバモスは後部座席の下にエンジンルームがあるため、床材の羽目板、木のブロックはすべて取り外し可能にして、メンテナンスがいつでもできる状態を整えました。
キャンピングカーづくりのために、ここまで使ったアイテムと工具で合計いくらかかっているのでしょう。制振材や断熱材、木材とネジと金具、天井に設置したライト本体やコード、接続用のコネクタ、分岐の端子、スイッチなどのアイテムに加え、工具をすべて合わせても、その金額は10万円以下だというから驚きです。
ただ、ここまでの完成度は「まだまだ50%」と笑うテンさん。
「収納が少ないのでもっと棚を増やしたいし、大好きなトム&ジェリーの要素が一つも入っていないので、ジェリーが出入りするような穴をつくって、開けてみたらコンセントになっている…といった遊び心も内装に入れていきたいですね」
床にマットレスを敷けば、大人2人でも十分眠れる広さになったテンさんのキャンピングカー。車中泊が可能になったことで、キャンプライフは思いがけない変化があったそうです。
「車内で眠るには、積んでいた荷物をすべて外に出す必要があります。タープを張って、荷物をまとめて置いておくようになったことで、無駄なものは持って行かず、本当に使えるアイテムだけ厳選するようになりました」
10万円以下で、車内を快適な車中泊空間に変えられるんだ! と驚かされた改造の数々。お気に入りの空間ができれば、キャンプライフもますます楽しくなっていくのだと、テンさんの笑顔が証明しているかのようです。
後編の記事では、そんなテンさんが厳選する“本当に使える”キャンプギアたちをご紹介します。
文/田中 瑠子
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)
撮影協力/皆野キャンプ場