
“茶室”にカスタムした和空間のバンで、日本一周、車中泊の旅に出たコウジロウさん。もともと理学療法士でしたが、キャリアを重ねる中で「自分が本当にやりたいことは何か」を見つめ直し、フリーランスのカメラマンへ転身。日本一周の旅を見据え、制作したのは「茶室バン」というユニークな相棒でした。旅を終えた今、旅を通じて得たものや、クルマだったからこそ出会えたおすすめのスポットなど、教えて頂きました。

- コウジロウさん
- 元理学療法士で、現フォトグラファー。100日で日産NV200バネットを茶室バンにカスタムし、その後330日かけて日本一周の旅を完遂。2025年11月からスタート予定の新たなプロジェクトに向けて準備中。
- Instagram: @kojiro_vanlife
YouTube: コウジロウバンライフ
目次
ジムニーで週末車中泊を楽しんでいた理学療法士時代
どこかの厳かな茶室を想起するこの光景。実は茶室風に設えられたバンの車内です。

この茶室バンで日本一周の旅に出たのは、もともと理学療法士だったコウジロウさん。怪我の治療で理学療法士にお世話になった経験から「世の中にはこんな仕事があるんだ」と志すようになったそう。人と接することが好きだったコウジロウさんにとって、患者さん一人ひとりに丁寧に向き合う仕事は「とても楽しかった!」と振り返ります。

理学療法士時代は、週末になると当時乗っていたジムニーで関東近郊へ車中泊旅をしていたそうです。
「車中泊といっても助手席を倒すだけでの寝泊まり。フラットになるように、板だけ作って簡易ベッドにしていました。DIY経験はゼロで、ものづくりが好きというわけでもありませんでした」

ただ、理学療法士として5年ほど働いた2020年に「この仕事、この暮らし方が、本当にやりたかったことなのかな」と自問するようになります。同時期に、理学療法士仲間とキャンプに出かけたことが、今につながる変化のきっかけになりました。そこで初めて出会ったのが、今はクルマの内装デザイン会社「Renovan Japan」を経営する松尾颯(はやと)さんでした。
「当時は彼も理学療法士。キャンプ中にカメラを回しおしゃれなVlogを作ってくれたことに感動したのが、最初の出会いでした。理学療法士はずっとスポーツをやってきた人が多いせいか、バイタリティのある人が多いんです。9時-17時の定時できっちり仕事が終わるホワイトな職場がほとんどということもあって、趣味に時間をかけやすいのかもしれません。多趣味なはやとに刺激され、カメラの世界って面白そうと興味を引かれていきました」

理学療法士の仕事を続けながら独学でカメラを学び始め、SNSなどで活躍するカメラマンの写真や動画をチェックするようになったコウジロウさん。そこで、海外や日本国内を旅しながら写真や動画を撮るカメラマンの「誰よりも本人が楽しそう」な様子に惹かれ、自分も日本一周の旅に出かけたいという思いが芽生えていきました。
バン仲間に刺激され、生まれたアイデアは和室空間
車中泊と日本一周旅行が結びつくようになったのは、2022年に『VANCAMP JAPAN』のイベントに参加したことがきっかけでした。
はやとさんに「面白いイベントがあるから」と誘われるがままに訪れたのが、カスタムしたバンを所有する人たちが中心に集う、VANCAMP JAPANのイベント。15人ほどのクローズドな集まりに顔を出すと、「自分以外はみんなカスタムしたバンを持っている」状況でした。
手持ち無沙汰なこともあり、カメラを回してイベントムービーを作って渡したところ、それ以降はカメラマンとしてイベントに呼ばれるようになったのだそう。バン仲間がどんどん増えていき、個性豊かなカスタムカーを目にするうちに、これで日本一周の旅に出かけたら面白そうだな……と構想が膨らんでいったといいます。
「キャンプに参加した当初は、『こんな大変そうなカスタム、絶対にやらないから』と言い張っていました。でも、仲間たちが本当に楽しそうに、それぞれのカスタムバンをお披露目し合っていて。気づけば、『自分だったらどう作ろうかな』と考えるようになっていましたね」
そうして日本一周の旅の相棒として選んだ愛車は、2007年式の日産NV200バネット。前のオーナーが塗装した淡い茶色のレトロな色合いにも惹かれたそう。北海道にあったため、運送費などの手数料が多くかかってしまったものの、トータル90万円で購入できました。

茶室をコンセプトにしたカスタムカーは、まさに唯一無二の一台。そのアイデアにどうたどり着いていったのでしょう。聞くと、最初から“茶室”をイメージしていたわけではなかったそう。

「何度かVANCAMP JAPANのイベントに顔を出し、60台以上のカスタムカーを見るうちに、大枠のレイアウトは一緒だな……と思うようになったんです。タテにベッドがあってサイドテーブルや椅子がある。そんなカスタムカー“王道”のレイアウトから離れて、固定観念を壊したかった。まだ誰もやったことのないカスタムに挑戦したい」
そうはやとさんと話す中で、竹を使って天井を作ってみたらどう? 車幅すべてを使って畳にする和室なんて新しいんじゃない? とアイデアが広がっていき、漠然とした思いを形にしていったら“茶室”というコンセプトに辿り着いたんだそうです。
やり切った先の景色が見たい! 旅を楽しく続けるコツ
日本一周の旅は当初、はやとさんを含む3人で一緒に行こう、というプランが浮上していました。しかし、「カスタムカーづくりを事業にしたい」とはやとさんが抜け、「仕事に集中したい」とまた一人が抜け、気づけばコウジロウさん一人で旅の準備を進めることに……。それでも日本一周の旅に出かけたい、という思いが揺らぐことはありませんでした。
「日本一周の旅を機に、理学療法士としてのフルタイム勤務を辞めて、カメラマンとして食っていこうと覚悟を決めていました。だからこそ、行ったことのない場所に行って、見たことのない景色を見たい、カメラに収めて自分の技術を高めていきたいという思いが強くありました。旅をやり切ったあとに何を感じるか。のぞいてみたい、味わってみたいという好奇心で突き動かされていました」

旅の出発日を2023年9月24日に設定し、100日間かけてカスタムを進めていったコウジロウさん。出発前夜はバンライフ仲間と賑やかに過ごし、盛大に送り出されて埼玉県をスタートしました。
カメラマンとしてVANCAMP JAPANのイベントに出る予定を動かしたくなかったため、イベント時期に合わせた旅のルートを設計。1都道府県あたり4~5日で巡り、夏は1カ月間北海道に滞在して暑さから逃れ、沖縄県をゴールに約1年間の旅を完遂しました。
ただ、旅を始めて3カ月目には「旅疲れ&飽き」の状態に陥り、続けるべきか迷った時期もあったそう。そこで背中を押してくれたのは、旅先での人との出会いでした。車中泊が基本の旅でしたが、旅人たちが集まる有名なゲストハウスがあればあえて宿泊し交流の時間を持ったほか、単発でできる農業バイトに応募して地域の方との交流を深めたこともありました。

「日本一周は自分でやると決めたこと。やり切った先に見える景色がある、と思っていました。自分が楽しく旅を続けるために、人との出会いを自ら作っていかなくちゃと工夫を凝らしていましたね」
人との出会いこそが旅のモチベーションだったと話すコウジロウさん。改めて人と接することが好きだという自身の根幹に気づけたことこそが、旅の何よりの収穫だったのかもしれません。
クルマ旅だから出会えた、日本一周道中の景色3選
クルマで行ったからこそ、その瞬間に立ち合えた絶景との出会いも、もちろん旅の醍醐味。数ある“忘れられない景色”の中でも、イチオシの場所を3つ教えてもらいました。
「まず1つは、新潟県十日町市・星峠の棚田で見た星空。翌日に朝日を見たくて、夜遅くに音楽をかけながら運転していたら、道が開けて満天の星空が目に飛び込んできたんです。ちょうどタイミングを計ったように、かけていた音楽のサビの部分と重なって映画のようで……」


続いて、1カ月かけて回った北海道も思い出の地。中でも、利尻島・礼文島の大自然は、ほかにはないダイナミックさがあったといいます。
「家族に日本一周の旅に行くといったとき、おばあちゃんが『利尻島に行ってきて。すごくキレイだから』と薦めてくれたんです。あの夕日の美しさは格別でしたね。礼文島では、泊まっていたユースホステルから大きな虹が見えた瞬間もあり、記念に撮った1枚が、礼文島観光協会のフォトコンテストで最優秀賞に選ばれました。カメラマンとして自信になった出来事でもあり、チャンスをくれてありがとう、という気持ちで印象に残っています」

3つ目は、秋田県にかほ市の仁賀保高原で見た、“風車のある景色”。
「風車を見ること自体が初めてだったので、その大きさにびっくり。鳥海山や日本海を見渡せる広大な高原に、何台もの風車が回っているのは荘厳な光景でした」

「この景色を見よう」と決めて見に行くことももちろんですが、星空や風車のある景色など、意図してではなく、偶然通りかかってその絶景に出会えるというのがクルマ旅ならではなのかもしれません。
後編では、茶室バンがどうやって作られていったのかにフォーカス。こだわりあふれる和空間の魅力をお伝えします。
文/田中 瑠子
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)
撮影協力/TAKAO CAMP PARK -RAFT-