
世界がパンデミックで立ち止まった2020年、夫fumiさんは58歳で早期退職し、ソロキャンプに夢中になっていました。やがて妻yokkoさんとバンライフをスタートし、4WD(四輪駆動)のボンゴで走った距離は2年で3万km。北海道、九州、四国――日本中を走り抜けたのち、やがて涼を求めて岐阜に別荘を購入。まるで人生を倍速で生きるかのような二人は「来年は何をしているかわからない!」と笑います。還暦からの冒険にはどんなクルマを相棒に? 変化を恐れない二人の愛車とライフスタイルを追いました。

- fumiさん・yokkoさん
- 奈良県在住。夫fumiさんは2020年、妻yokkoさんは2022年にそれぞれ58歳で早期退職。コロナ禍にfumiさんがソロキャンプを始め、2022年にボンゴを購入して車中泊仕様にカスタム。夫婦で車中泊スタイルで、北海道一周をはじめ、2年で3万kmを走破。2024年に岐阜県ひるがの高原に別荘を購入しDIYや畑仕事に勤しむ。
- Instagram(fumiさん): @fumi3798yy
Instagram(yokkoさん): @yokko7393
目次
コロナ禍で人生が変わった。4WDボンゴとの運命
岐阜県、ひるがの高原。くねくねとした山道を進むと、ひんやりとした空気の中にたたずむロッジに到着しました。目印は、パンプキンスープのような優しくて力強いイエローのマツダ ボンゴバンです。

二人は景色のいいところが大好きで、日帰り登山も趣味だといいます。登山といえば早朝スタートが鉄則ですが、「そんな常識を覆してくれるのが車中泊」だと話すyokkoさん。
「私は早起きが苦手で、準備にも時間がかかってしまって……。いつも、このクルマで前日に現地入りして、ぐっすり眠った翌朝に出発するんです。登山用具も全部クルマに積んでいけるから、とてもラク。そこまで体力はないけどアウトドアがしたい! という人にはぴったりのスタイルだと思います」(yokkoさん)

旅先の天気によっては臨機応変に予定を変えて、より天候のいいところへ。あるいは、ちょっと気になったところへ心の赴くままクルマを飛ばすこともあるのだそう。
「こうしたパワフルな機動力も車中泊の旅ならでは。お勤めの人の場合は週末を上手に使って旅をされるはずだから、多少天候が悪くても予定通りに動かれるかもしれません。でも、私たちの場合は時間を気にせず自由に旅ができます。老後ならではのメリットかもしれませんね」(yokkoさん)と穏やかに笑います。
亡き愛犬が届けてくれたボンゴとの出合い
もとは製造業で活躍したfumiさんと、フラワーアレンジメントの職についていたyokkoさん。バンライフをスタートしたのは二人が早期退職後のこと。
「もう十分働いたと思ったし、子どもたちも独立しました。お互いの両親も亡くなっていて介護の必要もなかった。そんなときにコロナ禍になり、ふと人生を改めて考えたんです」(fumiさん)
老後に2000万円が必要になると言いますが、「逆に言えば、2000万円あればいいんだ」と発想を転じたfumiさんは、定年まで待たずに早期退職。まもなくソロキャンプに夢中になりました。
「アウトドアをしそうにない事務の女性が山登りにハマっていると聞いて、素人でもできるのかな? と思って試したのがきっかけでした。何の知識もないまま10月に富士山麓に行ったら、夜は氷点下になって地獄を見ました……」(fumiさん)

それを機に冒険魂に火がついて、気づけば3カ月で約25泊という怒涛のキャンプ生活へ。その後、yokkoさんと愛犬ノエルも参加しファミリーキャンプに発展。まさに、この経験こそがバンの快適装備への布石になっていくのです。

キャンプを楽しむfumiさんとは対照的に、「寒いし、腰も痛いし、シュラフは寝返りがしにくいし」辛かったというyokkoさん。
そんなとき、YouTubeで一本の動画を見つけます。それは女性がクルマを改造し、自然のなかでコーヒーを淹れる姿。テントもいらない、寒さとの格闘もない楽しそうな様子を見て「私、キャンプよりこっちがしたい! って主人に見せたんですよ」。画面に見入ったfumiさんの瞳がきらめきました。
こうして、二人は車中泊を前提とした車探しをスタート。自宅の駐車場に収まるサイズということで、狙いを定めたのがボンゴです。なかでも4WDタイプを探し始めます。理由はシンプル。ずばり、大自然のなかの秘境を訪れたいから。
「関西圏じゃ4WDのボンゴはほぼないんですが、奇跡的に兵庫県で2017年式の4WDのボンゴが見つかったんです。それも愛犬が亡くなった日に。愛犬が届けてくれたんだと思いましたね」(fumiさん)


走行距離は約69000km。本体価格110万円、諸経費合わせて総額130万円。それまで乗っていたフィットを90万円で売り、実質40万円で入手したのでした。
使えるものは使って節約。重要装備には惜しまず投資
手に入れたノエル号は、ただの白いバンでした。ここから、夫婦による大改造が始まります。

YouTubeを見ながら工具を片手に、3カ月におよぶ格闘の日々。主にDIYはfumiさん、カラーや雑貨をyokkoさんが担当したそうです。
テーマカラーは「ホワイト・イエロー・ブルー」の3色。
「もともとイエローが大好きなんです。イエローとホワイトはスムーズに決まったのですが、あと1色をどうするか迷いました。ポップで陽気な印象にしたかったから、ブルーにしたんです」(yokkoさん)


奈良にある自宅の立地を生かして名産・吉野杉の端材を安く手に入れたり、ダイソーやスリーコインズ、無印良品のアイテムを上手に活用したりと節約した結果、内装にかかった費用はわずか10万円ほど。
ただし、ソロキャンプで氷点下の恐怖を味わっていたfumiさんは、「断熱材にはお金をかけました。こればっかりは性能と費用が比例します。命を守るための装備にはしっかりと投資しました」。
さらに、こんな装備も導入したのだそう。



かわいい見た目とは裏腹に、過酷な自然の懐にも臆することなく飛びこんでいける骨太なクルマが完成しました。
2年で3万km走る、車中泊旅で見つけた日本の絶景
車中泊を始めてから、クルマでの走行距離は桁違いになりました。
「2022年の秋に車中泊を始めてから2年で3万kmは走っていますね。1週間単位で、四国、山陰地方、九州を旅して、北海道だけ2回訪れて2カ月ほど滞在しました」(fumiさん)
3万kmといえば、東京―大阪間を約30往復する距離だから驚きです。とはいえ、日本一周のような“制覇”はあまり気にせず、行きたいところに行くスタイルなんだとか。
「旅先を選ぶときによく見るのは『ツーリングマップル』。バイクでツーリングする人のための地図で、観光客が通らない道やクルマが来ないような場所も載っているのが魅力。“絶景”の記述があるスポットを参考にして行き先を決めています」(yokkoさん)
そんな二人に、2年間の車中泊旅で訪れた絶景のなかから「心に残ったおでかけスポット」ベスト3を挙げてもらいました。
第3位.:笛吹川フルーツ公園(山梨県)

「ボンゴ仲間と車中泊キャンプをした帰り道、ほったらかしキャンプ場の近くにあるフルーツ公園に立ち寄りました。桜と富士山とノエル号、一年のうち数日しか見られないという貴重な景色をバックに撮れた一枚です」(fumiさん)
第2位:香りの里ハーブガーデン(北海道)

「ラベンダーが咲く初夏にハッカソフトクリームを目当てに訪れました。残念ながら休園日でしたが、ゲートは開いていて園の見学は自由。穴場中の穴場で、とてもきれいにお手入れされたハーブ園でした」(yokkoさん)
第1位:藻琴山展望駐車公園(北海道)

「藻琴山(もことやま)の登山のため、前日夕方に到着。停まっているクルマはほぼありませんでした。斜里岳がピンクに染まり、知床半島が一望できるロケーション。刻々と移り変わる夕焼けの美しさはこの旅一番の感動でした」(fumiさん)
また、北海道ではヨーロッパ製の大型車を家として旅して暮らす夫婦や、同じくボンゴで旅する赤ちゃん連れのファミリーとの楽しい出会いもあったそう。特に「ボンゴの会」というコミュニティには、ボンゴをDIYしてバンライフを楽しむ人々が集まっているといいます。
「ボンゴの会では私たちが最高齢です。今はリモートワークができるようになったからか、30代の人が多いですね。年齢を問わず、旅とDIYが大好きな仲間と出会えるという点もボンゴに乗る醍醐味ですね」(yokkoさん)
多忙を極める「やるなら今!」のライフスタイル
こうした2年の車中泊ライフを経て、fumiさんとyokkoさんはある結論に達しました。夏の車中泊は暑すぎる……と。
「ポータブルクーラーをつけると、なんとか夜は過ごせるのですが、昼はめちゃくちゃ暑くて……。さすがに耐えきれず、涼しいとウワサの岐阜県ひるがの高原を巡り、別荘を買ったんです」(fumiさん)
2025年4月から拠点をこちらに変えて、現在は別荘のDIYに夢中なのだそう。


「もうやりたいことがありすぎて、毎日忙しいです。とは言っても『今はこれがしたい!』という気持ちで突き進んでいるだけ。来年は何をしているかわからないけれど、きっと旅にはまた出ていると思います」(fumiさん)
2020年にソロキャンプ。2021年にファミリーキャンプ。2022年に車中泊。2024年に別荘購入――まるで、人生を倍速で生きているかのような二人。
「『いつかやりたい』というとき、その『いつか』はきっと来ません」yokkoさんの言葉が静かに、でも力強く響きます。
「もうそんなに時間は残っていないから、動けるうちにやりたいことは全部やりつくす! やるなら今です。私たち夫婦は性格も好みも違うけれど、その気持ちは同じなんです」(yokkoさん)
「いかに安くできるかを考えたり、どこで調達できるかを調べたりするのも楽しいし、作ってみたらもっと楽しい。失敗してもやり直せばいいだけですから」(fumiさん)

手が追いつかないほど楽しいことで満ちている、そんな還暦夫婦。暑さもひと段落した今、バンライフ再開の日は近いかもしれません。
後編では、ノエル号の改造の詳細をご紹介。かわいい見た目からは想像もできない、本格的なアウトドア仕様のDIYバンの秘密を大公開します。
文/矢口 あやは
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)