
プレリュード〜はじめに〜
その1音目は1978年、“パーソナルライフを楽しむための2ドアクーペ”としてデビューしたHonda 初代プレリュード。
スポーティーな外観を持ちながら、速さを競うためではなく、大切な人と過ごすひとときを美しく演出するための“スペシャリティカー”というキャラクターが与えられた。80〜90年代になると、そのスタイリングと快適な乗り心地から恋人たちの時間を彩る“デートカー”というジャンルを確立。5世代に渡って愛されたが、2001年に一旦その幕がおりた。
そしておよそ四半世紀を経たいま、あの時代の調べを受け継ぎながら、新しい譜面に書き換えられたプレリュードの幕があがる。最先端技術が惜しみなく投入された、まさに令和のスペシャリティカー。
往年のファンにとっては「青春の再演」であり、新たな世代にとっては「新鮮な初演」に──これは、まだ見ぬ景色へと向かうあなたへの前奏曲。

“世界に誘われるままに、わたしがプレリュードと走り出す──”
こんにちは、写真家の小川 元貴です。
プレリュードは“時を越える存在”だ。この伝統的な名前のなかで、過去と現在が重なり合い、より自由な組曲として響き始める。
かつてデートカーと呼ばれた時代の文脈では、どうしても「誰かが誰かをエスコートする」という構図がつきまとう。けれど今はもっと柔軟な考え方をしてもいい。自分の手でドアを開け、自分の運転でページをめくっていく…そんな曲のほうが、ずっと自然で、ずっと心地良い。
友人と笑いながらドライブしたり、家族と穏やかな時間を分かち合ったり。そしてもちろん、“わたしとプレリュードの旅”だって素敵なデートになる。誰かに連れて行ってもらうだけでなく、自分の行きたいところへ、心が向くほうへ走っていく。主役はいつだって“わたし”でいいのだから。
このクルマは、自由も、余白も、ときめきも──すべてを一緒に伴奏してくれる美しきクーペ。

アルマンド〜第一印象〜
“どこまでも飛んでいける予感”を感じさせるハッチバックスタイルの優雅なプロポーション。空を自由に舞う翼のしなやかさを形にしたような曲線は、開発コンセプトである“UNLIMITED GLIDE”を体現する。

Hondaの情熱をそのまま閉じ込めたようなボディカラーは伝統の"フレームレッド"。炎の揺らめきが幾重にも重なったような深みを持つ。それは冷たい金属の光沢ではなく、燃える生命を宿すように艶めき、官能的な余韻を残す。

エクステリアは、最初の一瞬から抗えない輝きで視線をさらう。フロントに向かって沈み込むシャープなノーズと、ボリューミーなフェンダーが魅せるワイド&ローのスタンス。そして全高に占めるタイヤ外径の割合を、スポーツカーの理想とされる約50%に設定。

“羽ばたく勢い”を表現したという「マルチファンクションライト」は外側へ上昇していく繊細なストライプが、その軌跡に躍動感を添える。ルーフモールはレーザーブレーズ接合を採用することによって排し、ガラスプリントアンテナがその流れを乱さない。
極めつけは格納式のフラッシュアウターハンドル。クルマ全体で限りなく凹凸のないスムースなラインを実現している。



プレリュードは“造形としての美”と“クルマとしての機能美”を兼ね備えた作品だ。これほど“優雅に滑空するシーン”が目に浮かぶエクステリアからは、実走行での安定感まで説得力を帯びてくる。
アクセルを踏むと、力強く滑らかに加速していくイメージが湧く。ステアリングを切った瞬間、車体がすっと向きを変える画が目に浮かぶ。まだどこにも走り出していないのに、走行中の姿が見えてしまう。
第一印象からしてプレリュードは“特別な存在”であることを全身で表現する。それは、オペラの舞台で独唱を響かせるアリアのように──ただ1台で心を震わせるオーラをまとっている。

インテリアも“滑空するような高揚感”を感じさせるデザインとされ、“GLIDING COCKPIT”がコンセプト。
華やかさのなかに品があり、ほのかな色気も漂う──まず目に入るノイズレスな水平基調のインストルメントパネルは、視界をまっすぐ導き、運転に集中できる環境を作り出している。

本革×プライムスムースのパーソナルシートは左右非対称でその役割は異なる。運転席はスポーツドライビングに適したホールド性を与えられ、“走り出す意志”を。助手席にはリラックスできるやわらかな座り心地が与えられ、“景色を楽しむ余裕”を。
もちろんHondaが開発した「ボディスタビライジングシート」をベースに開発されている。骨盤を安定させ、身体を点ではなく面で受け止めるので長距離ドライブでも疲れにくい。さらに姿勢が安定することで、運転操作がしやすくなり、予防安全にも貢献するだろう。

ホワイト×ネイビーブルーによるハイコントラスト配色の表面をよく見ると、クラシックかつモダンな千鳥格子のパーフォレーションがあしらわれ、上質さと遊び心が共存する。日本では「千取り(多くの福を掴む)」の語呂合わせから縁起柄とされ、着物や建物の装飾に使われてきた。

ミドルライニングは、和紙のような落ち着きがある雲柄表皮で、ゴールド×ブルーのバイカラーステッチが締める。古くから日本画では「すやり霞」と言って、主に金箔で雲を描いた。
この雲は同一画面内で複数の情景を共存させ、場面から場面へと自然な形で移行させるような効果をもつ。まさに左右異なるシートがひとつの車内に共存するプレリュードにふさわしい意匠。
さりげなく空を演出し、滑空感と特別な時間を提供しようという、設計者の“和のおもてなし”が伝わる。

このインテリアは、誰かとの対話も、ひとりだけの沈黙も──フェルマータのように美しく余韻を響かせる空間になる。

クーラント〜走り〜
プレリュードはその骨格にシビック タイプR(FL5)と高剛性シャシーを共有するが、その方向性は対照的だ。シビック タイプRが稲光のように走りの情熱を刻むなら、プレリュードは風の指先で旋律を奏でる──ホイールベースはシビック比で130mm短縮され、旋回性能の底上げが図られた。
自然と一体感のあるドライブフィールは“Enjoy the GLIDE”がコンセプト。スポーツドライビングを前提に開発されたこのプラットフォームだけでも、ビークルダイナミクスの素性が極めて高いレベルにあることを証明している。

パワーユニットは2.0L直噴エンジンに、2モーターを組み合わせた伝家の宝刀 “e:HEVシステム”。セッティングはプレリュードの名に恥じぬよう調律され、第一級のスポーツユニットへと磨きあげられた。
滑空するかのような加速フィールと、緻密な操縦応答性、その一瞬一瞬がこのクルマを再び“スペシャリティカー”へと輝かせる。もちろんe:HEVの高効率も追及し、燃費はWLTCモードで23.6km/Lを誇る。スポーツクーペでありながら環境性能も申し分ないのだ。


足回りも見どころ満載だ。FF車のフロントサスペンションは駆動と転舵、ふたつの役割に関わっている。高トルクエンジンのFF車ゆえに発生するトルクステアは、ドライバーの操舵する意図がないにもかかわらず車が曲がろうとする現象。このトルクステアとコーナリング時の接地性は、FFスポーツカーのさらなる高い運動性能を求めるうえでの課題だった。
そしてこれらをクリアした技術がHondaの開発した「デュアルアクシス・ストラット・サスペンション」。転舵と姿勢保持という、ふたつの仕事それぞれに最適な軸を持たせたことで、トルクステアの低減とコーナリング性能が飛躍的に向上。それが“ふたつの軸(デュアルアクシス)”を持つこのサスペンション最大の特長だ。

「アダプティブダンパーシステム」は、路面状況に応じてリアルタイムに各ダンパーの減衰力を独立制御し、日常域からスポーツドライビングまで幅広く対応する。
足元を飾るのは、Honda純正アクセサリー。切削クリアとベルリナブラックで引き締められた19インチアルミホイール「MS-051」だ。
タイヤは150年以上の歴史を誇るドイツの名門 コンチネンタルの「PremiumContact6」が採用され、前後共に235/40R19を履く。この組み合わせはしっかりと手応えのある確かな接地性と安定感を実現。硬すぎないマイルドな乗り味でプレリュードのキャラクターによく合っている。

制動を担うのはφ350mmのブレンボ製「フロント大径2ピースディスクブレーキ」。イタリアの名門が手がけるこのシステムは、優れた放熱性と高い剛性により、強力なストッピングパワーと緻密なコントロール性を両立させる。
鮮やかなブルーのキャリパーにホワイトの"Prelude”レタリングが特別感のある演出だ。

このようにサスペンション、ダンパー、ホイール、タイヤ、ブレーキ──そのすべてが高い水準で統合され、ハイパフォーマンスな走りを支える盤石の布陣を敷く。そしてその連携が安全かつ正確無比なハンドリングを実現し、“操る喜び”を最大化している。

さらにHondaが開発した旋回支援システム“アジャイルハンドリングアシスト”の作動範囲を拡大して搭載。
ドライバーが意図する走行ラインを推定し、旋回内側の前輪ブレーキを制御することで回頭性やライントレース性が向上。
タイヤの角度だけでは得られない車の向きを変える力を生み出し、よりシャープな旋回が可能に。雨道や雪道でのスムースな走りや、緊急回避時の操縦性にも貢献する。


「ドライブモードスイッチ」は、選択したモードに応じた走行性能へ車両制御を変更できる。同時にデジタルグラフィックメーターのカラーも各モードで切り替わる。
・SPORTモード(運転操作の応答性を高める)
・GTモード(操作性と快適性のバランスを最適化する)
・COMFORTモード(快適性を高める)
・INDIVIDUALモード(各カテゴリーを希望の設定に個別カスタマイズ)


メインプログラムは初採用の“Honda S+ Shift”。これはハイブリッドシステムのなかに仮想8段トランスミッションを構築するパワーユニット制御技術。NSXをも超える電光石火の変速レスポンスをパドルシフトで操り、滑らかに音階を駆け上がっていく。
基本3通りのドライブモードとS+ Shiftを組み合わせれば、その日の気分や走る道に応じて計6通りの“楽章” を選べるのが楽しい。


S+ Shiftのフィーリングを支えるのが、“アクティブサウンドコントロール”。低回転域では排気音成分である2次音を強調することで迫力のあるエンジンサウンドを。中回転域では伸びやかな倍音。さらに高回転域ではクリアなハーモニックサウンドで伸び感を高めながら、7次音成分が加わりレッドゾーンへ向けて上昇していく。
まるでフィナーレに向かって盛り上がる交響曲のクライマックスのように──S+ Shiftは制御技術でありながら、プレリュードを“楽器”として完成させるための鍵なのだ。
そう、これは“爽快と悦楽のハイブリッド”。

振り返れば、プレリュードという名は常に“その時代の最先端”を歩んできた。初代は国産車として初めて電動サンルーフを採用し、2代目は同じく初のABSを世に送り出し、3代目では4輪操舵という革新的メカニズムを実装した。
一見すると軟派な“デートカー”のイメージが先行するが、その裏側には持てる技術を余すことなく注ぎ込み、新しい地平を切り拓こうとするHondaの夢と意地が息づいている。

プレリュードの第一印象と走りの本質を辿っていくと、スペックの羅列では伝わらない雰囲気を持ち、知るよりも“感じる”瞬間のほうが多いクルマだと気づく。
ならば次は、その響きを旅の風景の中で確かめてみたい──後編では、冬でもやわらかな陽だまりが残る房総半島への女子旅。横顔に差し込む光と海を渡る風のレガートが、このクーペのロマンをより深めてくれるはずだ。

- 今回の記事で使用したクルマ
- PRELUDE純正アクセサリー装着車
ボディサイズ:4520×1880×1355mm 長幅高
ホイールベース:2605mm
車両重量:1,460kg
駆動方式:FF
サスペンション:Fデュアルアクシス・ストラット Rマルチリンク
トランスミッション:電気式CVT
エンジン:1993cc直列4気筒DOHC
エンジン型式:LFC
最高出力:104kW[141ps]/6,000rpm
最大トルク:182Nm[18.6kgm]/4,500rpm
モーター:H4(交流同期モーター)
最高出力:135kW[184ps]/5000-6000rpm
最大トルク:315Nm[32.1kgm]/0-2000rpm
燃料タンク容量:40L(無鉛レギュラー)
燃費:WLTCモード 23.6km/L
写真・文/小川 元貴
編集/カエライフ編集部
撮影協力/Kamogawa SEASIDE BASE