
サラバンド〜出発〜
冬の入り口で、彼女はそっと音量をしぼるように日常から離れる。慌ただしい毎日のリズムから一拍だけ抜け出し、自分の速度でページをめくる“ひとり旅”。隣には赤いプレリュード。向かうのは12月でも暖かな日差しが届く場所。碧く光る海、頬を撫でる風、潮の香り、そしてまだ白紙の譜面。ここから先の物語は、彼女とプレリュードの優しいアンサンブル──

──東京での日々はいつも忙しない。だから休みの日には時間を気にせず、目的地も決めず、ただ気ままにドライブすることが好きだ。
北国から降雪の報せが届く季節だけれど房総半島は小春日和。太平洋と東京湾、ふたつの海がつくる和やかな光景に会いたくて、今回は迷いなくそこを選んだ。
安全運転支援が充実したプレリュードとなら、ひとり旅でも心細さはない。むしろ共にテンポを合わせてくれる“伴奏者”のような安心感がある。まだ名前のない旅の鞄を抱え、キーを持って外に出た。

車内に入りドアを閉めると、まるでノイズキャンセリングされたかのような静けさに包まれる。パワーユニットをオンにしてもその静寂に変化はない。
スポーツカーは派手な音とともに目覚めるイメージもあるが、プレリュードは落ち着いたカルマートのまま。見た目とのギャップがこのクルマの優雅さをいっそう引き立てている。

そんな空間に標準装備となる「8スピーカー BOSEプレミアムサウンドシステム」──プレリュード専用に調律されたクリアな音は、さながら“自分だけのコンサートホール”と言える贅沢。窓の外の冬空は澄んでいて、日差しは暖房がいらないほど車内を暖める。
こんな気分の良い日には、どんな曲をかけよう?朝の海に合うやわらかなピアノも良いし、足取りを軽くするポップスも悪くない。鼓動をひとつ速めるようなビートを選んでも、このクルマならきっと上品に受け止めてくれる。

スタートは京葉道路から館山自動車道へ。優れた空力特性と足回りを味方にしたプレリュードはオン・ザ・レール感覚で真っ直ぐな道を悠然と駆け抜けていく。アクセルを踏み込めば、指揮者がタクトを振り下ろすようにパワートレイン全体が一糸乱れぬ合奏を始め、モーターとエンジンがシームレスに切り替わりながら繰り返しリフレインする。

もともと素性の良いボディだが、このプレリュードは純正アクセサリーのエアロパーツを装備している。その形状は前後のリフトバランスを最適化するため、風洞実験を幾度も繰り返し、空気の流れを磨き上げられたものだ。
高次元のエアロダイナミクスがもたらすのは直進安定性だけでなく、旋回や減速時の安定性にも寄与。時速80キロでのレーンチェンジでさえ全くブレず、風の軌道をなぞるように水平にスライドする。


広い空を眺めながら走っていると自然と口元が緩む。プレリュードの本領ではないかもしれないけれど、踏むでもない、抜くでもない、パーシャルスロットル。音楽で言えば、速くもなく、遅くもない──モデラートが心地良い。

やがて清澄養老ラインに入り、道は立体的に転調する。先程までの高速巡航と打って変わって、路面は急勾配とタイトなカーブが連なる峠道へ。
人と走行用バッテリーは車体中央付近に低く配置され、「アルミ製フロントフード」の恩恵で鼻先が軽くなるぶん、重心はさらに中央寄りに。自分を中心軸としてクルマが曲がるような、手の内にある感覚。
しなやかで高いボディ剛性は高性能なサスペンションを余すことなく活かし、下り坂ではブレンボブレーキが1,460kgの車体に余裕を持って制動する。ステアリング、アクセル、ブレーキ──ドライバーの入力に対し、クルマからの応答が抜群に良い。だから長丁場でも集中力が途切れない。


もみじ谷は、ほとんどの葉を落としていた。鮮やかに燃えていたであろう赤も黄も、枝先にわずかな名残を残すだけ。
観光シーズンを終え、いまは誰も訪れない。でもこの“季節の終わり”の空気は嫌いじゃない。足元には落ち葉の絨毯がふかりと敷かれ、人の気配が途絶えた静けさの中で、クルマをじっくり撮ることができる。
谷を抜ける風は冬の冷たさをまとっていて、思わず肩をすくめる──温かい飲み物を持ってくればよかったかな。そんな小さな後悔さえ、いまは心地いい。


峠を抜けると、息をのむほど鮮やかな太平洋が目の前に開けた。キラキラと輝く海面には波が次々と押し寄せ、耳ではなく、胸の奥で聴く “光のカノン” を奏でている。プレリュードは海風に乗るように走り、ステアリングを握る指先も気持ち良くテンポを刻む。

寄り道では、前々から気になっていた"Kamogawa SEASIDE BASE"でラグーンレモネードを。暖流である黒潮が通る鴨川の海は冬でも15℃を超えるような日がしばしばあって、涼しげなドリンクも違和感がない。


海辺の駐車場に停めて休憩していると、ご夫婦と大学生くらいの娘さんが話しかけてきた。「昔ね、わたしたちもプレリュードに乗っていたんですよ」そう言いながら、まるで懐かしい友人に再会したかのような笑顔を向けてくれる。
娘さんは興味津々で車を眺め、お父さんは思い出話をしながら目を細める。お母さんは「いつの時代も、このクルマは素敵ですね」と柔らかく微笑んだ。
その光景は海よりも澄んだ色をしていて…ふと気づく。夢のあるクルマは、人の記憶を呼び起こし、人を結び、人を笑顔にする──そんな“ご縁を運ぶ乗り物” なんだと。

冬は陽が傾くのが早いけれど、空気が澄んでいるから綺麗な夕空に出会うことが多い。そんなシチュエーションをドライブしていると、映画の登場人物になったような、現実の輪郭が少しだけ薄くなるような心地がする。
不思議なほどに、プレリュードはどんな景色にもすっと馴染む。それは単なるデザインの調和ではなく、Hondaが大切にしてきた“M・M思想”──マン・マキシマム/メカ・ミニマムという「人をもてなす空間づくり」の心が、どこかノスタルジーな風景を包み込むからなのだろう。
せっかくだから、と1日の終わりをゆっくり見送ってから帰路についた。


計画も立てずに飛び出した日帰りの旅が、こんなにも豊かになるとは思わなかった。さまざまな道を走り、思いがけない景色や人のあたたかさに触れ、それらすべてが今日という日の “音色” になって、静かに胸の奥で反響している。
プレリュードとのドライブは、こんなふうに心を彩ってくれるんだ。“デートカー”として積み重ねられてきた乗り心地や快適性への細やかな配慮も、他にはない独自の魅力だとあらためて思う。
「このクルマとなら、どんな景色も、きっと忘れたくない思い出へと変わっていく──」

ガヴォット〜プレリュードのギャラリー〜
ここでは本文に載せきれなかった写真たちを。流麗なそのルックスはどこで撮っても風を感じる被写体だった。ぜひ"デート"に連れ出してあなただけの景色を見つけてほしい。













メヌエット〜お別れ〜
能楽の世界に「秘すれば花」という考え方がある。このスポーツクーペは、性能を声高に主張しない。控えめに、けれど確かに、必要な瞬間だけその音を響かせる。
表舞台に立つ力を持ちながら、すべてを見せないことによって、想像力と感動を引き出す。そのたたずまいは、まさに秘すれば花。
このクルマは多くを語らない、物語は呼吸を合わせながら乗り手が完成させる。

前奏曲(プレリュード)──それは本来、“自由なイメージで奏でる音楽”だという。そこにはこれから始まる未来への希望が満ちている。だからこそ、この名を冠したクルマもまた、誰かの第一楽章を導く存在なのだと思う。どんな速度で、どんな道を選び、どんな景色を描くかは、すべて自由だ。型にとらわれず、思うままに、風の五線譜に自分らしいメロディーを刻んでほしい。次にプレリュードと“デュエット”を紡ぐのはきっと、あなた。
その心象がどんな色をしているのかは、いまはまだ語らなくていい。
語らないからこそ、美しいのだから──

ジーグ〜おわりに〜
今回の試乗インプレッションは令和のスペシャリティカーとして華々しくデビューしたHonda プレリュード。実際に運転してみて、高度な電子制御で人間の意思が介在する余地はほとんどないのかと思いきや、五感に訴えかける魅力に溢れていた。
僕はサーキットを走ったこともないし、高い運転技術を持っているわけでもない。それでも「クルマの運転はこんなにも楽しいものなんだ!」と心の底から思える数日間だった。
“乗りやすさは性能”とも言える。誰でもドライブを楽しめるこの間口の広さがプレリュードの本質であり、Hondaの核心である“操る喜び”なのかもしれない。

モビリティ産業の重心が“体験”へと移行するなか、プレリュードは全国の販売店でレンタルできる機会が設けられている。Hondaとしても新型車を販売店で貸し出すのは今回が初めての試みだそうだ。
ぜひ“大切な日”の演出に乗ってみてほしい。ひとりでも、誰かと一緒でも、カンタービレ──歌うように優雅で素敵な一日になるはずだ。

2026年、プレリュードは大きなステージへと上がる。SUPER GT500クラス──あの熱狂の舞台で、翼を広げる準備をしている。そして“おもてなしの心”を持って、日本から世界へと歩み出すクルマでもある。
70年代から連綿と紡がれてきた伝統。そして、どの時代においても最先端であろうとしてきた革新の火。そのふたつを時代を超えて受け継ぐのが、新型プレリュードだ。
偉大な音楽家グスタフ・マーラーは「伝統とは火を守ることであり、灰を崇拝することではない」と語り、価値観の継承と革新の重要性を説いた。
この言葉をプレリュードに重ねるなら──昔の姿をそのまま復刻するのではなく、あの時代の“熱”を現代の技術で再解釈し、新しい感動として生み出すこと...だろうか。
まさに、このクルマをよく現した一節だ。

遠い季節から運ばれてきた熱は、過ぎ去る日々を旋律に変えて、鮮やかな光を落としていく。
感性を奏でる“表現の楽器”としてプレリュードを愉しむ。
自由に、軽やかに、自らのテンポで。
「きっとこの先の景色も、風の調べに導かれるまま拓けていく──」

- 今回の記事で使用したクルマ
- PRELUDE純正アクセサリー装着車
ボディサイズ:4520×1880×1355mm 長幅高
ホイールベース:2605mm
車両重量:1,460kg
駆動方式:FF
サスペンション:Fデュアルアクシス・ストラット Rマルチリンク
トランスミッション:電気式CVT
エンジン:1993cc直列4気筒DOHC
エンジン型式:LFC
最高出力:104kW[141ps]/6,000rpm
最大トルク:182Nm[18.6kgm]/4,500rpm
モーター:H4(交流同期モーター)
最高出力:135kW[184ps]/5000-6000rpm
最大トルク:315Nm[32.1kgm]/0-2000rpm
燃料タンク容量:40L(無鉛レギュラー)
燃費:WLTCモード 23.6km/L
写真・文/小川 元貴
編集/カエライフ編集部
撮影協力/Kamogawa SEASIDE BASE