ここ数年、日本における台湾がアツい。
おいしいグルメや親切な人々、日本から3時間程度で行けるアクセスの良さも手伝って、各メディアがこぞって発表する「行きたい海外旅行先ランキング」では度々トップ入り。海外旅行先の定番とも言えるハワイをもしのぐ人気を見せている。日本から台湾への訪問客は2019年に初の200万人超えの大台に乗り、今後ますますの盛り上がりを見せ……
というタイミングで訪れたのが、海外へ渡航できない日々(涙)。
しかし「いつか行きたいと思っていたのに!」という“台湾初心者”な皆さんも「台湾ロスで干からびそう」という“台湾LOVE”な皆さんも、どうか気を落とさないで欲しい。台湾現地への旅行ができない今、驚くほどの盛り上がりを見せているのが “日本国内の台湾スポット” なのである……!
どこからどう見ても台湾ですよね? とツッコミたくなる立派な廟(びょう)や、超本格的な台湾グルメ、台湾産のフルーツが堪能できるスイーツも。私たちが「台湾へ行ったらやってみたい!」と思うことのほとんどが、実は日本でも体験できちゃうのだ。
今回は、書籍『おでかけ台湾 in 東京・京阪神』(朝日新聞出版)にも関わり、国内の台湾スポットを知り尽くした私が、車で巡りたい! 埼玉県内の台湾スポットを案内させていただく。台湾人もびっくり!? の本気の台湾スポットをご覧あれ!
- 田中 伶(たなか れい)
- Howto Taiwan編集長。高校生の頃に見た台湾ドラマ「流星花園」がきっかけで中国語を勉強し始め、台中の靜宜大學に留学。帰国後はPR/ライターとして、台湾の魅力や台湾ポップカルチャーを広めるべく熱烈活動中。著書『FAMILY TAIWAN TRIP #子連れ台湾』、制作・執筆『妄想Trip! #おうち台湾』『おでかけ台湾 in 東京・京阪神』ほか。
Twitter:@reitanaka_119
Howto Taiwan:https://howto-taiwan.com/
台湾ローカル旅に欠かせない“鉄道弁当”を食す! 大宮「台湾茶房e~one」
都内から車を1時間ほど走らせてやってきたのは、大宮にある台湾人の奥さまと日本人のご主人が営む「台湾茶房 e~one」さん。もともと小さな劇場だった一軒家をリノベーションしたというお店は、その外観からしてなんだかほっこりとした温かさが感じられる。
台湾の屋台ではおなじみの紅椅頭(アンイータウ)と呼ばれる赤い椅子に、台湾の街並みで見かける郵便受けなど、台湾好きが見たらいきなり心奪われるモチーフがいっぱい。台湾出身の奥さまのフレンドリーさもあって、地元の常連客も多いのだとか。
言わずもがな昔から台湾人に愛されてきた台湾料理や手作りのスイーツ、台湾茶などを提供するのだが、店の外に「これは!!!」と台湾マニアが思わず反応する文字が。
それが “台湾鉄道排骨(パイコー)弁当”である……!
“台湾鉄道排骨弁当
― 台湾鉄道旅行のお供…… 駅弁を再現しました!“
台湾での人気観光コースとして、昔ながらの台湾鉄道に乗って各地を巡るローカル旅があるのだが、そこで欠かせないのがこの鉄道弁当(いわゆる駅弁)だ。もともとは日本人が台湾を統治していた1900年代に日本人が持ち込んだとされているが、その後は台湾に定着し、100年以上の歴史を重ねた。排骨(パイコー)と呼ばれる豚スペアリブのカツがドーンとのっているのが定番スタイル。まさかこれが大宮で食べられるとは!
埼玉の大宮といえば鉄道の街。鉄道文化が根付き、鉄道博物館があることでも有名だ。店主であるご夫妻は、そんな大宮と台湾の共通点にもご縁を感じ、台湾式の駅弁の再現、提供に至ったのだとか。現在は毎週金曜日のランチ限定の日替わりメニューとして提供されているのだが、これを目当てに来るお客さんも多い。
注文してまもなく、昔ながらのステンレス製の弁当箱がお目見え。現地感漂うレトロなロゴが最高。サラダ、スープ、食後にほっと安らぐ台湾茶がついて990円(税込)。
台湾の人たちは温かい料理を好むことが多く、駅弁といえども容器ごと熱々に加熱された状態で提供される。現在はコストの関係で紙の容器が主流になったため、このタイプの弁当箱は現地でも珍しいものになってしまった。ステンレス製の弁当箱でいただく古き良き鉄道弁当が恋しい台湾人のみなさ~ん! ぜひ大宮へ!
さてさて。いざ、弁当箱の蓋をオープン!
「わあ、茶色い〜!!!」
台湾好きの間では “茶色いものは大体おいしい” なんて言われている。つまり “茶色い” は最上級の褒め言葉。甘辛いタレがしみしみの、豚カツが、めちゃくちゃいい匂いを放っている。煮玉子にお野菜、たくあんが添えられているのも嬉しい。
そして、はい、ドーン!
このお弁当箱、まさかの二段重ねという嬉しいサプライズ!
下段には、蒸し野菜を敷き詰めたほかほかの白ごはん。
一般的なイメージと違うかもしれないが、台湾の料理は油を大量には使わないヘルシーなものも多い。食べるもので身体をいたわる、台湾の人々の優しさを感じる絶妙なバランスだ。
見よ! これが駅弁の主役、排骨(パイコー)だ!!!
五香粉が香る醤油ベースの甘辛いタレがしみしみ、最高にいい香り。
タピオカ粉を使った薄い衣の排骨は、サクッとした食感で意外とあっさり。女性でもぺろりとイケる! そして甘辛いタレがご飯にめちゃくちゃ合う!
昔ながらのたくあんのポリポリ食感が楽しかったり、シンプルな味付けの蒸し野菜もさりげなく絶品だったりで、二段重ねの鉄道弁当をあっという間に平らげてしまった。こんなにも絶品な弁当が鉄道旅のお供だなんて、そりゃ台湾の人たちはみんな鉄道旅したくなるわな〜〜!
かつて日本人から台湾に伝えられた駅弁が、今でも人々に愛され、そして時を超えて「鉄道のまち大宮」に帰ってきた……。ノスタルジックな雰囲気の店内で、そんな歴史的な背景にも想いを馳せてみてほしい。
さて、本当なら「お目当ての料理も食べられたし、さあ次のスポット!」という予定だったが、ど〜〜〜しても心惹かれるメニューが。それが夏季限定の昔ながらの台湾式かき氷である。
台湾のかき氷といえば、フルーツたっぷりボリューム満点! というイメージが強いかもしれないが、あれはどちらかというとフルーツの生産が盛んな地域や観光地などを中心に盛り上がっていったもので、台湾の人々が昔から地元で慣れ親しんできたかき氷といえば、こちらがスタンダード。
削った氷の上に小豆やタピオカ、芋圓(ユーユェン:タロイモやさつまいもで作ったお団子)を載せ、黒糖シロップをかけていただく。全体をシャクシャクと混ぜながら食べると、ひんやりと冷たいぜんざいのような味わいにも似ている。モチモチとしたトッピングの食感も楽しい。かき氷で冷えた身体を、温かい台湾茶でじんわりと温めるのもまたオツなのだ。
昔懐かしい台湾味にこだわりを持つ「台湾茶房 e~one」さんで食べるなら絶対に間違いない! と確信を持ってオーダーしたが、やはり期待を裏切らない味だった。
他では食べられない台湾ご当地メニューも多く、手土産にもぴったりな手作りのパイナップルケーキや、季節限定の味も盛りだくさん。サクッとランチはもちろん、台湾茶をゆったりいただくカフェとしても、ワイワイ居酒屋的にも使えるお店なので、ぜひ訪れてみてほしい。
店先には店舗オリジナル(!)の台湾ガチャもあるぞ! 台湾の昔懐かしい生活雑貨をモチーフにしたキーホルダーなど、ここでしか手に入らないアイテムがGETできるかも。
台湾茶房 e~one(たいわんさぼう いーわん)
埼玉県さいたま市大宮区東町1-121-2
Instagram:@taiwansabou
国内最大! 台湾の道教の廟「五千頭の龍が昇る聖天宮」
続いて車を走らせて向かったのは、埼玉県坂戸市の道に突如として現れる……存在感抜群の廟(びょう)「五千頭の龍が昇る聖天宮」だ。
おそらく道行く人々は誰しも「この建物は一体なに?」と思うことだろう。公共交通機関ではややアクセスしづらい場所にあり、ぜひ車で訪れてほしい国内の台湾スポットである。
実は今回、初訪問。
噂には聞いていたが、予想を大きく上回るスケールで、車窓から見えた瞬間「おおお……!」と、編集部の皆さん共々、感嘆の声が漏れた。
ででーーーん!
真っ青な空に映える、きらびやかな装飾の入り口!
ちょっともう、スケールが凄い。この規模感、なんだかもう楽しい。
しかしおそらく誰もが抱くのは「なぜこんなにも立派な道教の廟が、埼玉に?」という疑問だろう。
「五千頭の龍が昇る聖天宮」は、台湾人貿易商である康國典(こうこくてん)大法師により、難病治癒の記念として建立された。台湾ではなく日本の埼玉に、というのはお告げがあったからこそのものらしいが、ここはもともと雑木林だったのだ。現在の最寄り駅である若葉駅すらなかったこの場所を一から整地し、一流の宮大工を台湾から呼び寄せ、約15年をかけて建立したのだという。1995年に開廟。
「五千頭の龍が昇る聖天宮」という名前のとおり、入り口から本殿まで、廟の至るところに龍がいる。壁、床、柱、天井…… その数、五千。時間に余裕のある人はぜひ数えてもらいたい。
この場所を訪れたらぜひ体験したいのが、長い線香を使った道教式の本格的な参拝だ。参拝方法については日本語で書かれた案内があったり、常駐のガイドの方が手順を丁寧に解説してくれたりと、とても手厚かった。
本殿では、ご本尊の名前を最初に唱えること、日々の報告や願い事はとにかく具体的に伝えること、お辞儀をするときの手の向きが男女によって違う(男性は陽・女性は陰を表す)ことなど、初めて知るルールも多かった……!
台湾現地の廟を訪れたときにいまいちよく分からなかった参拝方法も、ここでしっかり練習してみると良さそう。
さて、次に体験しておきたいのが、神椑(ポエ)を使った占いだ。
台湾の廟を参拝したときに、三日月型の赤い木片を何度も床へ落とす風景を見たことがある人も多いのではないだろうか。ぜひ、埼玉・坂戸市で体験を!
まずは男女別に置かれたおみくじを一本引き、書かれた数字を覚えておく。
いま引いたおみくじで良いかどうか? を神様に聞くために、その場に置かれているポエを両手に持ち、床に投げる。
この結果次第で、もう一度投げたり、おみくじを引き直したりする。
一般的に台湾のおみくじは解説がないと内容がわからないことが多いが、こちらのおみくじは日本語で具体的に書かれていた(ありがたい)。
道教といえば、台湾で最も信者が多い宗教だ。
こんなに立派な廟なのだから、日本に住む台湾の人々がわざわざ訪れるに違いない……! と思ったが、実際は、この豪華な建築や精巧な装飾を楽しむ日本の観光客や、撮影目当てのコスプレイヤー(聖天宮ではコスプレイヤーなどの撮影や、CMやミュージックビデオの撮影も歓迎している)などの参拝客が多いそう。もちろん、最近は近場で台湾気分を味わいたいという人々も多いとのこと。
道教の最高神といわれる「三清道祖」を祀る宗教施設でありながらも、どことなくおおらかで寛容な台湾人マインドを感じずにはいられない。わざわざ行く価値のある、壮大な台湾スポットだった……!
そしておおらかといえば、休憩所にある突然のゆるいお土産コーナー。台湾の昔ながらのお菓子やジュース、インスタント麺など、オリジナルのセレクトで楽しませてくれる。
お土産に大好きな「金宣茶」のティーバッグを購入。標高の高い台湾の阿里山で栽培された高級な台湾茶を、自販機で購入するアンバランス感がたまらない。
道教の神様へのご挨拶はもちろん、美しい建築を楽しんだり、撮影大会をしてみたり、台湾土産をゲットしたり。なんとも不思議で濃い時間が流れた。最寄りの若葉駅からは徒歩30分となかなかハードなので、ぜひ車で訪れよう!
五千頭の龍が昇る聖天宮
埼玉県坂戸市塚越51-1
拝観料:大人(高校生以上)500円
台湾好きが高じてカフェをオープン!? 「好春茶房」
埼玉の台湾スポット巡り。最後に訪れたのは、埼玉県入間市・ジョンソンタウン内に位置する台湾カフェ「好春茶房」。こちらも到着するなり、思わず歓声を上げてしまった。
なんせこの「ジョンソンタウン」自体がめちゃくちゃかわいいのだ!!!
ジョンソンタウンとは、元米軍住居地域跡地で構成された街。アメリカンスタイルの家屋や建物がゆったりと並び、統一された街並みとして維持されている。アメリカの郊外にやってきたような雰囲気が漂っていて、あちこち散策したくなる。台湾とはちょっと違う街並みではあるけれど、これはこれでとてもいい。
そんなジョンソンタウンの一角にあるのが「台湾茶カフェ 好春茶房(ハォチュンサボウ)」。2022年にリニューアルオープンしたばかりの店内に入ると、まるでタイムスリップしたかのような懐かしい台湾雑貨や、オーナーさんのコレクションだというアンティーク調のインテリアが出迎えてくれた。
早速メニューを開くと、魯肉飯や牛肉麺、水餃子や蔥油餅(ツォンヨウビン)など、台湾の屋台料理が並ぶ。どれもこれも美味しそう!
ページをめくるごとに、手作り感でいっぱいのメニューがなんだか温かくて愛おしい。
それもそのはず、こちらのお店は台湾好きの主婦であるお二人が、台湾愛から共同で始めたお店なんだとか!
台湾が好きすぎてお店を始めちゃうなんて、その熱量…… 同志……!!!
という感じで、注文するのも忘れて台湾トークに花を咲かせる。店内に並ぶ雑貨やインテリアは、かつての台湾旅行で買ってきたものや、台湾の友人に送ってもらったものを使ってDIYしているのだそう。
厚かましくもキッチンまで見せてもらい、中でも目を引いたのは台湾式のめちゃくちゃ年季の入ったかき氷機。思わず「どこで買ったんですか!?」と聞いてみると「オークションで見つけました」とのこと。「たぶん店じまいする台湾人の方が出品したんじゃないかなあ… 掘り出し物だと思ってすぐに入札しました(笑)」と語っていた。台湾好き、恐るべし。
この機械で削ったかき氷なんて、おいしいに決まってる! と、台湾産のマンゴーを使ったかき氷をオーダー。出てきたのは、台湾でよく見かけるミルク味の氷を線状に削った「雪花冰(シュエホアビン)」と呼ばれるタイプのかき氷。真っ白な氷の上には、ごろっと大ぶりにカットされたジューシーな台湾産のアップルマンゴーが、丸々一個分、贅沢にのっていた。これはもうね、贅沢品よ……。
口の中でスッと溶けてなくなるミルク味の氷と、ジューシーで甘酸っぱい台湾マンゴーのコラボレーション! たまらんっ……!!!
またこちらのお店では場所柄、テイクアウト&食べ歩きを楽しむ方も多いらしく、そんな方たちに人気なのが、大きなサイズの肉まん。熱々ふかふか、中にはぎっしり肉餡が詰まっていて食べごたえたっぷりだった。
動物に優しい街としても知られるジョンソンタウン。
大きなワンちゃんとテラスでゆったり台湾茶を楽しむ地元のお客さんの姿を想像してみたら、羨ましくてたまらなくなった。
それにしても、台湾好きなお友達と、台湾愛が高じてカフェをオープンしてしまうなんて、なんだか未来の自分を見ているような気分にもなった。
台湾の人々の温かさ、おいしいグルメ、ゆるくスローな空気感、ルールにとらわれない寛容さ。そうした台湾のあらゆる良いところが重なって、こんなふうに背中を押される人が近年増えているのかもしれないなあと感じた。
台湾茶カフェ 好春茶房(はぉちゅんさぼう)
埼玉県入間市東町1-6-8 Johnsontown ハウス5443E
Instagram:@haochunsabo
今回は埼玉にある台湾スポットを3軒ご紹介した。
台湾特有のゆったりとした空気を、ここ日本で、感じ取ってもらえたら。
きっと次なる台湾旅行に期待はますます膨らむだろうし、増え続ける国内の台湾スポットをもっと開拓したくなるだろう。ぜひあなたの街の台湾も発見してみてほしい。
- 今回の記事で使用したクルマ
- N-WGN L・ターボ Honda SENSING / FF
ボディーカラー:プラチナホワイト・パール
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文 / 田中 伶
写真 / KEI KATO(ヒャクマンボルト)