ウィンタースポーツのシーズンまっただ中。スノーアクティビティにはスキーやスノーボード、雪山登山などさまざまありますが、いずれにせよ「早く山に行きたい!」とお休みを指折り数えてウズウズしている方は少なくないのでは? そんなはやる気持ちをあおるかのごとく今回ご紹介するのは、雪山を中心に日本全国の絶景動画を撮影・発信している映像クリエイターのkazuさん。スキー歴40年以上の同氏に、冬のアウトドアドライブを楽しむための愛車から撮影機材、雪道走行のコツ、さらには中級レベルの方におすすめの雪山まで教えていただきました!
▼監修
- kazuさん
- 映像クリエイター、作詞家。普段は横浜みなとみらいで働くビジネスマンながら、スキー歴40年以上の腕前と、生来の新しいモノ好きを活かして、アクションカメラ、ドローン、360度カメラなどで雪山を中心とした日本全国の絶景動画を撮影。アーカイブや撮影方法をSNSで発信しているほか、映像は『1億3000万人のSHOWチャンネル』(NTV)などテレビ番組や映画等でも利用されている
- YouTube @winteroptix
Twitter @winteroptix
あくまで雪山と新しいテクノロジーが好き
百聞は一見にしかず。なにはともあれ、以下のYouTube動画をご覧ください。
冬の八甲田山はじめ、越後妻有・星峠の棚田、二重カルデラの孤島・青ヶ島などなど日本全国の絶景を、美麗な4Kドローン映像で撮影しているのが、映像クリエイターのkazuさん。なかでも紅葉の涸沢カールの映像は嵐・櫻井翔さんが出演するバラエティ番組「1億3000万人のSHOWチャンネル」(NTV)で紹介されたり、ニュース番組「THE TIME」(TBS)でも使用されるなど、その撮影技術と腕前はプロ顔負け。こうした映像はYouTubeチャンネルで公開しているほか、撮影方法もTwitterアカウントで発信されています。
普段は横浜で働くビジネスマンとのことですが、どうしてこんな絶景映像を撮られるようになったのでしょうか?
kazuさん:生まれが新潟県ということもあり、子どもの頃からスキーに慣れ親しんで40年以上になります。なかでも──昔は「山スキー」と呼んでいた──「バックカントリー」という、管理されたゲレンデ以外を滑る山岳スキーが好きなんです。いわば、エクストリームスポーツなので、自分や仲間が滑っている凄いシーンを映像に残したくなる。もともと新しいモノ好きということもあって、アクションカメラが出たら試し、ドローンが出たら試し、360度パノラマカメラが出たら試し…とくり返してきて今に至るという感じです。
聞くところによると2008年頃には一眼レフカメラによる高精細な動画撮影に着手し、続いて一世を風靡したアクションカメラのGoProで遊び倒し、そして2013年には早くもドローンを導入したとのことですから、常にその時代時代の映像機器を先取りされていることがうかがえます。
kazuさん:当時ドローンという言葉はなくて「マルチコプター」なんて呼ばれていましたっけね。最初に買ったのがDJIの「PHANTOM」の初号機で、今では信じられないんですけど、手もとで映像が確認できないので勘だけを頼りに撮影しないといけなかったんです。
これは9年前の映像のようですが、ちゃんと撮れてますね。
kazuさん:そうなんです(笑)。この映像からまだ10年も経っていないのにドローンは小型化・低価格化して、何より空撮映像そのものが珍しいものではなくなりましたよね。でも当時は今まで絶対に撮れなかった空からの視点で撮れたのが新鮮だったし、規制らしい規制もなかったのでいろんなところで飛ばせた。それでハマって全国各地の絶景空撮映像を撮りに行くようになったんです。
確かに現在は、ほとんどのドローン(100g以上)が国土交通省への無人航空機登録が必要な上、飛行エリアによっては撮影許可が求められたり、最近では国家資格の免許制度も始まったりと気軽に飛ばせなくなりました。
kazuさん:撮影許可が必要になった時期からはちゃんと申請をして撮っていますが、手続きが面倒なのと、先ほども触れたようにみんなが所有しはじめたので、最近ドローンの出番は少なめですね。その代わり、ちょっと前までは「Insta360」のような360度パノラマカメラでの撮影にハマっていました。それも一般化しちゃいましたけど。
つまり、kazuさんは空撮映像を撮りたいわけではなくて、あくまで「今までになかったようなエクストリームな映像」が撮れるテクノロジーにいち早くトライするのが楽しいんですね。
kazuさん:そうなんです。なので、次は何かなあ、と探っているところなんですが、ここ数年出てないですよね。
エクストリーム映像撮影「三種の神器」
とはいえ、今でも撮影機材を雪山に持っていくというkazuさん。現在の愛用機器はどんなラインナップなのでしょうか? ひとつずつうかがいました。
kazuさん:まずは一人称視点が撮れるアクションカメラの「GoPro」ですね。近年はあまり大きなアップデートがないので、今使っているのは4世代前の「HERO7」です。こいつを首からぶらさげて滑走動画を撮っています。
kazuさん:ドローンは2台持っていて、いずれもDJIの「Mavic 2」と「Mini 2」。画質と軽さを天秤にかけてどちらかを持っていきます。バッテリーは予備も含めて3個ほど。どの機材もバッテリーが冷えると動かなくなるので、あらかじめ携帯カイロで温めておくといいですよ。
ちなみに今まで何百時間と飛行してきたそうですが、一度も墜落や遭難といったロストはないのだとか。うらやましい…(ロスト経験者)。
kazuさん:直近までハマっていたのが360度のパノラマ映像が撮れるInsta360シリーズですね。今は「Insta360 ONE X2」を滑走撮影で使っているのと、もうひとつ、とっても小さいアクションカメラというか、ドライブレコーダーならぬ歩行レコーダーという立ち位置の「Insta360 Go2」も持っています。
アクションカメラ、ドローン、360度パノラマカメラ、いわばこれがエクストリーム映像にとっての「現代の三種の神器」なのかもしれませんね。
雪山への相棒とスノードライブテクニック
ここまでkazuさんが絶景動画の撮影で愛用している機材をご紹介いただきましたが、そもそも雪山へアプローチするための相棒と言いますか、愛車は何なのでしょうか? 豪雪地帯の新潟出身だけにどんなクルマに乗っているのか気になります。
kazuさん:マツダの小型SUV「CX-30」です。コンパクトで取りまわしが良く、クリーンディーゼルで長距離を走っても燃費がいいのと、4WDなので雪道でも安定しているのとで気に入っています。むかしCX-3にも乗っていたんですが、ディーゼル車はリセールバリューがいいのもメリットですね。
最近はガソリン代が高騰してますものね。DIYやカスタムはなにかされてますか?
kazuさん:それが、荷室が広くスノーキャリアを付ける必要もなくて、ほぼそのまんまです。せいぜいスタッドレスを履かせるくらいで、いざスタックした時に備えてオートソックというタイヤ用の靴下を常備しています。チェーンと違って軽いしかさばらないので良いんですよ。
なるほど。それはいいことを聞きました。ちなみにバックカントリーへと遠征すべく、年間ですごい距離の雪道をドライブしていると思いますが、ご自身なりのドライブテクニックはなにかありますか?
kazuさん:特別なことはないんですが、やっぱり「急」のつく操作は避ける。急加速、急ハンドル、急ブレーキですよね。また、シーズンはじめはどうしても勘が鈍るので、誰もいない駐車場みたいな安全な場所で、雪道での制動距離を確かめたりしますね。
あと、怖いのは北海道のようにレンタカーを利用する場合です。普段乗りなれている愛車と違うし、アイスバーンみたいなおそろしい路面状況もありえるので、いつにも増して慎重に運転するようにしています。
それでも北海道の方は慣れているせいか雪道でもけっこう交通の流れが速くて怖いですしね。その雰囲気に呑まれないよう走るのも大事かもしれません。
中級者にオススメ絶景バックカントリー
今回せっかくですのでkazuさんにスキー&スノボの中級者にオススメの、絶景バックカントリースポットをうかがいたく。
kazuさん:ひとつは長野県・白馬八方からのバックカントリーですね。
kazuさん:バックカントリー愛好者からは「晴れたら八方」という合言葉があるくらい、定番のスポットです。アプローチがしやすいのも魅力で、通常バックカントリーってリフトが使えないのでスキー板を抱えて登るしかないんですが、八方はいい高さまでリフトがあるし、自力で登るところも少なく1時間くらいで済むのもいいですね。そこからガラガラ沢や押出沢に下っていくと楽しいですよ。
そういえば、おうかがいするのを忘れてましたが、そもそもバックカントリーの魅力って何なのでしょう?
kazuさん:やっぱり誰も入っていないフレッシュですべすべの斜面を滑ることができること。そして真っ白な斜面と真っ青な空の、美しいコントラストを独り占めできるところですね。他には、夏山登山だとバリエーションルート(一般の登山道ではない開拓が必要な登山ルート)でもないかぎり誰かが踏んだ道をなぞって登りますが、雪山は自分でルートを切り拓いていく楽しさもあります。
たしかに、冬は空気が乾燥しているのでめちゃくちゃ空もキレイですものね。でも冒険度が増す分、リスクもありますよね。
kazuさん:なのでグループ行動は絶対です。最近だと「ココヘリ」という衛星通信で遭難救助ヘリが要請できるサービスにも加入しています。
もちろんピッケル(アックス)やアイゼンといった登攀(とうはん)用具はじめ、雪崩にあってしまったとき用にショベルやビーコン、クイックドローといったアバランチギアも必ず携帯します。他にはツェルト(簡易テント)や非常食も必須です。
こうした登山装備は、雪山だけでなくクルマがスタックしたり吹雪で停滞した際にも有効ですね。
kazuさん:もうひとつオススメしたいバックカントリースポットが、秋田県と山形県の県境にまたがる鳥海山です。
kazuさん:時期的には鳥海ブルーラインが開通する4月下旬以降の春スキーになるんですが、鳥海山の魅力はなんといってもオーシャンビュー。日本海側なのでまるで海に飛び込んでいくかのようなダイナミックなスキーが楽しめますし、日没前後には夕焼けを眺めながらの滑走も楽しめるんです。山頂付近以外はなだらかな斜面ですので、まったり滑ることができるのもいいですよ。
高い山から冷たい水が海に流れ込む鳥海山付近は、1年中牡蠣が楽しめますし、まわりには温泉も充実してますから下山後も楽しめそうですね。
kazuさん:そうですね。ただ、それもこれもお天気次第。ここまで雪山へのアプローチのしやすさや、遭難対策装備などを紹介してきましたが、いちばん大事なのは「お天気」です。天気が不安定なときや悪いときは山に入らない。それを守るだけでリスクは相当下がります。
私も勤め人なので、せっかくの休みだからと無理してでも山に行こうと思ってしまう気持ちは痛いほどわかりますが、悪天候で向かっても何も楽しいことはありませんし、とにかく危険です。一部有料ですが今は『Windy』『ウェザーニュース』といった高性能のお天気アプリもありますので、予定日の数日前からそれをにらんで計画を立てることをオススメします。
おっしゃるとおり! 美しい映像を撮るには周到な準備や撮影機材はもちろんですが、なにより「十分な装備を持っていく」「天気をちゃんと確認する」といった基本が大切ですね。みなさんも無理せず雪道ドライブやスノーアクティビティをお楽しみください。
文/熊山准
写真/kazu
編集/熊山准、TAC企画