冬の沖縄はホエールウォッチングとプロ野球キャンプくらいで遊びの選択肢が少なくない? いえいえ、実は昨今流行りのサウナにはうってつけの季節。泳ぐには冷たい海でも水風呂だと思えばちょうどいいし、平均気温17度も外気浴にぴったり。実際、軽トラの荷台に載せられるモバイルサウナを作っちゃった人たちがいました。なぜ? どうやって作ったのか? ちゃんと「ととのえる」のか? 沖縄本島・名護市まで体験しに行きました。
▼お話をうかがった人
- 北野勇樹(きたの ゆうき)さん
加納佑樹(かのう ゆうき)さん - 沖縄県名護市に拠点をかまえる株式会社Social Designの共同代表。地域と育てるコミュニティーパーク「coconova」や、石垣島のライフスタイルホテル「MEGURU|巡」など、場所づくり、まちづくりをおこなっている
- 公式ホームページ SOCIAL DESIGN
目次
波の音を聞きながら「ととのう」サウナ体験
ここは冬の沖縄。日中の平均気温は17度前後と過ごしやすいものの、スキューバダイビング以外のマリンスポーツには不向きな季節で、観光のメインコンテンツといえばホエールウォッチングかプロ野球キャンプ観戦といった具合です。
とはいえ海は冬でも美しく。ドライブ中に思わず海辺にレンタカーを停め、しばし記念撮影に興じる観光客の姿が散見されます。
そんなキラキラしたシーサイドに、無骨な軽トラックを乗り付ける男たち。
男たちは、そのへんに椅子やバケツを広げたあと、次々とパンツ一丁になって荷台の「箱」に潜り込んでいくではありませんか。箱から伸びた「煙突」からは煙がモクモク。
中を開けて失礼してみると、男たちは汗だく。こ、これは……昨今ブームを巻き起こしているサウナじゃありませんか! ということは…。
水風呂がわりの海からあがった後は、リクライニングチェアで外気浴。波の音を聞きながらうたた寝すれば、「ととのう」こと間違いさなそうです!
確かに冬の沖縄の涼しさは、昨今流行りのサウナ、なかでもアウトドアサウナにぴったり。泳ぐには冷たすぎる海も水風呂だと思えばちょうど良いし、寒すぎない気温も外気浴にうってつけではありませんか。しかもこのサウナは軽トラの荷台に載っかっているので、海に乗り付けてしまえばどこでも「ととのう」ことができる。
こんな(良い意味で)ヤバいサウナカーを作ったのはどんな人たちなのか?
沖縄・名護のコミュニティパーク「coconova」へ
サウナカーを作ったのはコミュニティビルダーとして、場所づくりやまちづくりを手がける株式会社Social Designの北野勇樹さんと加納佑樹さんのお二人です。彼らが手がけたコミュニティパーク「coconova(ココノバ)」にお邪魔してお話しをお伺いしました。
まず、お二人ともいわゆるナイチャー(沖縄県外の日本本土出身者)だそうですが、どういった経緯で沖縄に?
北野さん:ぼくはデジタルノマドとして10年ほどアジアで放浪生活を送っていたんですが、あるとき2泊3日の旅行で名護にハマってしまい、そのまま移住しちゃいました。Social Designでは場所と場所、人と人をつなげたりとするコミュニティ担当ですが、最近では不動産や物件を探すことも担当しています。
加納さん:ぼくは東京を中心に、沖縄を行き来するいわば二拠点生活を送っています。Social Designでは企画やクリエイティブ、設計を担当しています。
このcoconovaもお二人のお仕事だそうですが、どういった目的で作られたのでしょうか?
加納さん:もともとぼくら自身が国や自治体が用意するパブリックな場所に満足ができなくて、地域の人たちはもちろん、ぼくらデジタルノマドのようなパブリックとは真逆の人たちがつながって、地域を盛り上げていく場所を作りたかったんです。
北野さん:ぼくらはコミュニティパークって呼んでるんですが、誰もが気軽に使える公園や公民館みたいな場所ですかね。その中でいろいろコンテンツを用意していて、フリーマーケットやライブ、展示会、ヨガ教室ができるスペースレンタルを中心に、コワーキングスペース、コーヒースタンド&惣菜店、カウンターバーまであるんです。
加納さん:実はサウナカーもcoconovaのコンテンツのひとつとして作ったものなんですよ。
そうなんですね! そうそう、なぜサウナカーを作ったのか、お伺いしたかったんです。
銭湯文化がない沖縄にサウナを
ではあらためて、なぜサウナカーを作ったのでしょうか?
北野さん:実は軽トラの荷台から脱着できるのでサウナ「カー」ではなくて、「モバイル」サウナなんですが、そもそも2人ともサウナが好きなんです。でも、最近でこそ少しずつ増えてきましたが、沖縄って銭湯文化やサウナ文化がほとんどなくて、だったら作ってしまおうと。
加納さん:さらに言うと、ぼくがサウナ好きの建築家として、サウナの設計に携わったこともあるので、せっかく作るなら新しいサウナが作りたかった。そこでヒントにしたのがテントサウナで、あの魅力ってやっぱり自然体験だと思うんですよね。幸い沖縄は水風呂がわりにできる海に囲まれているので、移動できればどこでもサウナになるなと。
なるほど。さらに言うとcoconovaのコンテンツにもなると。
加納さん:そうですね。コミュニティのみなさんのウェルネス(よりよく生きようとする生活態度)に貢献できればという狙いもあります。
ちなみに、いくらくらいで利用できるんでしょうか?
北野さん:今のところサウナ自体を有料サービスとして提供していなくて、coconovaに出入りする仲間たちと楽しんでいます。実際、軽トラの積み下ろしがけっこう大変で、お金だけじゃなく労力もかかります(笑)。
加納さん:ただ、モバイルサウナそのものをクルマごと「カーシェアする」という方法で利用することはできるので、「Carstay」というサイトからご予約いただければと思います。
モバイルサウナの使用料は24時間でだいたい2万円。4〜5人くらいで割ればちょうどよさそう。
加納さん:いずれこのモバイルサウナを「melt」というブランドでサービス提供しようと思っています。現状積み下ろしが大変なので、モバイルサウナ2号はトレーラーで牽引する方法も検討しています。
なるほど。もっと気軽にモバイルサウナが利用できるようになるといいですね。
気になるモバイルサウナの制作期間と費用は?
「自分もモバイルサウナをDIYしてみたい」という方のために、実際の制作期間と予算についてお伺いできますか?
加納さん:期間でいえば2022年1月に企画を具体化して設計を作り上げ、3月には出来上がっていましたね。ただ、設計は建築家と我々の建築メンバーがもう一人、施工はモバイルハウスなどの制作で有名な建築集団SAMPOのコミュニティから3名が沖縄に来て制作したので、デザイン性をもった設計ですとDIYは大変かもしれませんね。
北野さん:資材は基本的にホームセンターで用意しましたが、ストーブと煙突だけは本州から取り寄せました。
となると制作費用もけっこうな額にのぼりそうですね。
加納さん:そうですね。設計費用や間接人件費を無視して、全部手作りでも100万円はかかると思います。ちゃんとした業者にお願いすると、200万円くらいでしょうか。
なかなか大変。手始めにモバイルサウナを手に入れたい人にはテントサウナのほうがお手軽かも、ですね。最後にモバイルサウナを体験させてくださいっ!
実際にモバイルサウナ体験してみました
海パンに履き替えて、いざモバイルサウナへ。ロウリュをすればしっかりじんわり汗をかけます。
ポイントは、サウナ上部に透明素材があしらわれており、圧迫感なく外の景色を眺めることができる点でしょうか。設計を担当した加納さんも「せっかくなので青空や夕焼けも楽しんでほしい」との狙いから、高い遮熱性能が必要ない沖縄だからこその利点を活かし、シースルーにこだわったのだとか。
しっかりと汗をかいたら、いよいよ水風呂がわりの海へと飛び込みます!(※公衆のサウナで湯船に入る際は、必ずかけ湯かシャワーで汗を流してからお入りください)
さぞ冷たかろうとビビっていましたが、さすが沖縄。12月末なのに海水温は22度もありました。
そしてサウナのクライマックス、外気浴。ぼんやり眺めると眼前に広がる真っ青な海と水平線。目を閉じても寄せては返すさざ波の音に包み込まれる……いやはや、最高です。
冬のテントサウナでは外気浴が寒すぎて、なかなかととのうことが難しいのですが、沖縄だとほどよいんですね。
サウナ上がりの定番ドリンクといえばオロナミンCとポカリスエットを割った「オロポ」ですが、ここ沖縄ではA&Wのルートビアがハマるかもしれません。独特の湿布くささがありますが、むしろアロマ効果で全身のコリにまで効きそうです(※個人の感想です)。
というわけで、めちゃくちゃ気持ちよかった冬の沖縄でのモバイルサウナ。ぜひとも、今後みなさんが気軽に利用できるようなサービスに成長すればいいなと感じました。
文/熊山 准
写真/熊山 准
編集/熊山准、TAC企画
撮影協力/Social Design
coconova