人でもモノでも「ひと目惚れ」があるように、クルマにも性能やコスパをさしおいて、デザインだけで一発で好きになってしまう瞬間があります。その1台があまり売れなかった不人気車だったり、希少車だったりすると、なおさら惚れ込んでしまうのも恋愛に似ているかもしれません。そこで今回は、中古車に詳しい自動車ライター・萩原文博さん監修のもと、往年の珍車・迷車を定番のレトロ系からアウトドア系、珍ギミック系など、ズラリ47台ご紹介。1990年代以降からのセレクションなので、探せば買えちゃうのもポイント。もしかしたらプレミア化するかも?
▼監修・執筆
- 萩原 文博(はぎわら ふみひろ)さん
- 高校生の時から中古車専門誌とチューニング雑誌をバイブルとして日々妄想に明け暮れ、大学在学中に某中古車専門誌編集部のアルバイトをきっかけに自動車業界デビュー。2006年からフリーランスとなり、日々新車の撮影・試乗と中古車相場をチェックし、新旧問わないクルマのバイヤーズガイドを得意とする自動車ライター。
目次
刺さる人には刺さる、忘れ得ぬ珍車・迷車たち
Honda・S660 Neo Classic
まるでアメリカンコミックに出てきそうな、愛らしい丸目ライトと横長のグリルが特徴的なフロントマスク。先進性と懐かしさが同居するスタイリングが目を引く1台ですが、実はこれ、2022年3月に惜しまれつつ生産終了となった軽自動車の「Honda・ S660」なのです。
このS660は、ホンダアクセス製の「S660 Neo Classic KIT」というボディキットに交換した特別なモデル。往年のスポーツカー「S800」がもっていた、ヴィンテージ、レトロといった世界観を取り入れた外観デザインが魅力です。特徴的な顔つきも「Nコロ」の愛称で親しまれた「N360」を彷彿とさせます。
前述した通り、S660の新車販売はすでに終了していますが、中古車は豊富に流通していますし、このネオクラシック仕様も非常に稀ではありますが見つけることができます。
一大旋風を巻き起こしたレトロ系珍車・迷車
初代クラウンがモチーフ
トヨタ・オリジン
まるで戦後映画のワンシーンに登場しそうな雰囲気の1台が「トヨタ・オリジン」。2000年にトヨタ自動車の国内自動車生産累計1億台達成を記念して1,000台のみ生産された特別仕様車です。
当時「鎌倉のベンツ」と呼ばれた小型高級セダン「プログレ」をベースに、1955年に登場した初代クラウンをモチーフとしたクラシカルなデザインに仕上げています。特に注目したいのが、同社のフラッグシップ「センチュリー」を製作する匠の技によって作り込まれた数々のパーツ。異形丸型ヘッドランプとフロントのラジエターグリル、そして初代クラウンの特徴である観音開きのドアに注目です。コンパクトながら凛とした高級車らしい佇まいが特徴で、芸能人のピーターこと池畑慎之介さんの愛車としても界隈では有名な話です。
昭和初期へとタイムスリップ
トヨタ・クラシック
1930年代に流行した優美な流線型のフォルムと丸目のヘッドライトは、まるで昭和初期の日本にタイムスリップしたかのよう。タイヤを縁取るホワイトリボンからは気品まで漂ってきそうです。これがSUVのハイラックスをベースに「トヨダAA型乗用車(1936年発売)」のようなスタイルに仕上げた「トヨタ・クラシック」です。
こちらはユーザーニーズの多用化に対応して幅広いジャンルのクルマを提供していく「トヨタ完成特装車シリーズ(TECS)」の一環として、1996年に約100台販売されたもの。見た目はクラシックですが、中身は現代的な乗用車ですので非常に運転しやすいのもポイントです。
イタ車に変身したマーチ
日産・マーチ タンゴ(2代目)
1990年代半ば、軽自動車を中心にわき起こったのがレトロブーム。新車で販売しているクルマをベースに、丸いヘッドライトやメッキ加工のパーツを装着し、自動車黎明期の雰囲気漂う外観に仕立てるというもの。
国産コンパクトカーの人気モデルだった日産・マーチも、1996年に特別仕様車として「マーチタンゴ」を設定しました。タンゴはイタリア車メーカー「アルファロメオ」を彷彿とさせる縦長の大きなグリルを採用。さらに、バンパーのガーニッシュ、ホイールにメッキ加工を施したパーツを装着しレトロ感を演出。またインテリアにはスポーティシートや専用シート地を採用するなど、スタイリッシュさも追求した意欲作でした。
受け継がれる巨大メッキグリル
日産・マーチ ボレロ(2・3代目)
1997年に初登場した「日産・マーチボレロ」は、小型車のマーチ(2代目)をベースにレトロに仕立てた特別仕様車です。フロントは専用の丸型ヘッドランプや縦長の大型メッキグリル、さらに、バンパー部のメッキオーバーライダーを装着。リアコンビネーションランプも丸型で立体感のある形状に変更しています。
2002年に登場した3代目マーチにも特別仕様車としてボレロを設定。レトロテイストは引き継がれていて、大きなグリルと丸型のウィンカーを採用し、コアラのような愛くるしい顔つきが特徴です。インテリアはブラウンチェックの専用シート、木目調内装プレートなどにより上品さを強調したモデルに進化しています。
MINI顔を手に入れたマーチ
日産・マーチ ラフィート(3代目)
3代目マーチにはボレロに加えて「ラフィート」と呼ばれる特別仕様車が設定されていました。ラフィートの特徴は、上下二分割された大きな横長のグリルを採用したフロントマスク。さらに専用のメッキサイドモール、メッキオーバーライダーによってレトロ感とともに、まるで宇宙人のような顔つきとなっているのが特徴です。
インテリアでは、専用シート地や木目調の専用内装パネルを採用し、上質感を追求。当初はベージュ内装だけですが、2007年にはシックなブラック内装を追加し、スイートとビターという2つの内装を選べるようになりました。
人気の四駆もクラシック風に
三菱・パジェロジュニア フライング パグ
前述したトヨタ・クラシックはSUVのハイラックスをベースとしていましたが、1997年に登場したこの「フライング パグ」も、SUVの「三菱・パジェロジュニア」をベースにレトロ調に仕上げた1,000台限定の特別仕様車でした。
モチーフは名前のとおり小型犬で、丸型のヘッドランプ、フロントウィンカーランプをはじめ、大型のメッキフロントグリル、フロント&リアバンパーなどによって一度見たら忘れられない強烈なレトロ感を放っています。インテリアも木目調パネルやプロテインレザーシートを採用するなど細部に渡って昭和初期の雰囲気たっぷりです。
4ドアセダンでは珍しいレトロ顔
スバル・インプレッサ カサブランカ
1992年にデビューした「スバル・インプレッサ」。スポーツワゴンと呼ばれる5ドアハッチバックに、5,000台限定で追加されたのが「カサブランカ」という特別仕様車です。
同車は「スポーツエレガンス」をコンセプトとしたレトロ感あふれる外観デザインが特徴で、クロムメッキのフロントグリルやフロントのヘッドランプをはじめ、リアのコンビネーションランプも丸型ランプを採用。エレガントなスタイリングとスポーツワゴンの機能性をあわせもちながら、愛嬌のあるフロントマスクが魅力的な個性派モデルとなっています。
レトロブームの立役者その1
スバル・ヴィヴィオ ビストロ
国産車で1990年代なかばのレトロブーム、クラシックブームのきっかけを作り、以降特別仕様車として他メーカーにまで広く定着化させた立役者が、1995年に登場した「スバル・ヴィヴィオ ビストロ」(と後述の「サンバーディアスワゴン クラシック」)です。
初代「ミニ」(※「BMC・ミニ」や「ローバー・ミニ」として知られる)を彷彿とさせる外観デザインを採用しつつ、ミニとは違って誰でも手軽に買える・乗れるという点で大ヒットしました。その後「スポーツ」と呼ばれるハイパワーエンジン搭載グレードまで登場するほど盛り上がりました。
レトロブームの立役者その2
スバル・サンバーディアスワゴン クラシック
「スバル・サンバーディアスワゴン クラシック」(1995年)は、軽ワンボックスの優れた快適性はそのままに、丸型のランプ類や大型のメッキグリルなどによって、1950年代のボンネットバスをイメージした特別仕様車。内装にもホワイト系の専用パーツを採用することで、レトロな雰囲気を演出。
前述した「ヴィヴィオ ビストロ」とともに軽自動車のレトロブームの火付け役となりました。1998年に登場したサンバーディアスワゴンにもクラシックが引き続き設定されています。
今買える、レトロカーの現在形
スズキ・ラパンLC
2015年に登場した「スズキ・アルトラパン」は丸型のヘッドライトや柔らかなラインのデザインを採用した女性をメインターゲットとした軽自動車です。そのアルトラパンに2022年、「ラパンLC」という派生モデルが追加されました。
メッキパーツを多用したレトロ調の外観デザインは、スズキの名車フロンテをオマージュ。デザイン参照元のフロンテの型式が「LC10」だったことからLCと付けられています。また、インテリアもレザー調&ファブリックシート表皮、本革巻きステアリング、シックなインパネを採用。新車で買えるクラシック系として貴重な1台です。
ローバー・ミニ風のミラ
ダイハツ・ミラジーノ
2004年に登場した「ダイハツ・ミラジーノ」は、軽自動車のベーシックモデルであるミラをベースとしたレトロ調モデル。丸型のヘッドランプや各種メッキパーツを施し、根強い人気を誇る輸入車のミニを彷彿とさせる内外装で幅広い層から人気となりました。
クラシカルな要素を盛り込みながら、フロントピラーを立てリアピラーを前傾させたシルエットでモダンなイメージも表現。また、ミラジーノのもう一つの個性として「ミニライト」を設定。個性的なフロントメッシュグリルやエアロパーツ、15インチミニライトアルミホイールやディスチャージヘッドランプなどを採用し、スポーティなテイストを演出し、よりミニ濃度を高めているのが特徴です。クラシックミニには手を出せないという人にはオススメのモデルです。
国産セダンがロールスロイスに変身?
光岡・ガリュー
5代目となる「光岡・ガリュー」は2015年~2020年に販売されました。ベース車はミドルサイズセダンの「日産・ティアナ」。イギリスの高級車ロールスロイスをデザインモチーフとし、大型のラジエターグリルや丸型のランプ類をフロントマスクに採用。リアは「フィアット・500」のパーツを流用した縦型のリアコンビネーションランプに変更しています。
ハンドメイドで製造したカスタマイズカー。その圧倒的な存在感は、国産車とは思えないほど強烈です。
ジャガー・MKIIIをオマージュ
光岡・ビュート
光岡で最もメジャーなモデルが「ビュート」でしょう。3代目となる現行型ビュートは、2012年5月から販売開始されました。「日産・マーチ」をベースに、歴代モデルと同じく名車「ジャガー・MKIII」をオマージュしメッキグリルやバンパーを装着したカスタマイズカーです。
2013年には映画「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」とタイアップした特別仕様車も販売。ベース車のマーチにトランクを後付けした基本モデルに対し、2015年にはハッチバックスタイルそのままのエントリーモデル「ビュート ナデシコ」も設定しています。また、オプションでウッドタイプインパネや本革シート、クラシックドアパネルなど外観だけでなく、内装のレトロ感を高めるアイテムを用意しているので、中古車でお探しの際はチェックをお忘れなく。
結婚式が似合う優雅な2ドアクーペ
光岡・ラセード
結婚式などハレの舞台に似合いそうなクラシカルな雰囲気を漂わせているのが「光岡・ラセード」。「日産・シルビア」をベースに、「CMC・ティファニー クラシック」をモチーフとした2ドアクーペで、わざわざホイールベースを900mmも延長するなど、ベース車の面影がほとんどないほどカスタムされたこだわりの1台です。
丸型のランプ類、大きなフロントグリル、4本のラッパ状のクラクションなどにより、まさに1900年代初頭、自動車黎明期のクルマに仕立てられています。初代が限定500台、2代目が限定100台、そしてファイナルモデル3台の合計603台しか販売されていない非常に稀少なモデルです。
お手頃価格でロールスロイスを味わう
光岡・リューギ
「光岡・リューギ」は、現在新車でも購入できる光岡のカスタムカー。「トヨタ・カローラアクシオ」と「トヨタ・カローラフィールダー」をベースとしており、4ドアセダンとステーションワゴンという2つのボディタイプから選べます。
「ガリュー」と同様に英国の高級車「ロールスロイス・シルバークラウドII」をモチーフとした外観デザインを採用。丸型ヘッドランプをはじめ、大型のフロントグリル、縦型のリアコンビネーションランプ、前後バンパーをそれぞれ手作業で装着し仕上げています。
光岡得意のレトロ仕立てを軽自動車に
光岡・レイ
軽自動車をベースとしたカスタムカーの「光岡・レイ」。全部で3世代ありますが、ベース車両は「マツダ・キャロル」「スズキ・アルト」「ダイハツ・ミラジーノ」とそれぞれ異なるのが特徴。3代目となる最終型のレイは、ダイハツ・ミラジーノをベースに、2002年~2004年に販売されました。
丸型のヘッドライト、メッキを多用した大型のフロントグリル、そしてメッキバンパーと、ベース車は変わっても光岡得意のレトロ風の仕立ては変わらず。ちなみにレイという名前は、レトロには普遍的な”麗”しきものがあるということから付けられたそうです。
誰ともカブりなし? 異端デザイン系珍車・迷車
デザインモチーフはカボチャの馬車?
トヨタ・WiLL Vi
2000年ごろ、トヨタが飲料メーカーや電気機器メーカーなどと新市場創出を目指した異業種合同プロジェクト「WiLL」(ウィル)。その一環として、2000年1月にデビューしたのが「WiLL Vi(ブイアイ)」です。「4ドアパーソナルカプセル」を提案するWiLL Viの外観デザインのモチーフは、なんとおとぎ話に出てくるカボチャの馬車!
ちなみに逆傾斜したリアガラスは、当時洗車機に入れると故障すると言われ、利用できませんでした。また、通常のルーフに加えて、爽やかな光と風を満喫できる大開口のキャンバストップ仕様車を設定するなど、外観スタイルとともにユーザーをリラックスさせる「なごみ」の演出が施されているのが特徴でした。
未来を先取りしすぎたクルマ
トヨタ・WiLL サイファ
2002年10月に登場した「WiLL サイファ」は、前述した異業種合同プロジェクト「WiLL」のクルマシリーズ第3弾のモデル。
まるで未来のクルマみたいですが、そのデザインテーマは、来たるべくネットワーク社会とクルマの融和をイメージさせる「サイバーカプセル」。斬新かつ都会的で親しみのわくデザインでした。現在は当たり前となっている自動車系のネットサービスですが、このWiLL サイファが車載端末として初めて情報ネットワークサービスを標準装備したクルマでした。すでにサービスは終了していますが、個性的なスタイルは多くの人を虜にしているようです。
ウーパールーパーみたいな愛くるしさ
日産・フィガロ
バブル景気の余韻が残る1990年代前半に、日産がレトロ調や先鋭的といった特徴のあるスタイリングを採用した「パイクカー(少量生産を前提とした遊び心のある”尖った(鋭い)”感覚のクルマの総称)」シリーズを展開しました。
そのうちの1台が1991年に販売された「フィガロ」です。フィガロはピラー部分を残して、布製のルーフ部分が開閉するオープンカーで、フロントマスクはウーパールーパーのような愛くるしさが魅力でした。
刑事ドラマの主人公の愛車や、グルメ番組で芸人さんの愛車として登場するなど、30年以上たつ現在でも高い人気を獲得しています。フィガロの人気は日本だけに留まらず、中古車の多くは海を渡ってイギリスに嫁いで行きました。
冒険に出かけたくなるレトロ調デザイン
日産・パオ
人々の冒険心を刺激するデザインの「日産・パオ」。1989年、日産の「パイクカー」の第2弾として登場しました。車名の由来は中国語の包(パオ)で、モンゴル遊牧民の「組立式家屋」を意味しているとか。
パオは初代マーチをベースに、「冒険心」をテーマにしたレトロ調の内外装で大人気となりました。レトロ感あふれる外観デザインは、樹脂製パーツを多用。さらにルーフは通常のルーフに加えて、キャンバストップモデルも用意されていました。
巨大な縦型ライトはまるで昆虫
三菱・ミラージュ ディンゴ
1998年に「賢く、便利なワゴン」という意味を込めてSUW(スマート・ユーティリティ・ワゴン)として登場したのが「三菱・ミラージュ ディンゴ」です。
その特徴は、ウィンカー内蔵の縦型ヘッドランプとコーナー部分を強く絞り込んだバンパーデザイン。そしてフロント同様のイメージを持たせた縦長の大型リアコンビネーションランプです。まるで昆虫のような個性的なフロントマスクでしたが、あまり売れなかったのかマイナーチェンジ後の後期型では、オーソドックスな横長のヘッドライトへと変更されてしまいました。
前後左右にウォークスルーが可能なHウォークや、車中泊もOKなフルフラットシートを採用するなど、工夫満載のインテリアもミラージュ ディンゴの魅力です。
ランボルギーニと並んでも負けないデザイン
光岡・オロチ
光岡が純国産車にこだわり、日本国内で量産するために型式認定まで取得するなど気合を入れたスーパースポーツカーが「オロチ」です。
外観デザインは、その名のとおり神話に登場するヤマタノオロチからインスパイア。大蛇のようなフロントマスクが特徴で、走行しているとフェラーリやランボルギーニといった欧州スポーツカー以上の注目を集めること間違いなしです。
全幅2mを超えるボディの運転席後方にエンジンを搭載するなど、スーパーカーの要件は満たしていながらも、非常に扱いやすく日常的に十分使用できるクルマに仕立てられているのも特徴です。
かつてはRVと呼ばれていたアウトドア系珍車・迷車
トラックへと変身したミニバン
トヨタ・bBオープンデッキ
2000年に登場したハイトワゴンの「トヨタ・bB」。bBは未知の可能性を秘めた箱「ブラックボックス」がルーツだとか。
デビュー当初のカタログは今で言うヴァイナル、つまりレコードジャケット風。発表イベントもクラブのような演出でクラブカルチャーやインドアのイメージが強かったbB。そのイメージを打ち破ったのが、2001年6月に追加された「オープンデッキ」です。bBのボディ後半を大幅に変更。ドアは観音開き、リアは荷台へと架装され、ピックアップトラックに変身。パイプ状のルーフレールは荷台まで伸び、太陽や海が似合うアウトドア系へと生まれ変わったのでした。
ミリヲタ垂涎の日本版ハマー
トヨタ・メガクルーザー
軍用車をルーツとしたアメリカ車の「ハマー」がブームとなった1990年代後半に、「トヨタ・メガクルーザー」は登場しました。
同車も陸上自衛隊向け高機動車の民生用として発売されたモデルで、その名の通り全長5,090✕全幅2,170✕全高2,075mmというメガサイズでした。それでいながら前席2人・後席4人の合計6人乗り。ラゲッジスペースは最大積載量600kgを確保。
サイズがサイズだけに取り回しが厳しそうではありますが、電子デバイスによって最小回転半径はわずか5.6m。フルタイム4WD、そして420mmの最低地上高により、高い悪路走破性と登坂性能を備えています。そこまで燃費が悪くないのも国産車ならではかもしれません。
いまだブームが続くパイクカーの末裔
日産・ラシーン
国民車であった「日産・サニー」をベースとしたコンパクトSUVの「ラシーン」は、1990年初頭に発売したパイクカーの流れを汲むモデル。1994年~2000年と長きにわたって販売されました。
車名の由来は羅針盤で、直線的なデザインやリアの背面タイヤなどは、昔の探検隊が乗っていたレトロな雰囲気たっぷり。途中からはCMに『ドラえもん』を起用し「新・ぼくたちのどこでもドア。RUN!RUN!ラシーン」というキャッチコピーで、どこでも行けるクルマという演出がなされました。最近では、ラシーンブームが再燃。自動車保険のTVCMにカスタマイズされたクルマが登場するなど根強い人気を誇っています。
レガシィ アウトバックの祖先
スバル・インプレッサ グラベルEX
1992年に販売開始した初代「スバル・インプレッサ」。そのスポーツワゴンに、SUV色を強めたモデルが1995年に発売された「インプレッサ グラベルEX」です。
5ドアのスポーツワゴンをベースに、ツートンカラーのボディ、フロントのバンパーガード、ルーフレール、リア背面タイヤを装着することで、SUV感を強調したモデル。搭載しているエンジンはスポーツモデルと同じハイパワーなもので、当時「SUV最速」とも言われていました。
チョロQみたいな可愛いSUV
スズキ・X-90
1990年代の珍車の常連と化しているのが「スズキ・X-90」。
ライトクロカンと呼ばれた初代「エスクード」のヒットを受けて、スズキが1995年に発売したSUVです。エスクードをベースとしながら、2ドア・2シーターのクーペルックという個性的なスタイルが特徴です。また、天井はトランクに収納可能なガラス製のルーフを採用したTバールーフ仕様。SUVでありながら、クーペでもあり、タルガトップのオープンカーでもあるという、一粒で何度でも楽しめるモデルです。
チョロQのようなルックスは、まるで宇宙船のよう。当時から街中でも目立ちすぎるほどでした。
軽自動車よりさらに小さい軽トラ
ダイハツ・ミゼットII
初代「ダイハツ・ミゼット」は三輪自動車でしたが、1996年~2001年まで販売された「ミゼットII」は4輪の軽商用車となりました。専用施設のミゼット工房においてハンドメイドで組み立てが行われました。
デビュー当初は1人乗り・リア荷台タイプのみでしたが、箱型の荷室を設けたバン型のカーゴを追加。このカーゴタイプは窮屈ながらも2人乗りを実現しました。全長3m以下、全幅1.4m以下というコンパクトなボディを活かして小口配送で大活躍。現在ではプレミア価格の中古車も出てきています。
働くクルマはアウトドアでも人気上昇中
ダイハツ・ハイゼット デッキバン
軽商用車の「ダイハツ・ハイゼット」は、運転席下にエンジンを搭載し、広大な室内空間を確保しているおなじみ軽ワンボックスの名車です。
そのハイゼットをベースに、リアシート後方を切断しトラックにしてしまったのが「ハイゼット デッキバン」。4名が乗車できるキャビンスペースと汚れ物も載せられる荷台という、いいとこ取りをした唯一無二の存在から、近年アウトドア需要でも人気が高まっています。
なお、2022年には新型モデルもデビュー。新車で購入できる珍車です。
当時は斬新、スポーツカーみたいなSUV
いすゞ・ヴィークロス
現在はトラック専業メーカーのいすゞが、1997年~1999年に販売したSUVが「ヴィークロス」。
オールラウンドリアルスポーツという新しいコンセプトをもとに開発されたヴィークロスは、「ミュー」や「ウィザード」といった既存のプラットフォームを流用した3ドアSUVでした。
後方視界をさえぎる背面タイヤに配慮して、バックアイカメラ連動型モニターを標準装備するなど先進性を誇っていたのも特徴。また駆動方式は電子制御トルクスプリット式のフルタイム4WDと当時としては、新しいシステムを搭載していました。
見かけたらラッキー!レアバージョン系珍車・迷車
ヤリスクラスなのに4人乗りオープン
トヨタ・サイノス コンバーチブル
クルマが若者のモテアイテムだった1990年代。現在では絶滅危惧種となっている国産車のクーペやオープンカーこそメインストリームで、モデルも選び放題でした。1996年に登場した「トヨタ・サイノス コンバーチブル」もその1台。スタイリッシュな小型クーペであるサイノスをベースにコンパクトな手動開閉式ソフトトップを採用した4人乗りのオープンカーでした。
工程は複雑で、ベース車両をトヨタが製造し、それをアメリカにあるASC社が手動開閉式ソフトトップへの改造を行うという国際協調により実現していました。架装されるソフトトップは視認性に優れたガラス製バックウインドウやオープン走行時の風の巻き込みを抑える三角窓を採用するなど本格派。これが新車時価格200万円以下だったのですから驚きです。
SUVもオープンカーも欲張りな1台
トヨタ・RAV4 ソフトトップ
乗用車の骨格を採用した初のSUVとして、1994年に「トヨタ・RAV4」は登場しました。全長4mに満たないコンパクトサイズは、乗用車ゆずりのオンロードの高い走行性能に加えて、オフロードでの高い走破性を両立。TVCMにキムタク(木村拓哉)を起用し、大ヒットしました。
「RAV4ソフトトップ」(1997年)はリアの荷室部分を開放感あふれる幌仕様にした追加モデル。SUVのルーツであるジープやジムニーにも、当時はソフトトップ車が用意されており大自然を肌で感じることができる貴重なバリエーションでした。
クーペとオープンカーが両方楽しめる
日産・マイクラ C+C
日産のエントリーモデル「マーチ」は、欧州では「マイクラ」というネーミングで販売されています。2007年、日本に1,500台限定で導入された「マイクラ C+C」はヨーロッパ市場で販売されていた、電動開閉式のガラスルーフを採用した4人乗りのオープンカー。有名架装メーカーのカルマン社が手がけたルーフは、閉めた状態でも開放感を味わえるようガラスを採用。ボタン操作により約22秒で開閉できる電動式となっていました。
ちなみに名前のC+Cは、1台でクーペとコンバーチブルを楽しめるという贅沢なクルマということを表しています。
しっかり4人乗れるコンパクトオープン
日産・マーチ カブリオレ
前述したマイクラC+Cの先代モデルといえる存在が、1997年に登場した「日産・マーチ カブリオレ」です。
国産車ではスポーツカーをベースとした2シーターオープンカーが主流ですが、マーチ コンバーチブルはリアシートをもつ4人乗りのオープンカーと実用性がウリ。なお、ソフトトップは電動開閉式で、手元のスイッチ操作で簡単にオープンエアを楽しむことができました。シート表皮も外観の一部とばかりに、地図をモチーフとしたオリジナル柄となっているのが特徴。
いまや希少種のコンパクトステーションワゴン
日産・マーチ ボックス
1999年に登場した「日産・マーチ ボックス」は、コンパクトカーのマーチの荷室長を240mm延長し、積載性能を向上させたステーションワゴンです。
ラゲッジスペースを拡大させただけではなく、ラゲッジアンダーボックスやラゲッジサイドポケットを設け、利便性を向上。さらに、後席には片手で操作できる6:4分割のダブルフォールディング機構を採用するなど、積載性にこだわっていました。また、全高を25mm高めたことで頭上の空間も拡大。リラックスして移動することができるように工夫されています。
ご覧のように無数のバリエーションが存在したマーチ。さらなる希少車では無印良品が販売した「MUJI CAR」もありますが、中古車で探すのもかなり難易度が高いレア中のレア車です。
アメリカン風味のN-BOX
Honda・N-BOX SLASH
「N-BOX」から始まったHondaの軽自動車Nシリーズ。
2014年にその第5弾として登場したのが「N-BOX SLASH」でした。見た目はN-BOXと大差ありませんが、天井を100mm低くし、さらにリアに向けてルーフラインを絞りつつリアウインドウラインをせり上げるという、クーペスタイルが特徴。箱型ながらスタイリッシュな2ドア車に見えるように工夫されています。
なお、リアドアはスライドドアからヒンジ式に変更。ルーフやピラーなど各所に金属調の加飾を施し、ノーマルながらカスタムカーのテイストも強調していました。
くわえてN-BOX SLASHの醍醐味は5つの世界観を表現したインテリア。上級グレードには車内をライブ会場に変えるサウンドマッピングシステムを採用するなど、N-BOXよりもプレミアム感を強調したモデルなのでした。
思わず見せびらかしたい珍ギミック系珍車・迷車
2人乗りみたいだけど4人乗り
トヨタ・iQ
シティコミューターとしてスマート(メルセデス・ベンツ)が注目を集めるなか、超小型ボディに高性能を凝縮し、さらに高い質感を備えたマイクロプレミアムカーとして、トヨタが放ったのが「iQ」(2008年)でした。
クルマの骨格をはじめ、エンジン、トランスミッション、エアコンユニットまで専用設計という気合の入れよう。2人乗りに見えますが、全長3m以下のボディに4人乗車が可能な超高率パッケージを実現しているのがライバルとの違い。最小回転半径も3.9mと軽トラック同様の取り回しの良さを実現。あえなく絶版車となりましたが、いずれ再燃しそうなパッケージです。
ボタン一発の開閉ギミックは必見
Honda・CR-X デルソル
クーペとオープンカーを1台で楽しめる斬新なクルマとして、「Honda・CR-X デルソル」は1992年に登場しました。
もともとCR-Xはシビックの兄弟車の2ドアクーペでしたが、パワーやスピードだけでなく、走ることの気持ち良さや楽しさも同時に追求した結果、快適にオープンエアクルージングを楽しめるクルマへと生まれ変わったのでした。
珍ギミックポイントは、「トランストップ」と呼ばれる電動開閉式のハードトップの開閉方法。ボタン一発で、トランクリッド(蓋)が上昇。自動でルーフを収納したあと再びトランクリッドが下がるというエレベーターのような動きをするのが特徴でした。
デートカーの定義を変えたミニバン
Honda・S-MX
いま話題となっている車中泊。この車中泊を最初に提案したモデルが、1996年に登場した「Honda・S-MX」ではないでしょうか。
「楽しさ性能」を追求したというS-MXは、スクエアなデザインに広い室内空間を確保したハイトワゴン。前後に大人4人がゆったりと座れるスライド式のベンチシートを採用するなど、新世代のデートカーとしても提案されていました。
さらに前席・後席を倒すことで、ほとんど凸凹のないフルフラットなベッドに変身。あたかも自室のようにくつろいで過ごせる空間を生み出しました。さらには、ローダウンというカスタマイズモデルを設定。デートカー=2ドアクーペの時代を終わらせた存在といえるかもしれません。
子育てに便利な独自レイアウト
Honda・エディックス
多人数乗車が可能なミニバンがファミリーカーとして定着した2000年代前半に、「Honda・エディックス」は登場しました。当時主流だった3列シートミニバンは全長が長く運転しにくいという意見を尊重し、エディックスはショート&ワイドボディに横3席✕前後2列の6座独立シートという変則パッケージを採用したのが革新的でした。
とりわけセンターシートはロングスライドが可能なうえ、チャイルドシートも装着OKと子育て世代に好評。また、6人乗車しても、荷室空間が確保できること、ワイドボディによる走行安定性の高さも実現できるなど様々なメリットがありました。1世代で終わってしまったのが残念です。
デビューが早すぎた無骨なSUV
Honda・エレメント
いま新車で販売すれば爆発的にヒットしそうな早すぎたSUVが「Honda・エレメント」。2003年に導入されたエレメントは、北米の工場で生産され輸入されていたバイリンガルモデルでした。
特徴は、両側観音開きのサイドアクセスドア。そして、二枚貝のように上下に分割するクラムシェルテールゲートは、ロアゲートを開ければ、大人二人が腰掛けられるベンチにもなりました。さらに、汚れたままの道具も積める水ぶき可能なワイパブルフロアをはじめ、防水シート表皮、撥水ルーフライニングなどタフギアのように使えるのも魅力。年々人気が高まっているので確保するなら今のうちです。
後席も乗り降りしやすいスポーツカー
マツダ・RX-8
近ごろPHEVの発電機としてロータリーエンジンが搭載されるということで、話題となりました。
そのロータリーエンジンを駆動用パワートレインとして最後に搭載したのが、2003年に登場した「マツダ・RX-8」です。スポーツカーながら「フリースタイルドア」と呼ばれる観音開きドアを採用した4ドア4シーターというパッケージの良さがRX-8の売り。
搭載されるロータリーエンジンは自然吸気のみとなりましたが、ロータリー独特の軽い吹け上がりは健在。リアシートに加えて、十分なラゲッジスペースも確保されており、高い実用性も兼ね備えていました。
スポーツカーマニアからも一目置かれる軽自働車
マツダ・AZ-1
「マツダ・AZ-1」はオートザムという、かつてのマツダの販売チャネルから1992年9月にデビューした軽自動車規格の本格スポーツカーです。
最高出力64psを発生するターボエンジンを運転席後方に搭載し、2枚のドアは上方へ開くガルウィングドアを採用するなど、スーパーカーの要件を満たす仕様。
さらに、ボディの外装パーツには軽量化のためFRPを採用。ルーフは当時流行したガラス張りのキャノピーデザインを採用し、光の透過率を30%に抑えたセラミック処理を施したガラスを採用していますが、日差しが強い日には頭頂部から汗が噴き出すほど暑くなったそうです。
AZ-1の特徴はトリッキーなハンドリングで、荷重移動が機敏すぎてコーナリング中に姿勢が乱れるケースが頻発したそうです。しかし、このような感覚を味わえるのがAZ-1の魅力とも言えましょう。
スマートのスズキ風解釈
スズキ・ツイン
近年、軽自動車よりコンパクトなコミューターが、コンビニの配送などにより注目を集めています。2003年に登場した「スズキ・ツイン」は、そんな時代の予兆を先取りしたモデルでした。
その名のとおり2人乗りで、全長は2,735mmという超コンパクトボディ。ガソリン車だけでなく、ハイブリッド車まで設定されていた意欲作でもありました。また、白と黒のツートンカラーを活かして、警察のパトカーとしても活躍。現在ならば、モーターを積んだBEVコミューターとして大ヒットしそうですね。
軽ワンボックスがベースの7人乗りミニバン
ダイハツ・アトレー7
2000年~2004年まで販売された「ダイハツ・アトレー7」は、一見すると軽ワンボックスのようでいて、全長3,765✕全幅1,515✕全高1,895mmというコンパクトサイズのボディになんと7人乗りの3列シートをレイアウトした当時最小のミニバンでした。
軽ワゴンのアトレーワゴンをベースにリアタイヤ以降の荷室分を延長した同車。両側スライドドアを採用するなど、ミニバンに求められる利便性は確保していました。また、トヨタにOEM供給され「トヨタ・スパーキー」の名称でも販売。アトレー7は国内だけでなく、海外にも「エクストール」と言う名前で輸出されるほど人気でした。
この分野の先人には「スバル・ドミンゴ」、ライバルに「スズキ・エブリィプラス」などがあるので、調べてみても面白いですよ。
以上、総勢47台もの珍車・迷車ギャラリーでした。あなたのハートを鷲掴みにした1台はあったでしょうか? 個人的にはHonda・エレメントが気になります。海外で見かけたとき本当にカッコよかったんですよねえ。もし手に入ったら、ローダウンにしてもクールだし、リフトアップしてもゴツいし、どっちにするか悩んでしまうかもしれません。かえすがえす、「今出せば売れるのに!」と思わざるをえません。
文/萩原 文博、熊山 准
写真/萩原 文博
編集/熊山 准、TAC企画
各車種の中古車市場での流通数や価格帯・相場は、2023年2月初旬時点でのものです。記事閲覧時点での中古車購入を保証するものではありません。