湘南へ移り住んで、約半年。海辺を散歩して、カフェで朝食をとって、週末はバーベキューをして……といった夢はまったく叶えられていない。現実は、朝から晩までパソコンの前で過ごすばかり。
音楽ライター・編集者として仕事をしているため、夏は週末になると掛川、苗場、蘇我、幕張と毎週フェスへ出かけていく始末。「湘南ライフ、満喫してる?」と友達から聞かれても「家と駅の範囲で……うん……」としか答えられないことに虚しさを抱かずにはいられなくなってきた。
「家族のための男飯 もんきち」のアカウントに上がっている動画を見ての通り、私の身体と心の健康は夫・もんきちが作るごはんに支えられている。しかし最近は、夫がひとりでごはんを食べる「妻がいない日のごはん」シリーズの動画が多く上がっていて、「妻、ずっといない……」「奥さん、浮気してそう」とまでコメントがつきはじめた(してない)。
そんなふうに私が忙殺されているタイミングで、カエライフ編集部から「湘南〜川崎を音楽聴きながらドライブしませんか?」と声をかけていただいた。そんな贅沢な仕事、あっていいのだろうか。夫婦で夏らしいことを何もできずに8月が終わっていくことへの焦燥感を抱いていた私は、「夏のドライブをしよう」と夫・もんきちを誘うことにした。
▼書いた人
矢島 由佳子(やじま ゆかこ)
音楽ライター・編集者。大手芸能事務所マネージャー、カルチャーウェブメディア「CINRA.NET」副編集長、TikTok運営(ByteDance株式会社)を経て、独立。マネージャー経験と編集の視点をいかして、アーティスト/クリエイターの本質や個性を深掘って多くの人に伝えるライティング、インタビュー、コンテンツ制作、ブランディングを手がける。近年の寄稿媒体はRolling Stone Japan、ROCKIN’ON JAPAN、ナタリー、RealSound、Forbesなど。後藤正文(ASIAN KING-FU GENERATION)がホストを務めるPodcast番組『APPLE VINEGAR -Music+TALK-』にレギュラー出演中。
X(旧Twitter): @yukako210
▼夫・もんきち
家族のための男飯🐒もんきち
愛妻料理家。エコール辻 東京 フランス・イタリア料理卒。妻からの「○○でなんか作って〜」などのリクエストに応えて、視聴者がおうちでマネできる簡単レシピを考案する動画が人気。SNS総フォロワー数は38万超え。著書『安食材なのに涙が出るほどおいしいごはん』(KADOKAWA)はAmazon 1位(「料理の基礎」カテゴリー)を獲得。
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Instagram: @fujimon_kitchen
YouTube: @fujimon_kitchen
目次
↓今回訪れた場所はこちら↓
「サザンビーチちがさき」と、サザンオールスターズ
ドライブ当日。HondaのSUV「ZR-V」に乗り込んで、まずはサザンビーチちがさきへと向かった。私は「超」がつくほどのペーパードライバーなので、運転はもんきちが担当。アクセルを踏んだ瞬間、「運転しやすい」と笑顔を見せる。
茅ヶ崎といえば、サザンオールスターズ・桑田佳祐さんの出身地。デビュー曲“勝手にシンドバッド”の歌い出しは《砂まじりの茅ヶ崎》だ。桑田さんはここを始まりとして日本の音楽史を変えていった。
サザンオールスターズにとってデビュー45周年イヤーの今年、桑田さんは「自分の『ふるさと』に対しての感謝や愛郷の念が、より一層深まっているように感じております」とコメントし、新曲“盆ギリ恋歌”でも「サザンビーチ」というワードを歌詞に綴った。9月末から10月1日にかけては、茅ヶ崎公園野球場にて「茅ヶ崎ライブ2023」の開催が決定しており、チケットは争奪戦状態。
それほどまでに地元を愛し地元から愛されているサザンオールスターズにちなんで、1999年、「茅ヶ崎海水浴場」から「サザンビーチちがさき」へと改名された。ビーチに向かうまでの道には「サザン通り」という名前がつけられている。
サザンビーチに到着する手前で、“チャコの海岸物語”をかけてみた。Honda純正ハイグレードスピーカーシステムを搭載しているこのクルマで編集部が用意してくれたCDを再生すると、臨場感のある高音質な音でイントロが流れだす。窓を開けると、曲中の波の音やカモメの鳴き声と、目の前の波や風の音が混ざり合っていく。
クルマを停めて、海岸に出た。海岸のスピーカーからもサザンオールスターズの音楽が流れている。
まずは、「茅ヶ崎サザンC」の前で記念撮影。このモニュメントは、サザンオールスターズが2008年にリリースしたシングル『I AM YOUR SINGER』のジャケットにもなっているもの。Cの右側に立つとCの切れ目が繋がって円(縁)になる、というデザインになっている。さらにCの真ん中の奥を覗くと、えぼし岩が見える。えぼし岩といえば、“チャコの海岸物語”、“HOTEL PACIFIC”、“夜風のオン・ザ・ビーチ”の歌詞に登場し、「茅ヶ崎ライブ2023」のロゴにもなっている茅ヶ崎のシンボルだ。
私にとってサザンビーチは、2015年と2019年の2度、茅ヶ崎出身であるSuchmosのボーカル・YONCEさんの取材・撮影で訪れた思い出のある場所。あの仕事でこの地の魅力を知り、さらにBE:FIRSTのデビュー時の取材でメンバー・SOTAさんから地元愛を聞いて背中を押されていなければ、湘南に引っ越す決断はしていなかっただろう。
「そういえば、夫との2回目のデートはパシフィコ横浜でSuchmosのライブを見たあとだったな……」なんて思い出も蘇る中で、Suchmosの“Pacific”、“Pacific”の歌詞に出てくる茅ヶ崎のレゲエシンガー・I-Pan Dread、BE:FIRSTの“Boom Boom Back”をかけながら、サザンビーチから次の目的地へと向かった。
「湘南」と、ASIAN KUNG-FU GENERATION、さらさ
湘南の海岸沿いは、とにかく気持ちがいい。先日、地元・大阪の友達に「湘南は太陽も風もちゃうねん」と話したら「よういいますわ」とツッコミが返ってきた。しかし、本当にそう思う。空の色がちゃうねん。
ドライブ中の選曲は私が担当。湘南にゆかりのあるアーティストたちを流していく。湘南出身のシンガーソングライター・さらさの“太陽が昇るまで”を流すと、編集部の方が「いい感じの曲ですね〜」といってくれて、DJとしてにやりとする。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“湘南エレクトロ”を流すと、もんきちが「この曲かっこいい」とポロッとこぼす。もんきちは歪んだギターがかっこいいフレーズを刻む音楽を好む傾向がある、という私の分析から選んだ一曲が見事にハマった。
このクルマのオーディオシステムは、車内の形状や広さ、スピーカーからの距離などに応じて音響がチューニングされており、さらには席単位でもチューニングができる。たとえば助手席にあわせると、耳の位置なども緻密に計算された上で、音の配置がはっきりと見えるように鳴るのだ。しかもエンジン音や外音が気にならない設計になっている。今すぐうちのクルマのオーディオもこれにチェンジしたいと、本気で思う。
「岡村天満宮」と、ゆず
まもなく次のスポットに到着するタイミングで、ゆずの地元・横浜市磯子区岡村町を舞台にした“岡村ムラムラブギウギ”をかけた。この楽曲が収録されている1stミニアルバム『ゆずの素』は、当時路上ライブで人気を博したゆずが屋外でマイクを立てて録音したもの。“岡村ムラムラブギウギ”も、アコギとタンバリンのうしろに人の笑い声やしゃべり声、自転車のブレーキ音まで録音されていて、このクルマのハイグレードスピーカーシステムから流すと、それらの音が当時の空気を纏ったまま聴こえてくるようだ。
到着したのは、岡村天満宮。そこには、横浜市立岡村中学校指定のジャージ姿で歌うゆずの2人を描いた壁画が。これはもともとゆずの路上ライブスポットであった横浜松坂屋の屋上に設置されていたものだが、2008年の閉店に伴って、岡村天満宮へ移設された。岡村天満宮の境内には岩沢厚治さんが通っていた岡村幼児園があり、“スマイル音頭”の歌詞に出てくる「天神様の牛撫でて 願いを託した夏祭り」はこの場で毎年開催される夏祭り「岡村天満宮列大祭」のこと。ゆずにとって深い、深い、ゆかりのある場所なのだ。
この日は猛暑日で、もんきちと2人で汗を垂らしながら、神主さんとたくさん話をさせてもらった。「こうちゃん(岩沢厚治)」は小さい頃からよく鉄棒で遊んでいたこと。ピカチュウの遊具に書かれたサインは横浜出身である声優の松本梨香さん(『ポケットモンスター』サトシ役)によるものであり、彼女も「岡村天満宮列大祭」によく遊びにくること。最近建て替えた神楽殿内の天井画は、神奈川県出身の日本画家・朝倉隆文さんが手がけたものであること。ゆずの2人も、建て替えの寄附に協力したこと。
「神主」に対するイメージが覆るくらい、気さくで親しみやすい方だった。この場所への愛情もひしひしと伝わってくる。帰り際には開運のお守りまでいただいた。「ありがとうございます」。神主さんにお礼と別れを告げて、私たちは最後の場所へと向かった。
「京浜工業地帯」と、SEKAI NO OWARI
次に到着するまでの道中は、SEKAI NO OWARIを流すことにした。もんきちは、私と付き合う前からライブに通うほどSEKAI NO OWARIが好きだったらしい。そんなこと、この日までまったく知らなかった。「SEKAI NO OWARIの何を聴きたい?」と聞くと、「Nakajinさんがメインボーカルの曲」と返ってくる。なかなかマニアックな返答である。コロナ禍初期の外出自粛が厳しかった頃、夫がいる隣の部屋で4人とZoomをつないでインタビューをしていたことを、彼は知らない。
最後の目的地は川崎マリエン・展望台。ここからはSEKAI NO OWARI“スターライトパレード”の歌詞のインスピレーション源となった川崎の工場夜景が見える。
広大な場所を敷き詰める、星のような数々のライト、無機質に立ち並ぶ構造物、煙突から噴き出る炎――。“スターライトパレード”はSEKAI NO OWARIが初めてストリングス、ティンパニー、ベルなどを取り入れた楽曲で、4つ打ちを主体にしながらクラシカルな演奏が壮大に広がっていくサウンドが印象的であるが、この景色を見ると歌詞だけでなく音もこの場から描き始められていることを実感する。
そして、作品に込められた意味は違えど、SuchmosのEP『LOVE & VICE』のジャケットにも京浜工業地帯の写真が用いられていることを思い出す。美しさの奥に様々な想像が膨らむこの景色は、クリエイターの創作意欲を掻き立てるのだろう。
帰路につく中で「今日のドライブどうだった?」ともんきちに聞くと、「ドライブはいろんな景色を楽しめるし、音楽に集中できるからいいね」と返ってきた。
音楽は時間芸術だ。再生ボタンを押した瞬間から鳴り止むまでの間、心や身体が感じるものの変化を味わうことに醍醐味がある。スマホやパソコンの画面を見ながら音楽を聴くのではなく、流れゆく景色とともに音楽に浸かる時間はあまりに豊かだった。忙しない日々の中でも、たまにはこんな時間を取りたい。
「またドライブしよう」。家について言葉をかけた。そして、運転ありがとう。
- この取材に使用したクルマ
- ZR-V e:HEV FF
ボディーカラー:プレミアムクリスタルガーネット・メタリック
純正アクセサリー装着車 Premium Style - 久々のドライブでとても楽しかったです。普段見ない景色をたくさん味わうことができて、たまにはドライブデートもいいなと感じました。(もんきち)
文 / 矢島 由佳子
写真 / KEI KATO(ヒャクマンボルト)