毎日を豊かなものにしてくれる、ファッションの“カエライフ”を見つけるこの連載。
今回は第1回に引き続き、ハイセンスな洋服のリフォーム工房SARTO(サルト)をご紹介します。
SARTOは、問題を抱える服や、愛着があってどうしても手放せない服を見事に再生させてくれる、プロフェッショナル集団。そんな“洋服の駆け込み寺”、SARTOの心臓部ともいえる銀座の工房にお邪魔します。
匠の手にかかった洋服のビフォー、アフター
まずはこちらの写真をご覧ください。
SARTO代表取締役である檀 正也さんの私物ジャケットですが、体形に合わなくなり、最近はすっかり出番がなくなっていたものだそうです。そのジャケットを羽織っているのはSARTO GINZAのフィッター・松尾尚子さん。大柄な檀さんが着ていたジャケットは、女性の松尾さんが着るとダブダブで、いかにも男物を着せられている感じ。
それがSARTOの匠の手にかかると……、なんということでしょう‼︎
素敵なレディースジャケットに変身です。
肩幅や胸回りは、松尾さんの体形に合わせてぴったり修正されていますが、最大のポイントは着丈。男性もの特有の長い着丈を、あえてそのまま残しているのです。つまりこれは“ボーイフレンドジャケット”。男性から借りたような大きめのサイズ感を持つ、ラフな雰囲気のトレンディなジャケットに仕上げられました。
最近、紺ブレが再びトレンドになっていますが、パートナーや彼氏のブレザーを女性用にリメイクしたいという注文も増えているそう。
老若男女の職人が机を並べる工房
SARTO銀座工房では、工房長の内田 秀実さんとベテラン職人の荒関 友三郎さんが迎えてくれました。ブリティッシュカルチャーが好きで、ルイスレザーなど革ジャンのリフォームを得意とする内田さんは30代。そして某オーダーメイド洋品店で37年間勤務した後SARTOへ移籍した荒関さんは、この道55年の大ベテランです。
「20代から70代、スーツ職人からビジュアル系まで(笑)。とにかくいろんな職人がいます。だから、お客さんからのさまざまな要望に対応できるんです。それが、うちの最大の強みですね」という社長の檀さん。その言葉通り、老若男女の職人が机を並べ、作業に勤しむ様は壮観です。
工房にまわってくるお直しの依頼のうち、一番多いのはやはりサイズの調整。着こなしに関して目の肥えたお客さんが増えた昨今は、既製品をより体にフィットさせたいという、オーダーメイド感覚の要望が多くなってきたということです。
では、ジャケットはどの程度のサイズ調整が可能なのでしょうか。
「一般的には、大きなサイズのものを小さくするほうが簡単です。逆に大きくする場合は少し難しいのですが、前ボタンを留めるとパンパンになるという程度であれば、調整はすぐにできますよ。裏の縫い代部分にある余り布を使ってサイズを出すんです」と荒関さん。
既製品は2〜3cmくらいまで。オーダーメイドの服のほうが縫い代を太めに残していることが多いので、もう少し大きくサイズ調整ができるそうです。
お孫さんが着るのを待つおじい様のスーツ
歳をとるとともにウエスト周りが太くなる人は多いので、パンツはサイズ調整の依頼が多いといいます。パンツもジャケットと同じく、大きいものを小さくするのは比較的簡単ですが、小さなものをバランスよく大きくするのはなかなか難しいとのこと。でも、SARTOでは一旦すべてバラしてから作業をするので、他店で断られたものでも直せることがあるそうです。
荒関さんが作業中の、パンツのお直しについて聞いてみました。
「パンツも後ろのポケットだけ残して全部バラし、仮縫いをしてお客様の体に合わせてから仕上げます。昔はツータックかスリータックのパンツが普通でしたが、最近のパンツはノータックが主流。タックの部分を使えば、ちょっと大きなサイズに修正できますよ」
内田さんが奥から青いスーツを持ってきてくれたました。これは、おじい様の服を、お孫さんが入学式で着たいという依頼で調整中。おじい様が住んでいた福岡のテーラーで、かなり昔に仕立てられたというスーツなのだそうです。お孫さんは体形がまったく違い、パンツはウエストを10cmくらい詰めています。
「体形が合わないけど、大事な親族からもらった服を直して着たいという依頼は多いです。もちろん中には難しいものもありますが、昔のオーダー服は素材がいいので、直せば本当にいい服になりますよ」
仮縫い状態でお孫さんがフィッティングすると、ピッタリだったのでとても喜ばれたそう。
「オーダーメイドとほとんど変わらないことをやっていますからね。手間はかかりますが、お客さんに喜んでもらうのが一番うれしいです」
荒関さんは、古い上質の素材を味わうように触りながらそういいました。
カジュアルウェアも生まれ変わる
スーツ以外のカスタム例も見せてもらいました。
①ミリタリージャケットのリメイク
ベースはアメリカ海軍モノの定番、A-2デッキジャケット。襟や袖口、ポケットなど細部の擦り切れが多く、かなり古びた印象だったそうです。擦り切れ部分を中心に、要所へ黒のレザーを縫い付け、襟にはボアを貼りました。これらのアクセントによって、補修しながらデザイン感がぐっと増し、まったく違う雰囲気のアウターに仕上がっています。こうしたリメイクのアイデアは、お客さんに提案し、話し合いながら決めていくそうです。
②デニムのサイズ拡大リメイク
サイズがきつくなってしまったスリムジーンズは、サイドの縫い代部分を伸ばします。ジーンズは余り布の幅が狭いので、別の布を継ぎ合わせなければなりませんが、こちらはあえて目立つ、細いチェーンを編んだ生地を使っています。サイドに新たなラインが生まれ、デザイン的にも新味のあるものに生まれ変わりました。リメイクの途中で、左足だけができているので、ビフォー・アフターがわかりやすいですね。
③ブランドのイメージを生かしたベストのリメイク
こちらはもともと、何の変哲もない無地のベストでした。ブランドがバーバリーだったので、背中の部分の生地として大柄なバーバリーのスカーフを大胆に使い、ユニークな一着に仕上げています。
古いジャケットに最後の魔法がかけられる
こちらは、カエライフの編集スタッフがかつて愛用していたものの、肩パットの入った大振りなシルエットがすっかり流行遅れになり、タンスの肥やしになっていたジャケットです。
左はビフォー。取材の1週間前にSARTOへお渡しし、体のサイズを採寸。右がアフター。肩まわりがフィットし、ポケットのフラップ(ふた)の位置を上げたことで腰の位置も上がり(足が長く見える)、全体的なシルエットがスッキリ。
自然なサイズ調整ですので、見た目の劇的な変化はありませんが、袖を通してみると、以前とはまったく違うフィット感に驚き。
そしてこのジャケット、最後にもうひとつSARTOならではのスペシャルな味付けがされることに。
フィッターの松尾さんに案内されたのは、SARTO GINZAから歩いて2分の距離にあるMITAKE BUTTONS(ミタケボタン)。SARTOではボタン替えが必要なリメイクをするとき、このボタン専門店で仕入れることが多いのだそうです。“ボタンニスト”の小堀 孝司さんが迎えてくれました。
お父さんから引き継いだこのお店には、海外のヴィンテージものを中心に、あらゆる種類の洋服にコーディネートできるボタンがところ狭しと並べられています。
小堀さんはこのジャケットを見ると、壁や机の小さな引き出しを開け、ボタンを選び出しました。その姿は、“ボタンソムリエ”といった風情です。
そして、選んでくれたのがこちらのメタルボタン。古いツイードジャケットの雰囲気はガラリと変わり、トレンドのブレザー風になりました。
タンスの肥やしになっていた古い洋服に最後の魔法がかけられ、見事に生まれ変わった瞬間です。
文/佐藤 誠二朗
写真/木村 琢也
取材協力:SARTO、 MITAKE BUTTONS
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