毎日を豊かなものにしてくれる、ファッションの “カスタム”を探す連載「カスタムという楽しみ! ファッションをもっと自分らしく」。
3回目の今回は、独自に編み出した手法を駆使して定番スニーカーを大変身させてくれるショップ「RECOUTURE(リクチュール)」をご紹介します。
2019年2月に東京・国分寺から青山に移転オープンし、より感度の高い人に向けて発信をはじめたリクチュールには今、国内外からカスタムを求めるオーダーが殺到しています。
目次
試しに作ったカスタムがInstagramで大反響に
リクチュールのオーナーは廣瀬 瞬さん。大学中退後、フランチャイズの靴修理店オーナーなどを経て、2013年に地元の東京・国分寺で、リクチュールの前身となる靴の修理ショップ「国分寺シューズ」をオープンさせました。
もともと手先の器用さには自信があった廣瀬さん。国分寺シューズは高級靴をきちんと修理できるお店を目指し、順調に顧客を獲得していきますが、あるとき、思わぬことで大きく注目されるようになります。
「修理の空き時間に作った自分のためのカスタムスニーカーの画像を、お店のInstagramにアップしたんです。それが評判になって、同じようなものを作ってほしいというオーダーが入るようになりました。それで、徐々に修理よりもカスタムをメインとする店になっていきました」
最初のカスタムはスニーカーをブーツ風に
このとき廣瀬さんが手がけたのは、ナイキの名作スニーカーであるコルテッツがベースのカスタム。本来はブーツが好きな廣瀬さんが、久しぶりにコルテッツを履こうとしたら、持っている服とどうしてもバランスが合いません。それなら、自分でカスタムして作ってみようと考えたのがきっかけだったそうです。
「ブーツとスニーカーの大きな違いは、ソール(靴底)のボリュームです。ソールを剥がしてブーツのものに付け替えると、コルテッツの見た目はすごく変わって、手持ちの服と合わせやすくなりました」
いとも簡単にそう話す廣瀬さんですが、そもそもスニーカーとブーツでは製法がまったく違うはず。ソールを付け替えるのはそんなに単純な話ではないのでは? と聞くと廣瀬さんは笑いながら答えました。
「初めは実験みたいなもので、自分でもどうなるかわかりませんでしたね。作りながら『これ、ありなのか?』という感じでしたよ(笑)」
リクチュール流スニーカーカスタム法
スニーカーにブーツのソールをつけるのが基本
廣瀬さんのカスタムのヒントは、コールハーンやビズビムといったブランドの靴にあったといいます。それらは、革靴のアッパーにスニーカーソールを合わせた靴を売りにしていますが、廣瀬さんは逆の発想で、スニーカーにブーツのソールをつけることを考えたのです。スニーカーも作りは千差万別なので、中には難易度が高いものがあるものの、大抵はソールを付け替えられるそうです。
コンバース・オールスターのカスタム例
コンバースのオールスターのように、ソールと一体化したゴムが爪先を覆っているようなものでも、温めて接着剤をゆるめ、慎重に剥がしていけば大丈夫とのこと。
「海外製は割と楽に剥がせるものが多いです。でも日本製は丁寧な仕事をしているためか苦労します。どうしても剥がれない場合は、生地を傷つけないように注意しながらゴムを削り落とすんです」
アッパーをヌメ皮にする高級感漂うユニークなカスタム
コンバースのオールスターのようなキャンバス地のスニーカーをベースとし、アッパーのゴム部分をヌメ革に、ソール部分をブーツのものにするというのが廣瀬さんの好きなカスタムのひとつ。履き古したスニーカーが、高級感の漂うカスタムシューズに変身します。
廣瀬さんより前にこうしたカスタムをやっていた人はいなかったので、カスタムの手法は試行錯誤しながら開発していったそうです。
廣瀬さんは独自に考案した手法を教えながら、現在は2人体制でリクチュールを運営しています。
国内外からオーダーが殺到し2か月待ち
廣瀬さんのカスタムがInstagramで評判になってからというもの、その手法を模倣されることも多くなったといいます。でも、オリジネーターである廣瀬さんの腕にはどこも及ばず、リクチュールには国内外からたくさんのオーダーが舞い込んできます。
「現在、3分の1は海外からのお客さんです。特にアジア圏の人からのオーダーが多くて、香港、台湾、タイなどから旅行ついでにお店に来てくれる人も多くなりました。店を青山に移したのも、そういう海外のお客さんの利便性を考えたということもあるんです」
リクチュールにスニーカーを持ち込み、カスタムが完成するまでには平均2か月間を要します。1足のカスタム自体にかかる時間は4〜5時間程度ですが、注文が多く、順番待ちの長いリストができているとか。
カスタムのこだわりポイント:一級品の素材と仕上がりバランス
お客さんの要望を聞き、相談しながら最適のカスタム方法を決めていきますが、メーカーや型によって作業の工程は異なってくるのだといいます。その上で、廣瀬さんが一番こだわるのは、なるべく上質の素材を使うということ。安っぽい素材を使うとそれなりの仕上がりにしかならないので、革もソールも選び抜いた一級品を惜しみなく使います。
仕上げのバランスも、廣瀬さんのこだわりポイントです。たとえ同じサイズでも、ブーツはスニーカーよりもボリュームのある作り。そのため、スニーカーにブーツのソールを付けて普通に仕上げると、どうしてもぼってりとしたシルエットになってしまいます。廣瀬さんはカスタムの最終工程として、ソールの縁を慎重に削り、最適のバランス感を出すようにしているのです。
アッパー交換やレザーを使ったカスタムも増加
スニーカーのソールをブーツのものに付け替えるのがリクチュールのカスタムの基本パターンですが、最近はアッパーをカスタムすることも多くなっているそうです。
「アッパーは一度バラバラに解体して型を取り、素材を型通りに切って組み立てていきます。スカーフやバンダナを使ったり、レザーに替えたりすることもありますよ」
ソールを換え、アッパーの生地も入れ替えるとなると、ほとんど総取り替えということになり、外見的にオリジナルで残るのは、その型だけということになります。
お店の中に、作りかけの気になる靴がありました。形はナイキのエアジョーダンですが、アッパーがコードバン(高級靴などで使われる上質なレザーのこと)に変換されています。
「磨けるスニーカーがあったら面白いなと思って、作ってみました。コードバンなので、履きこむと革にどんどん味が出てきます。スーツにも合わせやすいかもしれませんね」と廣瀬さん。
耐久性が高く、大事に手入れすれば一生履けるブーツやレザーシューズと違い、スニーカーは一般的に履き潰していくもの。でも弱いアッパー部分を素材ごと替えれば、本当に一生もののスニーカーになるのではないかという発想なのです。
新店をオープン予定。服のカスタムにも挑戦
廣瀬さんがこれから挑戦したいのは、オリジナルのシューズを作ることと、服のカスタムを始めること。リクチュールの新店をオープンする予定で、そこでは服と靴のお直し&カスタムをやっていくそうです。
壮年向けの高級服のリメイク・カスタムを手がける店は多いけど、若者向けのストリートスタイルでそれをやりたいという廣瀬さん。そのお店も、きっと大きな反響を呼ぶことは間違いありません。廣瀬さんとリクチュールの今後の動向を注視しましょう。
- 【shop data】今回、お世話になったのは…
RECOUTURE(リクチュール) - 東京都渋谷区渋谷2-4-4
TEL:03-6419-7530
営業時間:11:00 ~20:00
定休日:水曜
https://recouture.thebase.in/
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。
文/佐藤 誠二朗
写真/木村 琢也
取材協力:RECOUTURE