目的を決めず、気の合う人と気の向くままにクルマを走らせる――。そんな気ままなドライブは、大人になったからこそ楽しめる贅沢な時間です。そのときの気分でふらりと行きたいところに出かけてみると、思いがけない発見があったり、普段意識しないことに気づかされたりすることも。
イラストレーターとして活躍する五島 夕夏さんも、そんな気ままな旅を楽しむひとり。仕事でもプライベートでも旅に出ることが多く、最近はフィンランドに行ってきたそう。
日本でも人気のあるフィンランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマークといった北欧諸国の人々は、緯度の関係で夏が短く冬が長い、厳しい自然環境の中で暮らしています。特に冬の日照時間は短く、室内で過ごす時間が長くなることから、インテリアデザインには、快適に過ごすための工夫がたくさん。夕夏さんも、シンプルで機能的なのに、ナチュラルで温かみを感じられる北欧デザインが大好きなのだとか。
そこで今回は、北欧スタイルにカスタマイズしたN-BOXで、気ままなドライブに出かけることに。ドライブのお相手に選んだのは、とても仲よしだという「お母さん」。お母さんの運転で、「昭和レトロな街」という噂の青梅方面に向かいます。
- 五島 夕夏(Twitter: @goto_yuuka)|(Instagram: @goto_yuuka)
- イラストレーター、絵本作家。桑沢デザイン研究所卒。学生時代、ロシアの絵本に影響を受けて、絵の世界を志す。2016年には名古屋で初の個展「かくれんぼうてん」を開催。旅も大好きで、国内・海外を問わずさまざまなところへ出かけている。著書に『よんでみよう』(岩崎書店)など。
運転手はお母さん。とりあえず青梅方面に行くことに
青梅駅周辺は昭和レトロな雰囲気という噂を聞いた夕夏さんは、以前からお母さんと「行ってみたいね」と話していたそう。とはいえ、青梅でなにをするかはとくに決めずにクルマに乗り込みます。
車内のデザインを見て、「シートカバーの色使いがかわいい!」と夕夏さん。お母さんも、「フロアカーペットマットもかわいい! シフトノブもかわいいね」と、北欧スタイルにカスタマイズされたN-BOXで気分が盛り上がったようです。
「母とこうやって話をしていると、お互い子どもみたいになってしまうんです。同じものをかわいい! と言いあえることが楽しくて、お互いの息抜きにもなっているんだと思います」
お母さんも娘の話を聞きながらニコニコと楽しそう。1時間ほどクルマを走らせると、青梅市内に到着。旧青梅街道沿いには、レトロな看板がちらほら見えてきました。
旧青梅街道沿いを青梅駅方面に向かう右手に見えたのは、「昭和幻燈館」という、これまたレトロな雰囲気漂う博物館。不思議な外観にひかれ、まずはこちらを訪れてみることに。
青梅出身の墨絵作家である有田 ひろみさんと、ぬいぐるみ作家の有田 ちゃぼさんの作品が常設展示されています。
実はこの昭和幻燈館は「昭和レトロ商品博物館」の別館で、昭和レトロ商品博物館はすぐ近くにあると聞いたふたりは、「そっちにも行ってみよう!」と移動を開始。館内には、名前の通り昭和レトロな商品がずらり。昭和30〜40年頃のお菓子やタバコ、薬などのパッケージを中心に展示されていました。
「このかき氷のセット、すごくかわいい! でも夕夏は見たことないものが多いでしょ?」
「このコマは見たことあるよ。このかき氷セットも、すごくかわいい!」
レトロな雰囲気に懐かしさを覚えるお母さんと、新鮮さを感じる夕夏さん。ふたりは興奮しながら館内を見てまわります。
とっても仲のいいおふたりですが、夕夏さんが家を出てひとり暮らしを始めてからは、お互いにどことなく気をつかってしまうこともあるとか。
「こうしてふたりでドライブしたり、旅行したりすると、また実家に戻った気分になりますね」と夕夏さん。
昭和30〜40年代は、夕夏さんがまだ生まれるまえの時代ですが、懐かしいレトロな品々を目にして、家族で過ごしたかけがえのない時間を思い出したようです。
ランチを食べながら久しぶりの親子の会話
そろそろおなかが空いてきたふたり。昭和レトロ商品博物館スタッフさんから、近所のおすすめのお店を教えてもらったので、行ってみることに。その街で出会った人から教えてもらったお店にふらりと寄れるのも、気ままなドライブ旅ならでは。お店の周辺はやや道幅が狭くなっていましたが、N-BOXは小まわりがきくので、運転もラクラク、快適です。
そのお店の名前は「繭蔵(まゆぐら)」。文化財の繭蔵を改装した店内は、情緒のある落ち着いた雰囲気で、旬の素材を使った創作料理が食べられる地元でも人気のスポットです。
「何にしようかな」
「どれもおいしそうで迷っちゃうわね……」
メニュー選びに悩みながらも楽しそうなふたり。そして料理が出てくるまでのあいだ、夕夏さんが現在がんばっている、絵の仕事の話に。
夕夏さんは、イラストレーターとして仕事をするようになってから、今年で5年目。
「高校のころ、お母さんは私が進路のことをちゃんと考えていないと思っていたんじゃないかな。でも私は絵でやっていきたいということをなかなか言いだせなくて」
なかなか言いだせなかったものの、「絵を描き続けていきたい」という気持ちに迷いはなかったと言います。
「ほかにできることがなかっただけなのかもしれない。例えば、バレエをやっていて、背が高くてスタイルもよかったらバレリーナになりたいと思ったかもしれないけど、私は絵しかなかった。でも、ほかの可能性が少なかったことが、今はありがたいと思っているんだよね」
「自分がほかの人と比べて秀でているところを見いだせない」という夕夏さん。たまに、若い人が自分が描けないようなジャンルの絵を描いているのを見ると「若いのにすごいな……」と少し焦ることも。ただ、すごいと思うけれど大きな悩みではなく、今はただ、「絵を一生描いていきたい」という思いを胸に活動を続けています。
深くうなずきながら、夕夏さんの話を静かに聞いているお母さん。ちょっとした悩みごと、将来についてなど、普段はしないような会話をしているうちに、おいしそうな料理が運ばれてきました。
注文したのは、月替りのメニュー「繭膳(まゆぜん)」。野菜たっぷりヘルシーで、少しずついろいろなおかずが楽しめます。ふたりとも、ひと口食べて「おいしい!」とにっこり。大満足のランチだったようです。
味わいのあるアンティークに囲まれて
お腹が満たされたところで向かったのは、古民家を利用したアンティークショップ「rendez-vous de brocante(ランデヴー ド ブロカント)」。20年近くヨーロッパで暮らしていたご主人が、フランス各地で見つけたアンティークを展示・販売しています。
お店でふたりを出迎えてくれたのは、なんと、かわいいパグ。2歳になる看板犬「ラン店長」と触れ合ったあと、店内のアンティーク家具や雑貨を見てまわります。
「かわいい! 全部かわいいけど、このランプなんてすごくいいですね。ちょっと乳白色というか、半透明なところが素敵!」
自宅にも、お気に入りのアンティーク家具や雑貨があるという夕夏さん。ほうろうの水差しを筆立てにするなど、デザインを楽しみつつ、実用性を兼ねた使い方をしているそうです。
実は、夕夏さんのお父さんもイラストレーター。「子どものころから家で父親が絵を描く姿を見ていたので、自然にアートやデザイン、インテリアにも興味をもつようになったんだと思う」と夕夏さん。そこからまた、家族の思い出話に花が咲きます。
店内に並んだアンティーク雑貨や家具のなかから、壁にかけられていた丸い額に見入る夕夏さん。
「個展をやったときに丸い額を使いたくていろいろ探しまわったんですけど、あまり見つからなかったんですよ。これ、すごくかわいいですね」
お店のご主人曰く、丸い額は肖像画用のもので、四角い額は風景画用。青梅には実はアーティストがたくさん住んでいて、額を展示会で使いたいと言って買っていく人も多いのだとか。
丸額を見つけてイメージがふくらんだ夕夏さんは、お店のご主人から許可を得て、店内で絵を描かせてもらうことに。
昼下がりの静かな時間。今回の旅の思い出となるように、ていねいに描いていきます。そしてできあがったのは、こんな1枚の絵。先ほどの額に入れて飾っておきたいような、温かくやさしい絵です。
夕夏さんがイラストレーターとして活動するうえで大切にしてきたのは「描き続けること」だと言います。アンティークに囲まれて絵を描きながら夕夏さんは、思うように絵が描けなかった時期のことを思い出していました。
描けないながらも、なんとか1〜2枚絵を描いて、絵の先輩でもあるお父さんに見せた夕夏さん。普段は「がんばったね」くらいしか言わないのに、そのとき、お父さんがかけてくれたのは、「もがいていて辛かったんだね」というひとことだったそうです。もちろん夕夏さんは、「描けない」ということを話していません。それなのに、お父さんがちゃんとわかっていてくれたことに、驚きつつもとてもうれしかったとか。
お父さんを思い出したふたり。「お父さんにお土産を買って帰ろう」と、クルマを奥多摩方面へ走らせ、「澤乃井」で知られる酒蔵、小澤酒造へ向かいました。思いついたことをすぐに実行できるのも、気ままなドライブのいいところです。
お土産に限定販売の日本酒を購入し、夕日を背に受けて家路に急ぎます。帰りの車内でも、母と娘の女子トークはつきません。北欧スタイルのN−BOXのくつろげる空間が、ふたりの会話を温かく包み込みます。
母と娘の絆がいっそう深まった気ままなドライブ旅。クルマを運転しながらというシチュエーションもあってか、いつもとはちょっと違った話もできました。
「今度はお父さんも誘って一緒に来たいね」と夕夏さん。
ふらっと出かけたくなったら、それが出発のときです。みなさんも大好きな人を誘って出かけてみませんか?
文/富江 弘幸
写真/高橋 枝里