フロアマットはクルマに乗る人にもっとも愛用されているアクセサリーの一つですが「装備されていて当たり前」なものだけに、他のアクセサリーに比べて、意識されにくい面もあります。そのためか新車を購入するときも「なんとなく」選んでいる人は多いと思います。
進化するフロアマット!
最近のフロアマットは、消臭・抗菌加工が施されていているのは当たり前で、高級絨毯のような肌触りがとても良いプレミアムタイプや、車内空間をガラッと変えるオシャレなデザインタイプ、さらにフロアマットすら汚したくない!という徹底的なキレイ好きのための進化系マットまで登場しています。
ホンダアクセスの開発者に聞いてみた!
そんな日々進化をしているフロアマットですが、納車後は長い付き合いになるものだけに「なんとなく」ではなく、最近のトレンドを押さえつつ、その機能をしっかりと理解したうえで気に入ったものを選んでみてはいかがでしょうか?
そこで今回はホンダアクセス開発部でフロアマットの開発を担当している後藤 剛さんに話を聞きました!
- 後藤剛(ごとう・たかし)株式会社ホンダアクセス 開発部
- 2007年株式会社ホンダアクセス入社。マットを含むクルマの内装設計業務を経て、現在は内装領域の品目開発グループのリーダー。
フロアマットの役割とは?
ーー後藤さんよろしくお願いします。そもそもクルマにフロアマットはなぜ必要なのでしょうか?
後藤さん(以下、後藤):フロアマットを取り外すと分かりますが、クルマにはフロアを一面覆うカーペットが敷かれています。これは基本的に取り外して洗うことや交換することができません。
そこでこのカーペットが汚れたり摩耗したり痛んだりしないようにするため、上に敷くフロアマットがあるのです。つまりフロアマットの主な役割はカーペットの保護になります。
ーー交換できないものを保護するとは、とても重要な役割を持っているのですね
後藤:ただ、せっかく敷くのだから保護目的だけでなく、自宅リビングの心地よさを連想させるようなデザインや質感などを商品性として加えています。
キャラクターがデザインされた芝生調のフロアマット!?
ーーデザイン性の話が出ましたけど、フロアマットとというと黒系のイメージしかないですよね?
後藤:最近では専用のインクジェットプリンターを使うことでマット表面に特殊な色やイラストの絵柄を入れることも可能です。その手法を用いたのが現在発売されている「バーバパパコレクション」のフロアカーペットマットです。
キャラクターがデザインされ、芝生調のグリーンにマット表面の風合いをあわせるため、加工方法を工夫して芝のように見える仕上げにしています。
ーー芝に見せるとはこだわりがすごいですね!デザインが可愛らしいだけでなく明るい色合いなのでインテリアがパッと明るい雰囲気になってくれるのがいいですね!
内張カーペットをトコトン保護するこだわり形状
後藤:またVEZEL(ヴェゼル)用の「フロアカーペットマット(デザインタイプ)」にもインクジェットプリンターで柄を印刷したものがラインアップされています。こちらはフロアの印象をオシャレにするデザインとなっています。
ーー印象はだいぶ変わりますね!オシャレは足元からではなくフロアからだったとは!
後藤:ただ、ヴェゼルはフロアの形状から、スタンダードタイプのフロアカーペットマットだけではカバーできない箇所があり、内張りのカーペットが剥き出しになっています。そこで、上級タイプではこの部分を保護するためにエクステンションマットを採用しています。クルマの形状に合わせた開発をしています。
進化系マットの登場!汚れ防止に絶大な威力を発揮する救世主!
ーーほかにもこだわりの商品はあるのでしょうか?
後藤:フロアカーペットマットはクルマのカーペットを汚さないために敷くものですが、アウトドアレジャーなどに出かけたとき靴に泥がつくとどうしてもマットが汚れがちになりますよね。そこでフロアマットもできれば汚したくない!という方のために用意したのが、ゴムのような質感と機能を持った樹脂製の「オールシーズンマット」です。
ーーどのような特徴があるのでしょうか?
後藤:このマットは汚れても洗いやすい作りであるだけでなく、マットの縁が立ったトレイのような形状になっているので、マット上の土や小石がカーペットへこぼれにくくなっています。マット汚れが気になるくらいインテリアの清潔感に気を配る方や、アウトドアからシーズンスポーツまで楽しむアクティブな方には、この「こぼれにくい」という点を気に入っていただけるはずです。
マット2枚重ねで付け替え簡単!
ーーオールシーズンというだけあって年中使えるわけですけど黒い樹脂マットだと飾り気がないですよね?
後藤:実はこのマットは、フロアカーペットマットの上に重ねて装着できるようになっています。
専用ホルダーでしっかりと固定できるようになっているので、ずれることなく安心してお使いいただけます。
オールシーズンマットと通常のフロアマットを重ねて敷けるので、レジャー使用だけオールシーズンマットを重ねて汚れを気にせず使っていただき、普段は外してフロアカーペットマットのみにするという使い分けが可能となっています。
ーーマットの上にマットを重ねるとは徹底的な汚れ防止ですね!でも、普通のフロアマットだけだと雨の日は不安になってしまいますね。
後藤:安心してください。ホンダアクセス製のフロアカーペットマットは表と裏の間に防水用シートを挟み込んでいたり、マット裏面が合成ゴムになっているので、水分がクルマのカーペットに浸みることはありません。
ただ、耐水性があるからといって長時間水に浸けたり、高圧洗浄機などで強い水流をマットに掛けたりするのは推奨していませんので、マットを洗うときは軽い水洗いか適度な力で「はたく」というあたりで止めておくのがお勧めです。
ーー安心しました!自分のライフスタイルに合わせて選べますね。
さて、次はホンダ純正品ならではのフロアマットの製法と安全対策について、より突っ込んだ話を聞いていきたいと思います。
加工編~プロに聞いたフロアマット選び方のコツー踏み心地とパイルの関係
ーーそもそもフロアマットってどうやって作られているのでしょうか?
後藤:フロアマットの素材のことを「原反」(げんたん)と言います。
原反は聞きなれない言葉ですが、ホームセンターなどで生地を購入するときにロール状になっているのをイメージすれば分かりやすいかと思います。この原反からフロアカーペットマットは作られています。
ファッション業界ではお馴染み!目付とパイルについて
ーー原反はどのような基準で作るのでしょうか?
後藤:専門的になってしまいますが目付(めつけ)とパイルについて説明します。まず下地となる布に糸をループ状に打ち込んで作っていきます。これを「パイル」と呼びます。フロアマットには1㎡あたりに何グラムのパイル(マット表面の毛のこと)が入っているかを示す「目付」と呼ぶ重さの単位があり、ホンダアクセスではボリュームのある原反にするため、目付の値を大きい(密度が高い)ものを採用しています。
パイルの長さで硬さ調整!
後藤:1㎡あたりの重さが決まると次は密度の設定です。
同じ目付の値で設定する場合・・・
パイルの長さ(毛の長さ)を長くすると、パイル1本あたりの重さが増えるため、設定した重さにするには1㎡あたりの密度を減らします。すると柔らかい原反になります。
反対に毛足を短くするとパイル1本の重量が軽くなるので、ベースの生地に打ち込むパイルの量を増やしていくことになります。すると1㎡あたりに打ち込むパイルの密度が高まるので、目が締まってしっかりした原反になります。
フワッとした肌触りで高級感を出すには??
後藤:またパイルのループの頂点をカットするとパイルが「フワっと」広がるので見た目も踏み心地にも柔らかさが出てきます。
この加工方法は、高級感を出すために主にプレミアムタイプのものに使われます。先ほど紹介した、バーバーパパコレクションの芝生のような質感を再現するためにも使用しました。
パイルの特性を生かした耐久性づくり
後藤:これらのパイルの長さと加工方法を組み合わせて一つのフロアカーペットマットが出来上がっています。
パイルの長さを高く設定すると毛足が長くなり高級感のあるマットになりますが、摩耗に対して不利になるという傾向があります。
そこでペダル操作で踵が当たる摩擦が強い部分はパイル背を低くして耐摩耗性を高めた作りを施しています。
バリエーション豊か!パイルの長さを利用して作る模様
後藤:ちなみにパイルの長さは打ち込みの際に任意に設定できるので長いもの、短いものを交互に打ち込んでストライプ模様を作ったり、パイルの長さの違いを利用してマット表面に柄を作ったりすることも可能です。
ーー車種によってこんなに柄を揃えているとは知りませんでした!マットの柄もそうですけど、踏み心地はペダル操作をしている運転手より同乗者のほうが感じやすいと思いますので、人を乗せる機会が多い人はこの辺にこだわってマットを選ぶのも良いかもしれませんね。
安全対策~ズレたら何が怖い?フロアマットのズレ防止のための工夫
ーー次はフロアマットの安全対策について教えて下さい。
後藤:ホンダアクセスのフロアマットでは運転席に位置決めとズレを防ぐためのフックとホルダーが付いています。
加えてマットの裏にも滑り止めの加工が施してあり、スパイクのある合成ゴムのタイプと熱を加えてザラザラに加工した2パターンあるのですが、どちらもクルマのカーペットに対して十分な摩擦を得ており、同等の滑りにくさを実現しています。
ーーそれだけしっかり滑り対策をしていれば安心ですよね?
後藤: フロアマットは非常に過酷な条件で使われるため、ホンダアクセスが作る純正フロアカーペットマットはクルマ側に使われている素材と同等の品質や耐久性、安全性を求めたものになっています。
安全対策もとことん突き詰めているのはさすがホンダ純正品!という感じがしました。
何気なく選んでいたフロアマットにはこれだけの作り込みと工夫が盛りこまれていいたのが驚きでした。
これからクルマを買う人やマットを買い換えようと考えている人はカタログをしっかりと見て、納得のいくフロアマット選びたいですね。
後藤さんありがとうございました!
編集後記
フロアカーペットマットの触り心地は本当に良いのか!?
ホンダアクセス従業員が飼っている猫ちゃんで試してみたところ・・・
パイルのなが~いフカフカなタイプがお気に入りだったそうです。猫ちゃんも気に入るのは純正品だからでしょうか・・・。
文/深田 昌之・カエライフ編集部
写真/深田 昌之