ハイエースを「動くオフィス」にカスタム!元センセイ夫婦がバンライフを始めたワケ

カスタムしたハイエースと共に写るふかや夫妻

ハイエースをカスタムし”動くオフィス“として使いながらフリーランスで活動するキマさん&まいさん夫婦。もともとふたりとも小学校教員でしたが「自由に旅に出かける暮らしがしたい!」とバンライフをスタートさせました。日本一周の旅(未完)を経て、今のライフスタイルに行き着いた夫婦の思いを聞きました。

 

ふかや夫婦

ふかや夫婦のそとのくらし
茨城県在住、元教員夫婦のキマさん&まいさん。こだわりのキャンプギアで週末キャンプを楽しんでいた教員時代から、自由な生き方を求めて教員を退職。ハイエースを3か月でカスタムし、2024年7月〜「動くオフィス」のバンで日本一周を開始。現在は中断中で、バンライフを楽しむ。
Instagram:@soto_kura
YouTube:ふかや夫婦のそとのくらし

目次

 

日本一周旅行への憧れから、フリーランスに転身

キャンピングカー仕様にカスタムしたハイエースを“動くオフィス”として活用する、「そとのくらし」のキマさん&まいさん夫婦。キマさんはSNS動画クリエイター、まいさんはデザイナーとして、それぞれフリーランスで活動しています。

“動くオフィス”内で仕事をするキマさん&まいさん夫婦

お互いを「キマたん」「まいちゃん」と呼び合う仲良し夫婦。あきら&まいという名前から「あきまい」と呼ばれているうちに、「キマ」というあだ名が定着したのだそう

ハイエースのカスタムをスタートしたのは2024年4月。その前月まで、キマさんは小学校の先生として子どもたちに向き合ってきました。
もともと夫婦ともに教員で、教職課程の大学時代に出会ったふたり。公務員生活から、真逆にも思える自由な暮らしを選んだきっかけは何だったのでしょうか。

「先生の仕事は、妻が2年、僕は5年続けたあとに辞めました。教員時代から、週末は夫婦でキャンプに出かけて、自然の中でご飯を作って食べたりお昼寝したり、それぞれの時間をのんびり過ごすのが好きだったんです」(キマさん)

そこで生まれたキャンプ仲間との出会いから、2021年にVANCAMP_JAPAN(バンキャンプジャパン)のイベントに行ったことが転機となります。クルマを自由にカスタムして、お気に入りの空間で過ごしている先輩バンキャンパーたちの姿を見て、「クルマと暮らす、こんな生き方があるんだ!」と衝撃を受けたそうです。

「同じころに、公務員夫婦で日本一周旅行に出かけている方(@likesaturdayさん)のYouTube動画を見ていて憧れもありました。車中泊を続けながら日本一周ができたら楽しいんじゃないか。私たちもいつか日本一周に出かけよう、と思うようになりました」(まいさん)

以前に乗っていたHonda ヴェゼルでキャンプ場で停車している様子

かつてはHonda ヴェゼルと共に週末アウトドアを楽しんでいた(写真提供:そとのくらし)

しかし、公務員という“安定した職”を辞す決断までに約3年の時間がかかったと話すキマさん。すでに独立していたまいさんはフリーランスのデザイナーとして、独学でスキルをつけながら着実に仕事を増やしていました。キマさんもいずれ独立する日のために、SNSでの動画配信をスタートし、フォトグラファーとしての実績を作りながら準備を進めていきましたが、当時は「夫婦でフリーランスになって大丈夫なの?」と不安があったそう。

ただ、まいさんというフリーランスのロールモデルがいたことはキマさんにとって心強く、安定して働ける道筋が見えてきた2024年3月に大きな決断をします。

「周りはあぜんとしていましたね。子どもたちに『クルマに乗って日本一周の旅に出るんだよ』と言ったら『ええええ!』と大声を上げていました。一度きりの自分の人生だから、みんなにも好きなことに挑戦していってほしい。そんなメッセージが伝わっていたらいいなと思っています」(キマさん)

運転するキマさんと、助手席で笑顔を見せるまいさん

まいさんも運転はできるが、基本、運転はキマさんの担当

 

2か月のガレージ滞在期間でハイエースをカスタム

そこから実際に日本一周の旅をスタートしたのは、2024年7月。3月末に退職と同時期にハイエースを購入後、約3か月でカスタムするという急ピッチな準備を進めていきました。

ハイエースを選んだのは、「夫婦ふたりで喧嘩せずに過ごすためには、広い空間が必要だったから」。中古車店を見に行ってすぐに見つけたのが、今のクルマだそうで、「15年前の中古車で4万6000キロしか走っていなかった」というお買い得な一台を、177万円で購入しました。

ふかや夫妻が購入した白の大型ハイエース

車内の広さ重視で選んだスーパーロングバン・ハイルーフ・ハイエース

7月に出発する、という期限を決めて改装作業に取り掛かったふたりですが、なんとそれまでのDIY経験はゼロ。内装のデザインも、ハイエースを購入後に決めていったといいます。

「電動ドリルすら初めて扱ったので、ネジの取り付け方もわからなかった。最初は間違えて手袋をしたまま使おうとしていました」(キマさん)

まいさんが軍手を付けたまま電動ドリルを使っている様子。電動ドリルを使う際は軍手を外しましょう

「巻き込む可能性があるので、電動ドリルを使う際には軍手を外しましょう」まいさん(写真提供:そとのくらし)

強力なアドバイザーとなってくれたのは、クルマの内装デザイン会社、(株)Renovan Japanを経営するバンライフ仲間のはやとさんでした。ガレージをレンタルして改装サポートするプランも提供しているのだそう。

カスタムをスタートした4月当初は、住んでいたつくば市(茨城県)から、はやとさんの会社がある東京・福生に通いながらDIYのやり方を学んでいたふたり。でも「滞在しちゃったほうが楽だ」と気づき、5~6月の2か月間は“ガレージ住み込み”の改装生活をすることに。「日本一周の旅に出るんだし、家も必要ないよね」と夫婦で話し、4月には家の解約も決めたそう。住み込み生活の間は改装作業途中のハイエースで寝泊まりしながら、ふたりの空間を作り上げていきました。

Renovan Japanのガレージにハイエースごと住み込みしている時の写真

ガレージレンタルプランは、工具のレンタルやはやとさんのサポートを含めて約24万円。木材費は別途約60万円かかったので、カスタムにかかった費用は90万円ほどに(写真提供:そとのくらし)

はやとさんからは断熱材や制振材の入れ方、配線の設置の仕方など、バンライフ初心者には難しい改装のポイントをアドバイスしてもらいながら、作業を進めていきました。

「ガレージレンタルを2か月利用でお願いしたこともあり、6月中には終えなくては! と必死でした。日本一周の出発日は遅らせない、と決めて、深夜まで作業することもありましたね。仕事がある日は、私だけカフェに行って、キマたんが作業を担当することも。しんどかったからこそ、でき上がったバンへの思い入れはひとしおです」(まいさん)

まいさんが天井の制振シートをローラーで貼っている様子

慣れない工具に悪戦苦闘するまいさん。「毎日夢中で楽しかったけれど、もう一度やれるかと言われたら、どうかな(笑)」と、大変だった日々を笑って振り返る

怒涛の2か月間の末、6月末には木のぬくもりと間接照明が柔らかいDIYが完成。車内は黒、白、オレンジの3色で統一され、和風(Japanese)と北欧風(Scandinavian)のテイストを融合させたインテリアスタイル“ジャパンディ(Japandi)”を取り入れています。

完成した車内を後方扉から見た様子

カスタムのコンセプトやデザインには、キマさんの好みが強く反映されている

「夫婦ともに場所に囚われずにできる仕事を選んでいるので、旅をしながら働けるバンライフをイメージしていました。カスタムのコンセプトは、“動くオフィス”。それぞれの仕事や活動をしていても気にせず過ごせるような広々とした空間づくりを目指し、ものはすべて収納してスッキリ見せる内装にこだわりました」(キマさん)

そして、ついに北海道からスタートする日本一周の旅が始まりました。

 

いざ日本一周の旅へ! と始めたつもりが…

フリーランスになり、家も解約して始まった日本一周の旅。北海道を一周したのち、東北を南下するプランを立てていましたが、旅を始めて約2か月後には“中断”することを決めたといいます。現在は茨城県内で暮らしながら、ハイエースをオフィス空間として利用したり、長野県や山梨県など近郊への旅やキャンプに出かけたりと、バンライフとともにある日常を楽しんでいます。

旅を中断した理由を聞くと、「日本一周が向いていなかったんですよね」とあっけらかんと笑います。

「その土地にしかないおいしいものに出合い、自分たちのお気に入りの空間で寝泊まりができる自由さはすごく楽しかったです。旅の間も仕事があったので、地元の図書館を見つけては夫婦で利用するなど、僕らならではの地域の過ごし方ができたんじゃないかな。でも、だんだんと旅を続けなくちゃ、という義務感が生まれてしまって…、感動する瞬間が少なくなってしまいました」(キマさん)

バンの上で両手を高く上げながら景色を眺めるまいさん

旅先で遭遇する絶景に立ち止まれるのもクルマ旅ならでは(写真提供:そとのくらし)

「北海道一周が楽しすぎたのかもしれません。日本一周を終えたバンライフ仲間からも、『北海道が一番良かったよ。一番いい旅を最初にしちゃって大丈夫?』などと心配されていたのですが、実際に“感動慣れ”してしまったんです。新しい地域に行っても既視感を抱いてしまうことが度々あり、夫婦で話して、中断することにしました。“中断”なのでいずれまた再開するかもしれませんが、私たちには『拠点を持った上で、そこから行きたい地域に出かけていく』という旅のスタイルが合っているんだと気づかされました」(まいさん)

日本一周途中にもらった「日本本土四極踏破証明書」の内の2枚を持っている様子

最東端の納沙布岬(北海道根室市)、最北端の宗谷岬(北海道稚内市)を訪れた際にもらった「日本本土四極踏破証明書」

 

どこよりもぐっすり眠れる“第一の家”

一方で、バンライフは「快適そのものだった」と話すふたり。ホテルや旅館の心配をせずに、いつでものんびりくつろげる空間とともに移動できる良さが、バンライフ最大の魅力だといいます。

「家よりもクルマのほうが寝心地が良くて、ぐっすり眠れます。旅の道中はサービスエリアで一泊することも多いのですが、いつもふたりで爆睡! 起きてすぐに移動できるので1日の時間を無駄にすることがありません。渋滞を避けて深夜や早朝に移動するスケジュールも立てられて、旅の自由度は格段に上がりました」(まいさん)

ハイエース内に設えたベッドで寝転がるふたり

ベッド幅150cmなので夫婦ふたりで寝そべっても余裕がある

広々とした空間とはいえ、家に比べれば手狭になりますが、「お互いに干渉しない夫婦の関係性」があることで、ストレスを感じずに過ごせているそうです。

「相手の時間の過ごし方やペースを大事にしていて、それぞれ仕事をしているとき、別々の動画やマンガを見ているときもとくに話さずに自分の世界に没頭しています。同じ空間にいながらも、違う時間を作っていくことで、いい距離感ができているのかもしれません」(キマさん)

日本“一周”の旅は中断中ですが、バンライフを始めたことで、気軽に旅に出やすくなったそう

最近、訪れたサウナ併設の長野県の宿泊施設

日常があって非日常をバンライフで味わいにいくスタイルがふたりには合っていたそう(写真提供:そとのくらし)

今後は、クルマとともに海外旅行にも出かけたいと話すふたり。旅先の候補は、バンライフ仲間から「クルマで移動しやすい」とすすめられているオーストラリアのほか、ニュージーランドへ星空を撮影しに行ったり、カナダへオーロラを撮りに行ったりもしたい、と夢を膨らませています。

「旅に出かけやすくなったから、行きたい気持ちも強くなっています。場所や時間を選ばずに車中泊ができて、家よりも落ち着く空間がある。第二の家ではなく、第一の家、という感覚です。ハイエースは燃費が悪くてガソリン代が高い…というデメリットもありますが、自分たちのペースで旅ができる面白さ、ふたりでゆったり過ごせる時間の価値は、何にも代えられないんじゃないかなと思っています」(キマさん)

後編では、「そとのくらし」ふかや夫妻のこだわりの“動くオフィス”の内装やこだわりポイントについて詳細にご紹介しています。

 

文/田中 瑠子
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)
撮影協力/ アスパイヤの森