
茶室バンで日本一周の旅に出た、元理学療法士のコウジロウさん。クルマの中にいることをつい忘れてしまうほどに心安らぐ和の空間は、どんなこだわりから生まれたのでしょう。実用性より面白さ重視! と言い切るコウジロウさんに、カスタムのポイントを聞きました。

- コウジロウさん
- 元理学療法士で、現フォトグラファー。100日で日産NV200バネットを茶室バンにカスタムし、その後330日かけて日本一周の旅を完遂。2025年11月からスタート予定の新たなプロジェクトに向けて準備中。
- Instagram: @kojiro_vanlife
YouTube: コウジロウバンライフ
目次
ドアを開ければ広がる、土間と茶室の和空間
日産NV200バネットのサイドドアを開くと、車内に広がるのは、外からは想像もつかない和空間。

コウジロウさんが日本一周の旅のお供を“茶室バン”にしようと思ったのは、「ほかにはないカスタムカーにしたかったから」というシンプルな理由からでした。
「数々のカスタムカーが集う『VANCAMP JAPAN』のイベントでも、畳を敷いているバンに出合ったことがありませんでした。サンプルをたくさん見る機会をもらったのだから、誰の真似でもないユニークな1台にしたいと構想してできていったのが、“茶室バン”だったんです」
カスタムを始めた当初は、「天井を竹で作る」ことしか決まっていませんでした。断熱材を入れ、板に竹を打ち付けて天井が完成すると、「竹に合うのは和室だ」と全体の空間コンセプトが絞られていったそう。


「天井が竹であれば、窓は障子がしっくりきます。さらに、畳を敷いてゴロゴロできる空間がほしくなり、4畳半の茶室にすると面白いのではないか!」とアイデアが固まっていきました。


畳に上がる前の“小上がり”空間の土間には、黒い石が敷き詰められ、まさに“茶室に上がる”ように靴を脱ぎます。石の総重量は4kgほど。日本一周の旅の相棒としては、重くなってしまうのでは……と思えるのですが、「実用性は無視! デザイン重視を貫いた」と笑います。

こだわりの一つが、バンの窓に合わせて障子を開閉できるようにしたところです。「窓枠をフレームに写真を撮れるようにしたかった」ため、障子の上部にカーテンレールを設置。スライドする下部の木材を必死にやすり掛けし、スムーズに動くようにしたそうです。

茶室下の広々収納スペースで、車内はすっきり
車内にモノが一切ない、すっきりとした空間になっているのは、荷物はすべて畳の下に収納されているからです。

収納スペースの高さは、小ぶりなポータブル電源が収まる高さに計算されていますが、茶室の高さもコウジロウさんが座ってちょうど良い高さです。



収納されている荷物は、
- ポータブル電源
- インフレーターマットと寝袋
- 洋服
- 洗面道具などの日用品
- 調理道具
- 食料品
など最低限のものたち。日本一周の旅の間も、たったこれだけで旅できるの⁉ と驚かされます。

「日本一周といっても、僕の場合はVANCAMP JAPANのイベントに合わせて数か月に一度は都内に戻ってきていたので、季節ごとに服を入れ替えたり、寝袋を気温に合わせて取り替えたりできたんです。洗濯は1週間に1回はしていたので、下着以外は数枚で足ります。車体の横幅いっぱいに使った畳空間は、収納面積もしっかり取れる。荷物がごちゃごちゃと広がらないところもお気に入りのポイントです」
そんなすっきりとした車内に、なかなかの存在感を放っている“ヤツ”がいる……とどうしても気になるのが、旅を共にしたヤマドリのはく製(当初はキジだと思っていたため、名前は「キジロウ」)。日本一周の旅に出る前夜、バン仲間との送迎会で「連れていったらどう?」ともらったそうで、「最小限の荷物にすべく試行錯誤していたのに!?」とかなり悩んだそうです。

「旅の前夜はバン仲間の一人の家に泊まっていたのですが、そこがたまたま骨董品がたくさんある家で……。茶室バンに似合うのでは、とキジロウを連れていくことを提案されたんです。大きいし、かなりの空間を占拠するし(笑)でも、面白いからいいか、と思って一緒に旅をしていくうちに、どんどん愛着が出て好きになっちゃいました」
畳なので寝具さえあれば、茶室が快適な寝室に
旅の間は、ほとんど車中泊で過ごしたというコウジロウさん。就寝時には、足置きになる板を設置して、その上に厚さ7cmのインフレーターマットを敷けば、足元までしっかりカバーされた簡易ベッドの完成です。



畳の匂いに、竹でできた天井、涼しげな障子に囲まれて横になっていると、クルマの中で寝ているとは思えないほど落ち着くのだそう。
「旅仲間との出会いを求めて、ゲストハウスにあえて宿泊したこともありましたが、9割以上は車中泊。畳の上であぐらをかいてご飯を食べて、寝っ転がって考え事をして、眠くなったら就寝へ……。畳が柔らかくて気持ちいいので、ほかの場所に泊まりたいとはほとんど思わなかったですね」
そのままダイニングにも、もちろん茶室としても
畳の上は、リビングダイニングも兼ねた万能空間。食事も車内で取ることが多く、外で買ってきたお惣菜を並べて食べたり、ときには地元食材で自炊したりすることもありました。
今回の取材時に作ってもらったのは、「日本一周の旅での思い出の味」。青森県を旅中に、バンの展示イベントで出会った地元のおばあちゃんから、たくさんのスルメイカをもらったことがあったそう。「こんなにたくさんあるのなら、炊き込みご飯を作ってみたらどうかな」と作ってみたオリジナルレシピだと話します。

「レシピというか、ご飯にスルメイカをちぎって入れて炊いてみただけなんですけどね(笑)旅の間は、パスタやスープ系などお鍋ひとつで完結するメニューが多かったのですが、地元の方にいただいた食材は、やっぱりよく覚えていますね」


ユニークなカスタムカーを作りたい、という一心で茶室バンを完成させたコウジロウさん。そもそもお茶の世界には縁がなかったそうですが、「茶室で旅をしているのに、お茶を淹れられないなんてもったいない」ということで、大阪府を旅した際には「さかい利晶の杜」(千利休茶の湯館)で「茶室お点前体験」もしてきました。
「本当は、旅先で出会った人をバンに招いて、お茶を淹れてあげたい……などと考えていたのですが、そんな機会はありませんでしたね(笑)」
せっかくなので茶室でお茶をたてていただきました。

何度見ても、まるで本当の茶室でお茶をたてているような錯覚に陥るコウジロウさんの茶室バン。これで毎度違った風景が周囲に広がっていたことを思うと、茶室バンならではの旅はとても贅沢な空間だったに違いありません。
次なる目標は……“茶室バン”とはまさかのお別れ!?
日本を巡った1年間を終え、旅のために作ったという“茶室バン”はいま、普段の移動手段 になっているとか。今後についての構想を聞くと、次に見据えるプロジェクトは「世界一周」だと話すコウジロウさん。
日本一周をやり遂げたからこそ旅仲間とのつながりが増え、彼らの話を聞く中で「もう一度旅に出かけたい」という思いがむくむくと湧き上がっているといいます。
旅のスタートは、アイスランドかフィリピンという、両極端な2択を考えているそう。理由を聞くと、「アイスランドは仲間が行きたい場所だから」と、友達思いなコウジロウさんらしい返答。
「もし仲間が来ないのなら、まずは苦手な英語を学ぶためにフィリピンで語学学校に行ってから旅をスタートしたいなと思っています」
「ガソリン代などのコスパを考えたら茶室バンは持っていけないかな……」と一度手放す予定だといいます。
海外に行けば、大歓迎されそうな“茶室バン”。せっかくここまでカスタムしたのに!? と思ってしまいますが、「茶室バンはそもそも、日本一周の旅のために作った1台。帰国後にまた2台目のカスタムを考えるかもしれませんね」と本人はいたって前向きです。
出発まではカメラマンとしてスケジュールを目いっぱい詰めてお金を稼ぐ時期、と決めているそう。世界一周を終えたあとには、どんな価値観を持ち、どんなライフスタイルになっていくのか。ぜひまたお会いして話を聞きたい! そう思わせてくれます。
前編では、茶室バンで巡った日本一周についてご紹介しています。
文/田中 瑠子
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)
撮影協力/TAKAO CAMP PARK -RAFT-