埼玉県の山深く、秩父郡皆野町を拠点になんと年間360日を車中泊で過ごすバンライフの猛者がいるという。その人こそ、アウトドアフリーランスのヘンミマオさん。ハードコアな車上生活(!)もさることながら、注目すべきはオシャレにしつらえられた内外装。彼はなぜ、バンライフをはじめたのか? その暮らしぶりやDIYのポイントは? 気になるところをお宅訪問で徹底チェックします。
<プロフィール>
- ヘンミマオさん
- 1990年埼玉県秩父生まれ。大手リユースショップの社員時代に、趣味のキャンプ好きが高じてアウトドア部門の店長に着任。2020年のコロナ禍でDIYにのめり込み、中古バンを車中泊仕様にDIY。現在はアウトドアフリーランスとして、バンライフ・車中泊アドバイザー、キャンプインストラクター、DIYバン車両展示などで活動中
- Instagram @maohenry
目次
妻が住む東京−地元秩父−バンの三拠点生活
日本一周などの自動車旅行を除けば、年間車中泊日数「360日」はカエライフ最長クラスかもしれません。事実、筆者も最初にプロフィールを見たとき、何かの間違いかと疑ってしまいました。その人こそ車中泊、キャンプ、DIYなど、バンライフにまつわる情報を発信しているアウトドアフリーランスのヘンミマオさん。
あらためて念を押したいんですが、年間車中泊日数360日って本当なんですよね?
ヘンミマオさん(以下ヘンミさん):本当です。これでもぼく、結婚してるんですけど、日ごろは地元秩父の皆野町を拠点に活動していて、元税理士事務所をリノベして荷物置き場や風呂場にしつつ、寝るときは地元でも出張先でもバンです。くわえて東京で暮らしている妻に週1ペースで会いに行くんですが、そんなに部屋が広くないので、一緒にご飯を食べたあとは「じゃあ、おやすみ」とコインパーキングに停めてあるバンに戻って寝ています(笑)。
ははは。正真正銘、ガチなんですね。逆に1年の残り5日は?
ヘンミさん:ぼくのバンは商用車だから車検が1年ごとなんです。なので年にだいたい5日間は工場に預けているから年間車中泊は360日。
そういうことだったんですね。内外装をDIYされたヘンミさんのバンは、各種メディアでも取り上げられるほどオシャレと評判です。なぜ、こんなにセンスがよろしいんでしょうか?
ヘンミさん:もともと独立前に10年ほど大手リユースショップで働いていました。当時、テントを大小10個くらい所有するほど趣味のキャンプにドハマリしていたのもあって、アウトドア専門店を任されるようになったんです。すると買い取り品として見たことも聞いたこともないような海外ブランドのヴィンテージ品なんかが持ち込まれるわけですよ。それらを査定しなきゃいけないので、毎日ネットで調べて勉強しました。同時に、ディスプレイや展示もいろいろ研究して、いかに魅力的な売り場を作るかも試行錯誤して。その買い取りと売り場作りで「見る目」がめちゃくちゃ鍛えられたのはあると思います。
なるほど。その「センスの磨き方」は、続く後編で深掘りするとしまして、そんなヘンミさんがなぜ車中泊を始めようと思ったんでしょうか?
バンライフのきっかけはレンタルのキャンピングカー
ヘンミさん:直接的なきっかけは2019年末にレンタルのキャンピングカーで出かけた北海道旅行ですね。それまではテント泊が中心だったので、鉄に包まれて眠るのはこんなにも安心感があるのかと感動したんです。テントだと設営・撤収の手間もありますし、周りの音が気になったり、強い雨風にも不安があったりしますから。それに、車中泊だとノープランでも駐車場さえ確保しておけば宿代もかからない、とメリットだらけと気づいたんです。
確かにテントの設営・撤収ってなんだかんだ小一時間くらいかかりますものね。それで現在の愛車を購入し手を加えられたと?
ヘンミさん:新型コロナウイルスが流行ってお店も休業となりましたが、そんなときSNSでバンライフというカルチャーに出会いました。もともと自分で家具を手作りした経験もあったので、これならぼくにもできそうだと中古のマツダ「ボンゴ」を買って、車中泊仕様へとDIYすることにしたんです。
ちなみになぜボンゴだったんでしょうか?
ヘンミさん:本当は車中泊するにはトヨタの「ハイエース」がスペース効率も良くて向いているし、完成車でいえばゴードンミラーが欲しかったんですけど…。お金がないので自分で作るしかない(笑)、と安く買えるボンゴにしたんです。なんせ2002年式なのに走行距離5万kmで30万円でしたからね。
それはお買い得! しかも今あらためて眺めると最低地上高が高くて悪路走破性もあるし、ボクシーなウィンドウ周りがネオクラシックという感じでオシャレです。
ヘンミさん:悪路走破性が高いと過信して、買ったばかりの頃、砂浜に突入していったらみごとスタックしてしまいまして、レッカー代に3万5000円もかかったので、いまだに海は鬼門です(笑)。
それは痛い…。DIYを加える前のボンゴのお気に入りポイントって他に何かありますか?
ヘンミさん:座席がベンチシートで大人3人が横並びで座ってドライブできるのが新鮮で楽しいですね。前席、後席に分かれて座るとコミュニケーションが取りづらかったりしますし、同じものを見てるので会話も盛り上がるんです。
かかった総費用は50万円。内外装すべてをほぼDIY
そんなお気に入りのボンゴを見る限り、内外装ほぼ全てに手を加えられているようですが、どういった作業を行ったんでしょうか?
ヘンミさん:外装はヤスリがけした後、塗料を買ってきて2日がかりでベージュ(コヨーテ、サンド、カーキ)にオールペイントしました。内装は壁と天井を板張りにしつつ、床は断熱材を入れてフローリング調のマットを敷いて。
工具などはどうしたんですか?
ヘンミさん:最初はAmazonで買った5,000円の電動ドライバーだけでしたね。それで、天井に穴を開けないよう気をつけながら、釘で板を打ち付けて。あとは、伸縮式のベッドと収納付きテーブル、外に引っ張り出せる折りたたみのカウンターテーブル、ハンガーラックなどを作りました。
すごい! さすが家具のDIY経験が活きています。
ヘンミさん:とはいえやっぱり素人ですし、もともと説明書とか設計図を読むのが苦手なんで、トライ&エラーの繰り返しですよ。でもなんだかんだ内外装まるごとDIYして、だいたい1カ月くらいで完成しました。かかった費用も車両本体、材料、工具類を入れて50万円くらいじゃないでしょうか。
やっぱり自分でやれば、安くあげられるということなんですね。ちなみに、ヘンミさんのDIY箇所でカエライフ読者でも簡単に真似できるモノはありますか?
ヘンミさん:いちばん簡単なのは、折りたたみのカウンターテーブルですね。ホームセンターで売ってるヒンジとレールを板に取り付ければいいだけなので、見よう見まねで誰にでもできると思います。
車中泊生活で一番つらい季節は?
ヘンミさんのお話をうかがっていると、あれこれ悩む前に「とりあえずやってみよう。なんとかなる」というチャレンジ精神がいちばん大事なのかなって思えてきますね。ところで、バンライフもかれこれ2年弱ということになりますが、現時点でのご感想はいかがですか?
ヘンミさん:基本的に自由で快適なんですが、やっぱり夏はしんどいですね。冬の寒さは暖かくすればしのげるんですが、暑さはどうにもならないし眠れない。最初は扇風機を入れたり、寝るときだけ山の高い方へと移動したりもしてたんですが、それでもキツいので最近、ポータブル電源で動くクーラーを導入しました。あと、夏はランタンに虫が寄ってきたりするので網戸をしていても、ドアの開け閉めのときは気を使います。
ひと晩中アイドリングはできませんしね。
ヘンミさん:あと、クルマは熊谷ナンバーなんですけど、東京都内を走っていると、しょっちゅう職質にあいますね。やっぱりクルマの見た目があやしいからかな(笑)。でも車内を見てもらうと納得してもらえます。警察の方も、まさかこんな部屋になっているとは想像もしていないらしく、だいたいびっくりされます。
そりゃ、こんなにオシャレな空間が広がっていたらびっくりしますよ!
折りたたみ自転車との組み合わせが最高
ちなみに車中泊生活をするようになってから、これは便利だな!と痛感したギアはありますか?
ヘンミさん:それはもう、折りたたみ自転車ですね。最近都内のコインパーキングってめちゃくちゃ高くて、安いところに停めると今度は目的地から遠くなってしまったりするし、クルマでちょこちょこ移動して駐車場を探すのも非効率。なので、いったん拠点を決めたらそこから自転車で移動するとちょうどいいんです。
たしかに、銀座なんてコインパーキング10分500円とかですものね。東京は自転車サイズの街なので運動にもなってぴったりかも。
ヘンミさん:あと、郊外でもあえて自転車で移動することがあります。クルマやバイクって便利なんですけど、スピードが速すぎてせっかくの見どころを気づかず走り抜けてしまうことがたくさんあるんですよ。その点、自転車ならゆっくりしたスピードなので、見えていなかった風景が見えてくる。ときには地元の人とも話し込んだりして、すごくいいツールだなってあらためて見直しているところです。
そんな話を聞くと、自転車も欲しくなってきちゃいますね。というわけで前編はここまで。次回は、気になるDIYや愛用品のチェックとともに、ヘンミさんと一緒に「どうやったらオシャレなセンスを磨くことができるか」を考えたいと思います。
撮影にご協力いただいたのは、2021年にキャンプエリアがオープンしたばかりのリトリートフィールド Mahora稲穂山(皆野秩父バイパス・皆野大塚ICすぐ)。場内設備の関係で中学生以下のお子さんは利用できませんが、逆に言えば大人だけでしっぽりキャンプを楽しめる穴場的スポットです。
文/熊山 准
写真/宮越 孝政
編集/熊山 准、TAC企画
撮影協力/リトリートフィールドMahora稲穂山