
エブリイを改装し日本全国へ車中泊の旅に出かけているイラストレーターのいとうみゆきさん。そもそもいとうさんが車中泊に魅了されたきっかけは何だったのでしょう。ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドでの車中泊旅行の出来事など、これまでの数々の旅の思い出を振り返りながら、車中泊の旅の魅力を聞きました。
▼プロフィール

- イラストレーター いとうみゆき
- 埼玉県在住。セツ・モードセミナー卒業。畑と音楽を好み、パーマカルチャーや自然農を学んでいる。著書に『車のおうちで旅をする』(KADOKAWA)がある。
- X @noca_m
- Instagram @nmoytke
- HP ito miyuki's illustration
目次
インドア派だけど楽しめる、車中泊との出合い
1年間のニュージーランド一周クルマ旅を経て、帰国後も日本各地への車中泊しながら旅へ出かけている、カエライフでもお馴染みのいとうみゆきさん。「おうちが大好き」「できればずっと家の中で、絵を描いたりゲームをしたりして過ごしたい!」と話す“インドア派”ないとうさんが、そもそも車中泊に興味を持ったのはなぜだったのでしょう。
きっかけは、20歳のときに初めての海外旅行で訪れたニュージーランドでした。10日間の滞在中に、川沿いでキャンプ泊や車中泊をしているヒッピーコミュニティと出会います。

それまで日本ではアパート暮らしが当たり前だったいとうさんにとって、「クルマとともに暮らす、こんな生き方もあるんだ! 好きなお部屋と一緒に旅できるって最高すぎ!」と興味を引かれたといいます。
旅から帰国後、早速日本で初めての車中泊デビュー。当初はクルマの運転も不慣れだったので、「小さくてなんとか運転できるかも…」と思って購入したのがワゴンRでした。

「車中泊ができるように改装していたわけでもなく、後部座席を倒して布団を敷いて、フラットにして寝ていただけ。当時は、寝られればいいでしょうと思っていました」

その後、本格的な改装を経験したのは、ワーキングホリデーで再訪した1年間のニュージーランド滞在中でした。
「渡航先は自然豊かな環境を求めて、ニュージーランド、オーストラリア、カナダの3つで迷いに迷いました。でも、一度行ったことのある国だという安心感と、日本と同じ左車線であることが決め手となり、ニュージーランドを選択。ちょうど学校の授業が終わり、住んでいた家の契約も切れるタイミングを見て、2019年11月に出国しました」
ニュージーランドで中古車「グラ子」を購入
英語が全く話せなかったため、「英語に慣れてくる(であろう)3か月後に、クルマを現地調達しようかな」と当時はのんびり考えていたそう。しかし実際は、入国して1週間後には中古車を購入することになりました。
「とにかくお金がない貧乏旅行だったので、当分はヒッチハイクとキャンプ泊で過ごすつもりでした。でもキャンプ用具一式を持っていたため、荷物の総重量は約24kg。体重の約半分の荷物を運ぶのにヘトヘトになり、これはクルマがなければ無理だと予定を変更することに…。ワーキングホリデー経験者の友人に相談したところ、ニュージーランドではワーキングホリデーでクルマを買うのはよくあることだ、といいます。キレイに使えば、帰国するときに購入時と同じ値段で売れることもあるそうで、『それならば!』とクルマ探しを始めました」
リサーチした先はFacebookのマーケットプレイス。車中泊仕様の中古車が多く出品されており、持ち主と直接やりとりができます。
ニュージーランドでは、郵便局などにある書類1枚を提出すればクルマの譲渡手続きが完了となるため、中古車を比較的簡単に手に入れることができるそうです。
そこで出合ったのが、いとうさんがニュージーランドで8オーナー目だったというグランディスでした。

故障箇所が多く、修理代は少々かさんでしまったそうですが、破格の値段で交渉成立。旅の相棒を「グラ子」と名付け、ベッドとキッチンを完備させたシンプルな部屋をつくっていきました。

「キッチン棚やテーブルは、ゴミ収集所の隣にあった廃材置き場や格安家具店などから使えそうな材料を調達! クルマの後方にキッチンをつくり、バックドアを開ければ、車内から外の景色が見えるような設計にこだわりました」

100万円で終えた、ニュージーランドのクルマ旅
1年間の旅の間、約半年はウーファー(農場で仕事をしながら寝床やごはんを提供してもらうファームステイ)をして過ごし、残りの半年は、ニュージーランド国内を巡りながらキャンピングサイトで車中泊ライフを送っていました。キャンピングサイトといっても、駐車場のようなスペースや芝生の広場といった印象が強かったと話します。
「周りにはキャンピングカーのほかに、サーカス団⁉ と思うような大きなテントに、大家族でにぎやかに過ごす人たちもいました。2週間以上滞在している人も多く、中には住んでいる人もいて、なにかと騒がしいんです。帰国後に日本のキャンプに行って、その静かさに驚きました」


それにしても、異国の地での車中泊生活に、身の危険を感じたり不安を抱いたりしたことはなかったのでしょうか。
「確かに、テント泊のときはすごく怖かったです。人はもちろん、動物も怖かった。でも車中泊なら、何かあればエンジンをかけて走り出してしまえばいいので、安心です(笑)」

ニュージーランドの旅費として用意していたのは約80万円でした。そこに、SNS経由でイラスト発注を受けた仕事として約20万円を稼ぎ、トータル100万円で1年間を過ごすことができました。
「そこまで安く旅を終えられたのは、たくさんの人から有益なアドバイスをもらい、具体的に支えてもらえたから」と、ゆっくりと言葉を選びながら旅を振り返るいとうさん。そののんびりした雰囲気と、初めて暮らす土地でクルマ旅を切り開いていく“向こう見ず”とも思える行動力とのギャップが、周りの人を惹きつけるいとうさんの魅力なのでしょう。
「いつかイラストレーターとして生活できたらいいな…と漠然と思い描いていました。でも、現実的なプランがあったわけではありません。その後のライフデザインが何も決まっていない中での1年間のクルマ旅。だからこそ、失うものは何もない! と振り切って行動できたのかもしれません」

大自然の中をひた走る、オーストラリアのクルマ旅
その後、オーストラリアでも約2か月間の車中泊の旅も楽しんだいとうさん。ニュージーランドで出会ったオーストラリア人の友人のクルマ旅に同乗し、日本では味わえない大自然のスケールに驚かされる毎日でした。

「オーストラリアの旅は、日本以上に事前の情報収集や入念な準備が必要です。とにかく土地が広大なので、ガソリンスタンドが300km先にしかない…ということも。食料の調達も、至る所にコンビニエンスストアやスーパーがある日本とは大違いです。常温保存できるものをストックしておかなければ、おなかがすいて大変なことになってしまう。そんなサバイバル感の強い旅もまた、オーストラリアだからできた貴重な体験でした」


日本旅の相棒「白くま」と全国を巡る
帰国後は、海外で培った車中泊旅のカタチをさらにブラッシュアップしたいと、父から譲ってもらったエブリイを車中泊仕様にすべく動き出しました。とはいっても、「もともと面倒くさがりな性格」なこともあり、約1年間は後部座席をフラットに収納した上に布団を敷いた“簡易的な車中泊仕様”で過ごしました。
「ニュージーランドのグラ子ではできなかった改装案を実現したいと、構想はいろいろありました。グラ子ではもともと設置されていたベッドを使っていて、私の背丈には大きかったんです。ベッドの上で座って過ごす時間が長いと、車高が低い分、肩や腰が痛くなってしまって…。次のクルマは、ちゃんとサイズを測って、座ったときに足が床につくちょうどいい高さにしようと決めていました」

エブリイにつけた名前は、白いくるまを略して「白くま」。キッチンはグラ子と同じように、バックドア越しに車内から景色を見られるような設計にこだわりました。

その後、白くまと日本各地を巡った先は、地元の埼玉一周からスタートし、1カ月間の四国一周の旅、1週間の新潟県中越地方や長野県のメルヘン街道など。その後、2回目の四国一周旅も果たし、国内の車中泊旅を楽しみ続けています。(旅路の様子は、カエライフの過去記事をチェックくださいね)
「貧乏性なので、せっかく四国まで来たのだからできるだけ長く滞在したい、と、あれこれ旅のプランを練ってしまいます。白くまがいれば宿泊費を抑えられますし、夕日や朝日など、天気や季節ごとの時間に左右される“絶景ビュー”を見に行くのもラクチンです」
旅先で出会う車中泊仲間からは「北海道がおすすめだよ!」と何度も言われるそうで、今後ぜひ訪れたい場所の一つになっています。


2021年から始まった「白くま」との付き合いは、4年半以上になります。公共交通機関ではなく、クルマで国内外を巡る魅力はどこにあるのか。そう聞くと、「おうちでのんびり過ごしたい。でもキレイな景色が見たいし、おいしいものを食べたい。そのすべてを叶えられるのが車中泊なんです」と笑顔を見せます。
「苦手だった運転も、どんどん好きになっています。自分の大好きなおうち空間を、自分で運転してどんな所にも連れていくことができる。その自由さがとても気に入っています」
後編の記事では、そんないとうみゆきさんがどのようにして白くまを自分好みのお部屋に改装していったのかについてご紹介します。
文/田中 瑠子
写真提供/いとうみゆき
撮影/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)