
その日の天気と気分次第で行き先を決めては、ひとりクルマ旅に出かける野外のもりこさん。愛車はガーデングリーン色のHonda「N-VAN」。簡易的な車中泊旅を続けていたもりこさんがクルマのカスタムを始めたのは、自分なりのこだわり空間を誰かと共有したいという想いからでした。扱いがカンタン&コスパの良いツールを使いながら、かかった費用は総額5万円というカスタム。もりこさんならではの工夫とアイデアを聞きました。

- 野外のもりこさん
- 静岡県在住。Honda「N-VAN」をカスタムし、ひとり旅を楽しむ。旅の様子を丁寧に伝える動画に多くの人が魅了され、YouTubeチャンネル登録者は25万人を超える。2025年2月に初エッセイ『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』を出版した。学生時代に結成したガールズバンド「はぐち」のベース担当。
- Instagram:@yagai_no_moriko
YouTube:野外のもりこ
目次
コーヒー豆の木箱との出合いから、コンセプトが固まった
愛車のHonda「N-VAN」に乗って、休みができたら気ままなクルマ旅に出かけているもりこさん。その日の天気と気分次第で、静岡県内の近場を楽しんだり、山梨県や長野県まで少し足を伸ばしたり。計画の要らないひとり旅ならではのゆるさがお気に入りです。

父の愛車がHondaだった影響で、クルマ選びは「Honda一択」。初代の愛車「N-ONE」から、大好きなキャンプをより充実させようとたくさん荷物を載せられる「N-VAN」に買い替えました。エンジンが運転席の前に搭載され、「後部座席がフルフラットになるように設計されているところ」も購入のポイントだったそう。「使い勝手の良さを追求している、Hondaのクルマづくりの姿勢にも惹かれた」と、熱いHonda愛を語ります。

しばらくは簡易的な車中泊でキャンプを楽しんでいましたが、道中の様子を配信したYouTubeチャンネルが思いのほか多くの人に見られたことから、「せっかくならば自分のお気に入り空間にカスタムして、視聴者の皆さんにも見てもらいたい」と思うようになったそう。
カスタムのコンセプトづくりでは、ある木箱との出合いが大きなきっかけになったと話します。
「大好きなコーヒー豆屋さんに立ち寄ったとき、豆を運ぶための木箱が売られていたんです。木目のあたたかい色合いとコーヒーカップの絵柄、高さや大きさ、丈夫さなどすべてが理想的で、『これをN-VANに載せたらすごくかわいいはず。収納できるテーブルとして最高なのでは!』とピンときました」

こうして木箱を中心に、木箱に合うようにと内装の色をそろえたことで“木のぬくもりが感じられる車内”というコンセプトに自然となっていったといいます。

木箱の中には、ランタン、本、ラジオスピーカー、お気に入りのスパイスボックスなどが入っており、旅に出るときは木箱ごとN-VANに載せていくのだそう。道中はコンテナとして機能し、目的地に到着すればテーブルに早変わり。その上にアイテムを並べれば、もりこさんこだわりの空間が広がります。

テーブルセットが完成すれば、ラジオスピーカーから音楽を流してほっと一息。もりこさんの自然の中でのリラックスタイムが始まります。

ベッド台はL字型。土間を作ったことが、快適性のポイント
カスタムで一番大変だったのはベッドづくりだったそう。助手席を倒した高さに合わせて、イレクターパイプ(ジョイントとパイプの組み合わせにより、さまざまな形を作れる組み立て素材)でベッド台を作り、その上に板を設置。板の色は木箱に合わせてワックスを塗って仕上げました。

「ベッドサイズを何度も測り、ホームセンターで板をカットしてもらいました。こだわったのは、靴を脱いで上がれるように“土間”を作ったこと。雨や雪のときに土間がないと、車内に上がるときに不便だと思ったからです」

ニトリで購入した「畳マット」を3枚敷けば、助手席まで足をゆったり伸ばせるベッド空間が完成。就寝時は寝袋を使いますが、日中にちょっと横になりたいときは畳マットにそのままゴロゴロ。枕代わりのぬいぐるみ「ワニくん」があれば心地よく過ごせます。


もう一つのこだわりが、後部座席を上げて4人乗りとしても使えるように、ベッドはすぐに解体できる作りにしたことです。



DIYのしやすさを計算して作られた「N-VAN」の車内設計
後部の壁に設置したのはパンチングボードです。パンチングボードは、等間隔に穴の開いた薄い板。フックを取り付ければ簡単に物をかけられる、便利なアイテムです。
<お気に入りの手ぬぐいや木箱から取り出したランタンをかけるほか、車内で映画鑑賞する際のタブレット置きにもなっています。


「N-VANの素晴らしいところは、DIYしやすいように、あらかじめ穴が開いているところです。なので、パンチングボードを壁に設置するときも車両自体に穴を開ける必要がありません。DIY初心者にとってものすごく親切な作りで、使い手にとことん寄り添おうという思いが感じられますよね」
車両に直接、強力なマグネットフックを付ければ、カーテンレール代わりの紐を張ることもできます。紐はアウトドアに使う高耐荷重のパラコード(パラシュートコード)を使い、マグネットフックに引っかけています。

運転席やサイドのカーテンは、無印良品のボックスシーツをカットして使用しています。N-VAN車内の壁とカーテンを面ファスナーで貼り付けるだけの“時短アイテム”で、十分な日よけと防犯上の目隠しになっています。

「ミシンで縫う作業も大変そうだな……と、とにかく簡単にできる方法を模索しました。N-VANの車内を見渡していると、『ここなら面ファスナーがくっ付く』『ここならマグネットが使える』と、いろんなアイデアが引き出されていくんです」


総額5万円。カスタム作業も徹底して省エネにこだわった
天井部分に作った収納スペースは、「木に囲まれた空間を作りたいけれど、N-VAN車内の武骨な雰囲気を残したい」という思いが反映されています。
「天井すべてを木材で作るのは私には無理そうだったので、収納部分だけ棚を作ることにしました。使ったのは、ベッド台と同じイレクターパイプと板。他の人のカスタム動画を研究して、収納板の強度を高めるために固定板を付けるなど、できる限り工夫してみました」

手軽に安価に、DIY初心者でもできる“最小限のカスタム”にこだわったと話すもりこさん。かかった費用は5万円ほどというから驚きです。 日帰り~1泊2日の旅がほとんどなので、持っていく荷物も最小限にしているそう。ただ、自然の中でのんびり贅沢な時間を過ごすために欠かせないアイテムもあります。 その一つが、コーヒーセット。コーヒーミルは手挽きで手間がかかりますが、豆をゴリゴリと挽いているときが、「人生の中でもっとも幸せを感じる時間の一つ」と話します。


「カスタムというには恐縮なほど。でも、お金も時間も、DIYの技術や経験も何にもなかった私にもできた。読者の皆さんに『これだったら自分にもできるかも!』と思ってもらえたらうれしいです」 カーテンの面ファスナーやマグネットクリップなど、「どうしたら簡単にDIYできるか」が考え抜かれた細部の工夫やアイデアの数々。それこそが、もりこさんにしかできないカスタムなのかもしれません。大がかりなカスタムじゃなくても、自分だけの空間が作れる。たくさんのヒントをもらった取材の1日になりました。
文/田中 瑠子
写真/やまひらく
編集/くらしさ(TAC企画)
撮影協力/富士オートキャンプ場ふもと村