地震や台風、大雨、豪雪など自然災害が多い日本。トラブルは思わぬタイミングでやってきます。クルマの乗車中に災害にあったとき、どうすればよいのでしょうか?
自宅に防災グッズを備蓄するのはよく聞く話ですが、正直、クルマにまで防災グッズを常備するなんて考えたことはありません…。どんな状況を想定して、どんなものが必要なのでしょうか?
そんな疑問を解消すべく、防災のプロである防災士・危機管理アドバイザー和田隆昌さんにお話をうかがいました。
目次
- 防災士・危機管理アドバイザー 和田隆昌さん
- 元アウトドア雑誌の編集長。豊富な知識を活かした災害リスクの専門家。オールアバウト防災・自然災害対策ガイド。屋外でのサバイバル方法やSNSの災害時利用法などリアルな防災対策を行なう。自治体の災害対策マニュアルの作成やセミナーの開催も。
【防災のプロがチェック】12アイテムが箱に入った車載用「防災安心セット」
今回、防災のプロ、和田さんに厳しくチェックしてもらうのは「防災安心セット」と「スマートレスキュー」です!
どちらも、Hondaのクルマの純正アクセサリー(オプション)を扱うホンダアクセスから販売されているものです。
まずは「防災安心セット」から。こちらはクルマに常備しておけば、車内で長時間過ごさなければいけなくなったときにも安心な、厳選された12アイテムが入っているとのこと。具体的にどんなものが入っているのか、それらはどういうシーンで役に立つのか、1つずつ見ていきましょう。和田さん、よろしくお願いいたします!
さっそく、1人用の箱を開けてみると…。小さな箱にこんなに入っていたのかと驚くほど、ぎゅうぎゅうにグッズが詰まっています。2人用、3人用にはそれぞれ人数分が入っているようです。
手袋やホイッスル、クッキーにマスクやポンチョまで。いったいどういうシーンで役立つのか、災害未経験者だとまったく用途がわかりません。
そこでわかりやすいよう、用途別に和田さんにざっくり分類してもらいました。
- 快適アイテム
- 危険から身を守るアイテム
- 知らせるアイテム
ではそれぞれ見ていきましょう!
【快適アイテム】クルマの中で長時間過ごすときに、確実に欲しくなる衛生グッズ
クルマの中で長い時間を過ごすとき、どうしても我慢できないのが生理現象です。衛生用品と食料で、最低限の「快適」をキープ!
① 7年保存水
99.9%不純物を取り除いた純水。未開封で賞味期限は7年、耐温度域は-20~80℃。「飲む、傷口を洗うなど、水は必須アイテム。500mlが1本入っていましたが、それだと心もとないので1人2本は常備しておきたいですね。この水は耐温度域が広いので、エンジンをきったあとの温度変化の激しい車中にも置きっぱなしできるのが◎」
② 7年保存クッキー
風味豊かなチーズ味のクッキー。未開封で賞味期限は7年、耐温度域は-20~80℃。「味も悪くないし、気軽にさくっと食べられるのがいい。美味しいものや甘いものが少しあるだけでも、災害時のストレスやしんどい気持ちを和らげてくれます」
③ ハンディトイレ(小便用)×2袋
約700mℓの尿をゼリー状に固め、逆止弁と吸水ポリマーが尿の逆流と臭いを防ぐ使い捨てトイレ。「クルマから離れて避難所に向かったとしても、水洗トイレは使えないと思った方がいい。だから、携帯用トイレは多めにストックしておきたい必須アイテムです」
④ ポンチョdeトイレ(大小便兼用)
密着チャックで臭い漏れを防ぎ、水分をゼリー状に固める使い捨てトイレ。器状に自立するポーチ型トイレで、目隠し用ポンチョとティッシュ付き。「とても優秀なトイレグッズですね! クルマから離れて用を足すときにも、クルマの後ろのシートでも使えます。災害時だけではなく、高速道路の渋滞でトイレに行けないときにも役立ちそう」
⑤ ポケットティッシュ
8枚入りの水に溶けるティッシュ。「水に溶けるとトイレでも使えるので便利ですね。ほかにウエットティッシュがあると、断水で手が洗えないときも重宝するので、これにプラスして備えておくといいでしょう」
【危険から身を守るアイテム】車外の作業や一次避難のときに、あると心強いリスク回避グッズ
続いてグローブやマスクなど、危険から体をガードする道具をチェックします。
⑥ 防じんマスク
粒子捕集効率95%以上の防じんマスクで、PM2.5やウイルスなどの吸入リスクを回避。「地震で建物が倒壊すると、想像以上に粉じんが飛び散り、有害物質を吸い込んでしまう危険性があります。防災セットに入っているマスクは簡易的なものが多いのですが、これは高機能なマスクを手がける3M社製。かなり優秀で安心感がありますね。口や鼻をしっかりガードでき、フィット感も抜群!」
⑦ あんしんグローブ
指先や手のひら部分は摩耗に強い人口皮革を使ったグローブで、夜間でも見つけやすい反射板付き。ベースは蒸れにくいメッシュ素材で、手に優しくフィット。「タイヤ交換などの車外での作業やがれきの中を歩いて避難するときに役立ちそう」
⑧ 常備用カイロ
未開封で3~5年と長期保存できる、貼らないタイプのカイロ。「冬場の車外での作業や、豪雪で車に閉じ込められたときなど、あると安心。長期保存できるタイプですが、カイロは普段でも使うアイテムなので、私は使ったら買い足す(=ローリングストック)ようにしています」
⑨ 3WAYポンチョ
防寒対策、レインウェア、着替えやトイレの目隠しにも利用できるポンチョ。反射テープ付きで夜間でも安心。「かさかさ音のしない静音タイプなので、毛布として使ってもうるさくない。傘と違って両手が自由に使えるポンチョは、悪天候の災害時にも重宝します」
【知らせるアイテム】気づいてもらう、伝えるなど、あると便利なグッズ
誰かにメッセージを残したい、自分がここにいることに気づいて欲しいなど、メッセージを発するアイテムがこちら。
⑩ 災害時伝言カード&筆記用具
クルマを離れるとき、氏名や連絡先を記入してダッシュボードなど見える場所に置いて使用。この筆記用具(正式名ダーマトグラフ)はフロントガラスにも文字が書け、雨に塗れても消えにくいペンのこと。「カードは被災地で使われているのを見たことはありませんが、家族や知人だけではなく、“クルマを動かしてOK”など避難所に集まる人へのメッセージにも使えそう。筆記用具はあると便利です。クルマから離れて避難所に行くことになっても重宝します」
⑪ 緊急用ホイッスル
人の耳に最も聞こえやすい3,000Hz付近の音が出せるホイッスル。弱く吹いても高い音が出る。「がれきに埋もれたときなど、救助隊にいる場所を知らせるために使います。クルマの場合はトンネルの崩落とかが考えられますね」
⑫ あんしんペンライト
軽く折り曲げるだけで光る、電池不要の簡易ライト。防じん・防水構造で、強風や豪雨、水中でも使用できる。「光度はあまり強くないものの、クルマのフロントに置くだけでも安心するし、誰かに気づいてもらうこともできます。ちゃんとした懐中電灯かヘッドランプが欲しいところですが、サブの灯りとして活躍しそう」
コンパクトに収納できる工夫もあり。クルマから離れるときも持ち歩ける
「防災安心セット」の1人用は、H24×W21.5×D9cmとA4サイズに収まるコンパクトさ。トランクに置いても箱が倒れたり動いたりしないように、箱の底と車のトランクに貼れる面ファスナー(写真右手前)がついています。防災グッズが入れられるコットン製のバッグがついているので、クルマから離れて行動するときも便利です。
全部のアイテムをチェックし終わった和田さん。このセット、ずばり役に立ちますか?
【防災のプロがチェック】車体の水没から身を救う「スマートレスキュー」
続いてチェックするのはこちらの「スマートレスキュー」という商品。ホルダーに収納されているのは、赤いハンドルの先にドライバーのような金属が突き出た手のひらサイズの小さな棒。これは一体、何に使うのでしょうか?
どうやら和田さんが実際のクルマを使って説明してくれるようで…
…た、大変です! 和田さんが乗ったクルマがどんどん水没していきます!!
ふだんは運転席からすぐ手が届く、運転席側のグラブレールに装着。水没した和田さん、スマートレスキューをさっと取り出すと…
まずはシートベルトをカット。赤い部分はハンドルではなく、ベルトカッターでした。
「水没してあせっているとき、シートベルトが外せない!ってあわててしまう人が多いんです。シートベルトが故障してしまうこともありますしね」
シートベルトから自由の身になった和田さん。すかさず、スマートレスキューの先端をフロントガラスに押し当て、左手でぐっと力を入れると…
一瞬のうちにガラスにヒビが入り、パンっと割れる仕組みになっています(上写真の出典は動画から)。詳しい様子はこちらの動画(42秒)をチェック!
金属棒の先端には、金属を削れるほど硬い“超硬チップ”が付いているので、簡単にガラスが割れるという仕組み。
スマートレスキューを使えば力の弱い女性でも簡単にドアガラスが割れ、無事にクルマから脱出することができます。ポイントはドアガラスの端を狙うこと。ガラスが枠で固定されている端の部分は、中央部分よりもハリがあるため割れやすくなっているそうです。なお、フロントウインドウガラスは特殊なガラスなので、スマートレスキューを使っても割れません。
【まとめ】災害が起きる前に、道具も知識も備えておくことが大事
防災に必要なのは「非常食や懐中電灯?」と一般的なことは思いつくけれど、和田さんの話をうかがっていて印象的だったのは「衛生グッズ」の重要性でした。携帯トイレやウェットティッシュ、オーラルケアやマスクなど、体を清潔に保って病気やケガから身を守ることも大事なんだと気づかされました。
自然災害や事故は突然起きるもの。災害が起きてから慌てて準備しても、間に合いません。必要なのは正しい知識と、何が自分に必要なのかを考えて道具を選ぶこと。クルマに乗ることが多い人こそ、外出先や車中でのトラブルを想定して、リスクを回避できるアイテムを備えたいですね。
取材・文/嶺月 香里
撮影/矢野 宗利
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