大好きなクルマを「手にのるサイズ」で楽しめるのが、自動車模型(カープラモデル)の世界。
クルマ好きが高じてモデラー(プラモデルを制作するプロおよびアマチュア)になる人も多く、カープラモデル(以下、カープラモ)制作においては「いかに本物のクルマそっくりに仕上げるか」が腕の見せどころだといいます。
そんななか、一風変わった作品を発表しているのがSHINGAさん。
えっ、二次元? それとも三次元??
実はこれ、マンガ風の塗装で仕上げられたカープラモなんです。正真正銘、立体物ですが、どうしても二次元の絵に見えてしまう……。
だまし絵を見ているような、なんとも不思議なこのプラモ。一体どうやって作られているのでしょうか。
今回はSHINGAさんの仕事場を訪問して、マンガ風塗装のカープラモを徹底取材しました! さらにSHINGAさんが制作した、夏休みの工作にぴったりのペーパークラフトをご紹介します!
目次
- SHINGA(しんが)さん
- 1976年、千葉県生まれ。無類のクルマ好きで、これまで乗ってきたクルマは合計26台。2018年にTwitterで公開したマンガ風塗装のカープラモのほか、軽自動車好きの女性を主人公にしたマンガ『Kどら!』、クルマのペーパークラフトなど、さまざまなジャンルの作品を発表している。本職は遊技機や玩具、雑貨などのデザイナーで、デザイン事務所「SS DESIGN WORKS」代表。
Twitter @matin19761
ブログ SHINGA CRAFT
YouTube SHINGA CRAFT
『頭文字D』の世界をカープラモデルで再現
SHINGAさんの仕事場にお邪魔しました。本棚にはカープラモと一緒に、しげの秀一先生のマンガ『頭文字D』(講談社)が並んでいます。峠道での走り屋をテーマにした人気作品ですね!
SHINGA:ご覧のとおり、もともとぼくのマンガ風塗装は『頭文字D』の世界観からアイデアを得たもの。2年ほど前、「1/24スケール 頭文字Dシリーズ」(フジミ模型)のプラモを眺めていたときに、「これをマンガっぽく塗ってみたら面白いかも?」と思いついたんです。ちょうどガンプラ(ガンダムのプラモデル)を二次元風に塗装する「アニメ塗り」みたいな感じで。
さっそく作ってTwitterに投稿したら、大きな反響がありました。すぐに2台目にとりかかり、それからも制作を続けて、今までに完成したのは20台くらいです。
しげの先生風頭文字Dプラモデル完成! pic.twitter.com/HL1NF5TmZp
— SHINGA (@matin19761) 2018年3月8日
SHINGA:最初の頃は作ったものをネットオークションに出していました。でもそのうち愛着が湧いてきて、単に売ってお金にするより、もっと有効な使い方をしたいと思って。最近はTwitterのフォロワーを対象に、ときどきプレゼントキャンペーンをしてファンの方に差し上げています。
近くで見ると、まさにマンガのような塗り方ですね。
SHINGA:「素材は紙ですか?」とよく質問されますが、もとは普通のプラモデルなので、プラスチック(合成樹脂)です。
ただ、『頭文字D』を厳密に再現しているかというと、そうではないんです。ぼくなりのアレンジで、あえて影やハイライトを誇張したり、粗っぽい塗り方をしたりして、写真に撮ったときに「それっぽく」見えるように工夫しています。劇画タッチという感じかな。
カーチェイスのド迫力を生み出すジオラマセット
ジオラマセットの中にカープラモを置くと、本当にマンガの1シーンのように錯覚してしまいます。どうやって作られているのですか?
SHINGA:基本的には、手描きの背景画をパネルに貼っているだけ。これはごくシンプルなジオラマですが、ポイントは2つあります。
まずは「陰影」です。物体に光が当たると、光の当たらない部分=陰(シェード)と、地面に落ちる影(シャドウ)ができますが、プラモ自体から出る本当の影が目立たないようにして、ジオラマの地面に描いたマンガ風の影のみを見せるようにする。そうすれば人間の目は「これは立体ではない」と認識します。錯視のトリックです。
SHINGA:2つ目は「躍動感」。道路や背景のどこにどういう線を引けば、止まっているプラモが疾走しているように見えるのか、リアリティのある躍動感が出せるか。これが一番難しいところですね。
SHINGA:あとは「スキール音」といわれるタイヤと路面が強くこすれるときの摩擦音や、ターボ車のエンジンが空気を吐き出すときのブローオフバルブの音など、効果音の文字を切り取って画面の中に置いてあげると、よりマンガっぽい臨場感が出ます。
SHINGA:『頭文字D』でもおなじみの「峠道」のジオラマセットは、これで3代目です。どういう描き方をすれば、より臨場感が出せるのか、試行錯誤しています。
SHINGA:マンガ風の表現を追求する一方で、ぼくが大切にしているのは「完璧な二次元に見せなくてもいい」ということ。
たとえばほんの少しだけ、車体の本当の影が残っていたとします。平面的なマンガの影があるのと同時に、リアルの立体的な影も見える。すると見た人はどことなく違和感を覚えて、これが二次元なのか、三次元なのか、区別がつかなくなる。
そこに奇妙な面白さがあるんですよね。Twitterのフォロワーの方にはよく「脳みそがバグる〜」って言われます(笑)。
気になるマンガ風塗装のプロセスを大公開!
こちらはSHINGAさんが普段、制作されている作業机ですが、どんな風にマンガ風塗装をするのか教えてください!
SHINGA:まずは、普通のプラモ作りと同じで、キットに入っているパーツを組み立てるところから始まります。ちょうど机に置いてあるのが、組み上がった状態のハチロク(スプリンタートレノ AE86型)。『頭文字D』の主人公である藤原 拓海の愛車ですね。
次に塗装です。マンガ風だからといって特別な道具ではなくて、使っているのは塗料も道具も一般的なプラモデル用です。
SHINGA:これは「サーフェイサー」と呼ばれる下地塗料。最初にベースの色をスプレーで吹きかけます。今は仮で置いていますが、本当はタイヤなどを全部外して、ボディ部分のみに色をつけます。塗料が部屋に飛び散らないように、段ボールの仕切りで囲っています。
SHINGA:あとはひらすら筆で塗っていきます。この黄色いのはミニカーですが、プラモよりサイズが小さいぶん、細かい部分を塗るのが難しいです。
SHINGA:こうやって樹脂塗料を何色か混ぜ合わせて、好みの色を作っていきます。
SHINGA:「色を塗る」というより「陰影をつけていく」イメージです。まず一番濃い色になる陰の部分から色をのせて、それが乾いたら次の色。暗いほうから明るいほうへと段階的に色を足していきます。
SHINGA:多少オーバーに、がんがん塗っていくのがポイントです。昔はきちっとアニメ塗りをしていたんですが、ある程度は雑に塗ったほうが、写真ではマンガっぽく映ることがわかりました。
SHINGA:さらに、白でハイライトを入れます。ちなみに、窓ガラスに映り込むハイライトは、毎回微妙に線の方向を変えています。どうすれば一番「駆け抜けてる」が出るのか、今も研究中なんです。
SHINGA:最後に、ガンダムマーカーというペンタイプの塗料で黒いラインを入れていきます。名前の通り、ガンプラの塗装をするために生まれたアイテムで、絶妙な書き心地なんです。これが最も繊細な作業で、緊張しますね。
SHINGA:最後に、つや消しスプレーをかければ、光沢がなくなって全体的にマットな質感に。「紙でできてるみたい」と言われる、マンガ風プラモの完成です。
細部までこだわりが詰まったS660 Modulo Xのプラモ
ホンダの純正コンプリートカー「S660 Modulo X」もありますね! マンガから抜け出してきたような不思議な存在感と精密な再現に驚きました!
SHINGA:完成したばかりの新作です。S660 はプロモがなくて、S660のラジコンカーの中身を抜いて作りました。だから他のプラモとは少しスケールが違います。
S660を自力で S660 Modulo X に改造したんですが、この作業がもう、めちゃくちゃ大変でした(笑)。
これが、こーなって、あーなって、こーなっていくぅ! pic.twitter.com/DmZzXbi7Md
— SHINGA (@matin19761) 2020年6月12日
具体的には、どんなカスタムを施されたのですか?
SHINGA:たとえばフロントバンパーは、Modulo Xのデザインを再現するために、造形用パテを少しずつ盛り、硬化させては削る作業を地道に繰り返して成型しました。他にも、もとはオープンカーだった車体に屋根を作ったり、プラ板を切ってガラス窓を作ったり。
細かい部分だと、タイヤがフェンダーからはみ出ていた部分を修正してツライチ(一直線に見える状態)にしたり、車高を低めに調整したり。またタイヤの舵角(だかく)の角度を深く切れるようにするために、内部の駆動パーツを加工したりもしましたね。
そんな細かいところまで!
SHINGA:でもね、ちゃんとやらないとTwitterで作品を公開したとき、フォロワーの皆さんから怒られるんですよ。「タイヤがはみ出てたら車検通らないぞ!」とか「この舵角だとカーブ曲がりきれないよ〜」とか、指摘がすごく細かい(笑)。
SHINGA:ぼくの作品を見てくれる人はみんなクルマが大好きだから、ぼくとしても「よしよし、コイツはわかってるな」と思ってもらえるものを作りたい。
おかげで今回のS660 Modulo X の制作には、まる1週間かかりました。いつものプラモよりだいぶ苦労しましたが、仕上がりには満足です!
クルマは人生を豊かにする「夢の箱」
SHINGAさんのカープラモ作りへの情熱は、どこから来るのでしょう?
SHINGA:クルマ好きになったきっかけは高3のとき、ガソリンスタンドでアルバイトしたことです。友人に誘われて働き始めたそのスタンドは、「カスタムカーが集まる場所」として、地元ではちょっとした有名店でした。
自分の好きなクルマを持って、好きなようにカスタムして、自由に乗りまくる。周りはそんな人たちばかりだったので、ぼくも当然そうなりたいと憧れました。20歳になって初めてのクルマを手に入れると、仲間と一緒に毎晩ドライブに出かけるようになって。そのうちサーキットへレースを見に通うようになって、知り合いの輪がどんどん広がっていきました。
現在はどんなクルマの楽しみ方をされていますか?
SHINGA:ぼくはとにかく「いろんなクルマに乗ってみたい!」というタイプ。気になるクルマを手に入れて、徹底的に遊んだら、また新しく乗り換えて。それを繰り返していたら、今のクルマが人生で26台目なんです(笑)。走る用とカスタム用で、同時に複数台所有することも。
最近のお気に入りは、軽量コンパクトでパワフルなクルマですね! 数年前からクルマ仲間とキャンプに行ったり車中泊の旅に出かけるようになったので、荷物をたくさん積めて、フルフラットで足を伸ばして寝られるクルマがいい。一人でクルマ旅もよくしますよ。つい先日も、広島から四国各地を車中泊しながら巡りました。
クルマのある暮らしを、本当にいろんな形で楽しんでいますね!
SHINGA:ぼくにとってクルマは夢の箱、夢がぎっしり詰まった箱ですね。どこへでも連れて行ってくれるし、ときには新しい出会いを運んでくれる。カスタムで自分らしさを追い求めることもできる。いろんな方向性の楽しみ方があって、まさしく人生を豊かにしてくれるものです。
Twitterで作品公開を続けているのは、「次の誰かのきっかけになりたい」という思いもあるんです。ぼくがマンガ風プラモの写真を投稿すると、フォロワーの子から「このクルマに乗るキャラクターを考えてみました!」とリプライをもらったりします。
ぼくの作品がきっかけで、新たにクルマに興味を持ってくれる人がいたなら、それは最高にうれしいですね。
【おまけ】 S660 Modulo X のペーパークラフトを作ろう!
最後に、SHINGAさんオリジナルのペーパークラフトについて教えてください。
SHINGA:実在のクルマをモチーフにしたペーパークラフトです。昨年(2019年)からこのシリーズを作り始めて、ぼくの個人ブログ「SHINGA CRAFT 」で公開しています。データは誰でも無料でダウンロード可能です。
SHINGA:こだわったのは「作りやすさ」と「見た目」のバランス。ものすごく精密なペーパークラフトも世の中にありますが、カッコよくても、作るのが難しすぎたら途中でイヤになってしまう。ぼく自身、今まで一度も最後まで作りきれたことがなかった(笑)。
それで自分で作ってみました。何十個と試作品を作りながら、「説明書がなくても作れるくらいのシンプルさ」と「最低限、何のクルマかパッと見てわかるくらいのリアルさ」が両立するラインを探っています。
SHINGA:だから、作り方はいたって簡単です。
- 準備するもの
-
- コピー用紙
- 厚紙
- スプレーのり
- カッター
- カッティングマット
- 木工用ボンド(または両面テープ)
まずはダウンロードしたデータをコピー用紙に印刷してください。紙のサイズはA4が基本ですが、小さなお子さんと一緒に作るのであれば、B4かA3に拡大コピーするとさらに作りやすくなります。
SHINGA:コピー用紙だけだと薄すぎるので、これを厚紙に貼り付けます。スプレーのりを使って、しっかりと接着するように。スティックのりは均一に貼れないのでNGです。スプレーのりをうまく使えない場合、「シール用紙」に印刷して貼り付けるのが簡単です。
SHINGA:外線に沿って、厚紙ごとカッターで切り抜いていきます。まず大きく切って、次に細かいところを少しずつ。大きい部分はハサミを併用してもOKです。
SHINGA:これがボディを切り抜いた状態です。のりしろの部分は切りすぎてもセロテープを使えばいいので、あまり気にせず、ざくざく切っていきましょう。
SHINGA:線の部分を折って立体的な形を作ります。ペーパークラフトによくある「山折り」と「谷折り」の区別はないのですが、何しろクルマは四角くてシンプルなので、迷わず折っていけると思います。
SHINGA:ほら、できた。のりしろでくっつけたらボディの完成です。木工用ボンドや両面テープなど、粘着力の強いものを使うのがおすすめです。
SHINGA:次は、タイヤとカスタムパーツです。
SHINGA:たとえばこれ。ボンネットをカーボン風にするパーツで、実際のS660でも人気のカスタムなんです。ペーパークラフトでもカスタムパーツで自分の好きな仕様にして遊んでください。
SHINGA:HondaのN-BOXのペーパークラフトも作りました。このカッコかわいいバランスを見つけるのに苦労しました(笑)。これからもどんどん車種を増やして、ブログで順次公開していく予定です。
ペーパークラフトのダウンロードはこちら↓↓↓
▼【SHINGA CRAFT】S660 Modulo X の自作ペーパークラフトを作ってみた
取材・文/小村 トリコ
写真/木村 琢也
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