バンライフの始め方。5組のバンライフ実践者が語るきっかけ

軽バンで車中泊バンライフするあかねさんとはやとさん、お互いに見つめ合って笑顔で

目次

 

バンライフとは?

「バンライフ(VANLIFE)」という言葉から、多くの人が車中泊を連想するかもしれません。しかし、クルマで寝泊まりを行う「車中泊」に対して、「バンライフ」は家事から仕事まで、生活そのものをクルマを中心にして行うライフスタイルを指しています。

バンライフは車中泊で一夜を過ごす以上に、好きな場所で暮らす、ということに魅力があります。また軽トラックやバン、軽バンを改装し、クルマで生活することを前提にするため、内装のカスタムも必須。DIYを楽しめる方にとってはまさに自由自在に好きな空間を作って、好きな場所で暮らすことを実現することができます。

ベッドの上で読書にふけるヘンミさん

自分らしいスタイルにカスタムするのも醍醐味の1つ
  • 車中泊はクルマで寝泊まりをする
  • バンライフは好きな場所で暮らすことに重きを置く

「バンライフ」という言葉が注目されたきっかけを作ったのは、ファッションブランド・ラルフローレンのデザイナーを務めたフォスター・ハンティントン。2011年からキャンピングカーで生活を始めた彼は、その姿をSNSで投稿する際に「#VANLIFE」というハッシュタグを使用し、それが多くの人の目にとまりました。

荷物の運搬を行う自動車の「VAN」と、生活を意味する「LIFE」を組み合わせて生まれたこの「バンライフ」という言葉。アウトドア業界や車中泊をする人を中心に徐々に広まってきており、バンライフを楽しむ人たちのことを指して「バンライファー」という言葉も生まれました。

バンライファーが集まるフェス「VANTERTAINMENT FES vol.0(バンタメフェス)」が2020年から開催され、昨年2023年には第2回が開催され、盛り上がりを見せています。

「VANTERTAINMENT FES vol.0」(バンタメ)のイベント会場で見かけたクルマとイベントの様子1
「VANTERTAINMENT FES vol.0」(バンタメ)のイベント会場で見かけたクルマとイベントの様子2
「VANTERTAINMENT FES vol.0」(バンタメ)のイベント会場で見かけたクルマとイベントの様子3
「VANTERTAINMENT FES vol.0」(バンタメ)のイベント会場で見かけたクルマとイベントの様子4
バンタメフェスの様子

 

<「バンタメフェス」に参加! バンライフのプロたちの様子を取材しました>

 

バンライファーに学ぶ愛車中心のライフスタイル

今回はバンライフ実践者であるバンライファーに取材をした記事から、5組の方々にお聞きした、「バンライフを始めたきっかけや魅力」をまとめてご紹介します。バンライフを始めたいけれどきっかけをつかみきれないでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

 

360日バンライフ! ヘンミマオさん

コーヒーを片手に笑顔のヘンミさん

ヘンミマオさんは、年間360日クルマ中心で生活をするバンライフの達人です。秩父、東京、そしてクルマという3箇所を拠点に、アウトドアフリーランスとして活動しています。

バンライフを始めたきっかけは、レンタルキャンピングカーでの北海道旅行。それまでテント泊が多かったヘンミさんですが、鉄に包まれて眠ることの安心感に感動を覚えたと言います。

もともと大手リユースショップに勤めていましたが、コロナ禍で自身の店が休業になったのを機に、本格的にバンライフにのめり込んでいきます。注目すべきは、おしゃれにDIYされた愛車「ヘンミ号」の内外装。もともと自身で家具を手作りした経験もあり、中古のマツダ「ボンゴ」を車中泊仕様にアップデート。そのセンスはカタログやCMの撮影にも採用されるほどです。

現在はバンライフの魅力を伝えるべく、車中泊のアドバイスなどを行う活動をされています。

 

<ヘンミマオさんの愛車DIYの極意>

 

「バンライフ社長」宮本 メイさん

キャラバンの中でノートPCを広げて仕事をする宮本さん

高校生のとき、SNSを通じて海外のバンライフに憧れを抱いたという宮本 メイさん。

大学時代、中国留学中に新型コロナウイルスが猛威をふるい始めたため、帰国を余儀なくされました。帰国後、オンライン授業で部屋に閉じこもる生活に疲れ、旅をしながら授業を受けられるバンライフを開始します。

そんな宮本さんが大学生当時、旅のコンセプトにしたのは「バンライフ×大学生」。日産の「キャラバン」を北欧風のデザインに改装し、バンのなかで学習ができるようバッテリー環境も充実させました。また友人たちと飲み会も開けるような空間になっています。

現在はキャンピングカーデザイン会社を起業し、「バンライフ社長」として好きな場所で仕事と旅を両立。国内のさまざまなエリアを訪れ、その土地のアンバサダーになったつもりで情報を発信しています。

 

<インテリアにこだわるDIY「キャラバン」>

 

70年代アメリカをイメージ。YURIEさん

愛車のバン「サンシー号」でキャンプを楽しむYURIEさん

Instagramでバンライフを発信するYURIEさん。アウトドアを始めたきっかけは、2014年頃、キャンプ好きな会社の先輩の存在でした。自分でもやってみたところ、その楽しさにすっかり魅了されたと言います。

その後、自身のクルマを購入してバンライフを始めた理由は2つ。1つはキャンプギアが増えて荷物がかさばり、クルマが必要になったこと。もう1つは、Instagramでアウトドア関連の仕事が増え、忙しくなったことです。

「アウトドア関連の情報を発信する仕事をしながら、いろいろな場所を訪れて遊びたい」。そんな思いを抱えたYURIEさんは、仕事も遊びも思いきり楽しむためにバンライフを選択しました。

日産「バネット S21 型」を改装した愛車は「サンシー号」。名前の由来は、パートナーが「自然が好きだから、太陽(Sun)と海(Sea)で、サンシーにしよう」との提案から。70年代アメリカをイメージして生まれたバンは、自分たちだけの「秘密基地」のような空間。そこには、YURIEさんらしさがぎゅっと詰まっています。

 

<キャンプから始まったYURIEさんのバンライフ>

 

バンで日本一周を目指す。あかねさん&はやとさん

軽バンで車中泊バンライフするあかねさんとはやとさん、車内に座って、ドーナツを手に笑顔で

あかねさん&はやとさんは、旅の様子を発信するYouTubeチャンネル「軽バン生活」が人気のお2人です。

バンライフを始めたきっかけは、もともと予定していたフランス留学がコロナ禍で叶わなくなったこと。留学後に行う予定だった「日本一周の旅」に出ることを決意しました。

2020年6月にマツダの「スクラムワゴン」を購入し、3カ月かけてDIYで車中泊仕様にカスタム。DIYのコンセプトは、クルマというより「いかに家を作るか」。ログハウスのように木の温もりのある家を目指し、使用する木材にもこだわったそうです。

もうひとつのこだわりはキッチン。キッチンを備え付けた軽バンは珍しく、ユニークなつくりのバンになっています。

そんな2人が配信する「軽バン生活」は、現在(2024年3月時点)で登録者数33万人を超える人気チャンネルに成長。車中泊のリアルさや美しい景色、2人の仲睦まじい姿が多くのファンを魅了しています。

 

<狭い空間ながらまるで家のよう。「軽バン生活」さんの「スクラムワゴン」>

 

「旅するリビング」というコンセプトに。浅郷 剛志さん

浅郷さん一家がダイハツハイゼットカーゴでピクニックを楽しんでいる様子

「旅するリビング」というコンセプトを実現した浅郷さんのバン

1895年創業の老舗刃物メーカー「神沢鉄工株式会社」でブランドマネージャーを務める浅郷 剛志さん。幼い頃から工作好きだった浅郷さんは、趣味で制作した家具をInstagramで紹介していました。

そんな浅郷さんがバンライフを開始したきっかけは、同僚のキャンピングカー生活。情報感度の高い彼は、タカラ塗料を使ったセルフペイントに興味を持ち、DIY好きが高じてダイハツ「ハイゼット カーゴ」をパンプキンスープ色に塗装しました。2020年、車中泊YouTuber DOCUMENTさんとの出会いが、バンライフへの興味に拍車をかけます。

インドア派の家族と過ごす時間を作りながら、アウトドアを楽しみたい。そうした思いから、車内を部屋と捉え、そのまま外に持ち出せる「旅するリビング」というコンセプトが誕生しました。

こうして、浅郷さんの創意工夫と愛情が注ぎ込まれた、世界に1つだけの旅するリビングが完成。現在は家族で日中ピクニックに出かけたり、長女と2人で車中泊を楽しんだりしています。

 

<「FEDECA」ブランドマネージャー浅郷さんのバンライフ!>

 

バンライフのはじめかた

浅郷さんがダイハツハイゼットカーゴの後部座席を折りたたんで収納している様子

浅郷さんこだわりの床システム。持ち上げることで後部座席をスムーズに出し入れできる

バンライフを始める理由は人それぞれです。海外のSNS投稿に憧れる人、知人・友人のアウトドア趣味に影響を受ける人など、さまざまなきっかけがあります。

近年特に目立つのが、コロナ禍の影響です。家の中に閉じこもり、予定が制限される生活の中で、新たな生き方を模索する人が増えました。バンライフは、自由な旅と自分らしい暮らしを叶える手段として、多くの人を惹きつけているのでしょう。

バンライフを開始するためのファーストステップは、バンのDIYです。いきなりバンを購入し、改装するよりも、まずはバンライフのコンセプトを設定しましょう。そのコンセプトに沿って、どんな車種で、どんな内装が心地よい生活ができそうかを判断します。

実際にDIYする段階では、ネットの情報が参考になります。カエライフではバンライフを楽しんでいる方々へのインタビューをこれまでにたくさんご紹介してきました。また、さまざまなバンライファーが「どう自分のバンをDIYしたか」をSNSやYouTubeで語っています。こうした実践者の方々の情報をヒントにしながら、自分らしさを加えてバンを改装していきましょう。

 

バンライフに向いている車種は?

インスタグラマーのYURIEさんの愛車は日産バネット S21 型

YURIEさんのサンシー号(日産バネット S21 型)

バンライフに適した車種は、自分のバンライフのコンセプトによって異なります。

 

バンライフのクルマを選ぶときの3つのポイント

いざバンライフを始めようと思ったときに、クルマ選びが最初の関門になります。どんなバンライフを送りたいのか、自身の目的や予算と照らし合わせて考えてみる必要があります。

 

①空間の広さ

1人でバンライフを満喫するのか、2人なのか、人数によってもクルマ選びは変わります。また、クルマのなかでどの程度の生活を想定しているのかによっても選択肢が生まれます。

最低限、荷物スペースなども考えた上で座っても頭が当たらない程度の車高が必要です。何日もバンのなかで過ごす場合は、冷蔵庫やバッテリー、服などの生活用品を収納できるスペースも。自身のバンライフがどのくらいの広さを必要とするのかを考えてみることがバンライフの1歩目です。

 

②走行性能

高速道路を頻繁に使う場合は、ターボがついているなどの機能性が必要になりますし、アウトドアを中心にする場合はオフロードに耐えられる安定性が要求されます。どのような道を走るのかによってもクルマ選びが変わります。

 

③金額

最後に金額。バンライフを実践する場合、DIYをすることも前提。クルマにあまりに高い金額を使ってしまうと、その後のDIYやバッテリーの購入などで予算をオーバーしてしまう可能性もあります。どのくらい内装にDIYを施すのか、何日間バンで暮らしたいのかなど、自身のイメージするバンライフと相談してみる必要があるでしょう。

 

バンライフに適した車種

上記のポイントを検討してみると、いくつかの選択肢が出てきます。
スペース効率が良いトヨタ「ハイエース」が人気ですが、上記で紹介したバンライファーの方々は、他車種を選んでいます。

 

①大型バン

マツダ「ボンゴ」や日産「キャラバン」、トヨタ「ハイエース」などの大型バンは、2人でバンライフを送ることも可能です。さらに荷室も十分に確保されているため、バッテリーや冷蔵庫などを配置することもできます。快適な空間を楽しみたいバンライファーにおすすめです。

宮本 メイさんの乗っている福祉車両のキャラバンは天窓があるなど、それぞれの車種のタイプによっても微妙に異なる仕様があるため、気に入った車種があれば、どのような違いがあるのか確認してみるのがおすすめです。

 

<救急車を改造するという驚きの例も!>

ゴールデンアワーのときの車内の様子

宮本 メイさんのバンは天窓付きで、光がたっぷり取り入れられる。

 

②軽バン

マツダ「スクラムワゴン」やダイハツ「ハイゼット カーゴ」、スズキ「エブリイ」、Honda「N-VAN」などの軽バンは、主に1人でバンライフを楽しむのに向いています。燃費もよいため、まずは入門として購入し、バンライフを楽しんでみるのにおすすめです。

あかねさん&はやとさんのように、軽バンである「スクラムワゴン」で2人でのバンライフを楽しんでいる例もあるので、使い方や目的によっては2人以上で楽しむことも可能です。

 

バンライフのメリット・デメリット

これからバンライフを始めたい人が気になるのは、バンライフのメリット、デメリットでしょう。それぞれどんな側面があるかを紹介します。

 

バンライフのメリット

バンライフには主に3つのメリットがあります。

 

メリット①自由度の高さ

バンライフの魅力は、なんと言っても自由度の高さです。朝は鳥のさえずりや波の音で目覚め、窓を開ければ壮大な景色が広がる。そんな非日常を毎日味わえます。

 

メリット②アウトドアとの親和性

さらに、アウトドアへのアクセスも格段に向上します。テント泊のように設営・撤収に時間をかける必要がなく、駐車場やキャンプ場に到着すればすぐにくつろぎの空間を手に入れられます。

 

メリット③自分らしくいられる

そして、DIYで自分だけの空間を作り上げられることも大きな魅力です。愛着のある空間で過ごすバンライフは、自分が自分らしくいられる時間をもたらしてくれます。

 

バンライフのデメリット

車内に吊るした扇風機

あかねさん&はやとさんのバンにあった、夏の暑さ対策のための扇風機

バンライフは憧れのライフスタイルですが、同時にデメリットも存在します。

 

デメリット①自然環境への対応

まず、自然環境への対応です。冬の寒さや夏の暑さは想像を超える厳しさで、扇風機の導入だけでは限界があります。また夏は虫の侵入にも悩まされ、ドアの開閉にも神経を使います。

 

デメリット②安全性とプライバシー

次に、安全確保とプライバシーの保護です。特に女性一人旅では夜間のリスクが高く、窓の目隠しなど防犯対策は必須です。

 

デメリット③車検の難易度

さらに、車検の問題も軽視できません。バンライフ用の車両は「キャンピングカー」登録が必要となり、一般的な車検とは異なる手続きが必要となり、車検の難易度はかなり高くなります。

 

これらのデメリットを理解し、事前に対策を講じることで、バンライフの快適性と安全性を高めることができます。

 

バンライフ=新しい価値観との出会い

バンライフは、日々の暮らしに彩りを添え、新たな価値観を与えてくれます。自由、自然との出会い、そして自分らしさ。5組のバンライファーの紹介から、その一端が垣間見えたのではないでしょうか。そんな人生を求める人に、バンライフはぴったりの選択肢になるはずです。

 

文/浅井 剛志 
写真/木村 琢也、宮越 孝政、和田 清志、
中田 健司、宮本 メイ、太田 未来子
編集/矢澤 拓、TAC企画