必要最小限の荷物をVANに詰め込んで、自由気ままな旅に出る。「VAN LIFE」(バンライフ)」と呼ばれるライフスタイルが世界中で流行しています。
日本国内でもVAN LIFEや車中泊の楽しさを発信するブロガーやインスタグラマー、ユーチューバーが次々と登場し、一大ムーブメントになりつつあります。
VAN LIFEとはどんなもので、その魅力は何なのか?
実際にVAN LIFEをするには、どんなクルマが適しているのか?
車中泊で旅をしたい人のためのシェアリングサービス「Carstay」の代表である宮下 晃樹さんと、海外でVAN LIFEに触れた経験からコンセプトモデル「TRIP VAN」をデザインしたホンダアクセスのデザイナー渡邊 岳洋さんのお2人に、VAN LIFEについて語っていただきました!
目次
- 渡邊 岳洋(わたなべ たけひろ)さん
- 株式会社ホンダアクセス 商品企画部 デザイナー
サーフィンが好きで、休暇にはアメリカ西海岸やオーストラリアへサーフトリップ。海外で出会ったVANカルチャーに感銘を受けたことがきっかけで、HondaのN-VANをベースにしたコンセプトモデル「TRIP VAN(トリップバン)」をデザイン。東京オートサロン2019で発表して話題を集めた。
- 宮下 晃樹(みやした こうき)さん
- Carstay株式会社 CEO
ロシア生まれ。学生時代はアメリカに留学。2014年、NPO法人「SAMURAI MEETUPS」を設立し、のべ1,200人の訪日外国人をガイドした経験から、旅行者にとっての課題は移動手段にあると実感。2019年1月、日本初となる車中泊・テント泊できる場所のシェアリングサービス「Carstay」(カーステイ)を開始。VAN LIFEの情報を発信するWebメディア「VANLIFE JAPAN」も運営中。
快適に車中泊をしてクルマの旅を楽しみたいゲストと、駐車場・観光体験を提供したいホストをつなぐシェアリングサービス。道の駅やキャンプ場、温泉など、日本各地の130カ所(2019年7月現在)の駐車スペースと提携。ケガや設備の破損を保証する車中泊保険も付保できる。
VAN LIFEは「クルマ」と「暮らし」の新しいライフスタイル
- VAN LIFEとは何か、簡単に説明していただけますか?
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宮下:2011年、ラルフローレンのデザイナーだったフォスター・ハンティントン氏が、会社を辞めてフォルクスワーゲンのバンに乗って旅に出ました。ニューヨークでバリバリ働いていた人が、生活必需品だけをクルマに積み、放浪しながら仕事をして、その様子をインスタグラムで発信することが新鮮でした。
さらに2013年、写真集『HOME IS WHERE YOU PARK IT(車を停めた場所があなたの家)』を出版して、それがベストセラーとなったことがVAN LIFEブームの始まりだと言われています。
ここ数年でVAN LIFEを実践する人が増え、欧米だけでなくアジアでも広まっています。インスタグラムでハッシュタグ「#vanlife」がついた投稿は550万くらいあって、世界的なビッグキーワードになっています。
- 日本だと「車中泊」という言葉がよく使われますが、VAN LIFEとの違いは何でしょうか?
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宮下:VAN LIFEはライフスタイルで、車中泊はその中の1つの行為。VAN LIFEの定義は広くて、クルマを基点とした自由な生き方全般をさします。クルマの中で寝る人もいれば、料理する人もいるし、オフィスとして仕事する人もいます。
これだけインターネットが普及して、Wi-Fiがあればどこでも仕事できる時代ですから、都心のオフィスにずっと座っていなくても、朝起きて、お天気がよかったら、クルマで海に行ってサーフィンして、そのまま海の近くで仕事してもいいわけですよね。
2020年には5G(第5世代移動通信。現在の4Gより高速・大容量の次世代通信システム)のサービスが始まり、アドレスホッパー(住む場所を次々と変えながら生活する人)や多拠点居住のようなライフスタイルはさらに加速すると思いますが、その最先端がVAN LIFEだと思います。
VAN LIFEをする人たちの記事
クルマはただの移動手段ではなく「動く快適空間」
渡邊:ぼくはデザイナーなので、デザインの観点から話をすると、VANLIFEとは「カッコいい」ライフスタイルであることが前提です。
数年前、サーフィンのためにアメリカ西海岸のシアトルからサンディエゴまでを縦断しました。ビーチには車中泊する人たちのクルマがずらっと停めてあったんですが、その光景がなんともカッコいいんです。
- 「カッコいい」に必要なことって何でしょうか?
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渡邊:ただクルマで生活してるだけではVAN LIFEにはならなくて、クルマを含めて生活の中にその人独自のスタイル、こだわり、思い入れが込められているので、カッコいいと感じられるのでしょうね。
アメリカではDIYの文化が根づいているので、若い人でもおばあちゃんでも、普通に家の中をリフォームするし、ガレージでクルマのパーツを交換したり、みんなが当たり前のように自分なりのカスタムを楽しんでいます。
最近ってみんな何かモノを買うときに、そのモノの歴史とか、誰が作っているのかとか、産地はどこかとかを掘り下げるようになっていますよね。そのプロダクトが役に立つだけでなく、その背景にある思想とかストーリーが大事になっている。だから、カッコいいかどうかは、それがあるかどうかでしょうね。
宮下:つまり、暮らしのアップデートですね。VAN LIFEの基本的な考え方として、「生活の質や旅の質を高める」ということがあります。
少し前の車中泊ブームは、どちらかというと、宿泊費をかけずに安く旅ができるほうがメインだったと思うんですが、それとは違うムーブメントがきてると思います。
もちろん、クルマに泊まれば宿泊費は抑えられるし、移動が便利といったメリットもありますが、それ以上に、「快適な空間ごと移動できるってハッピーだよね」っていうのがあります。クルマを移動手段としてではなく、「動く快適空間=HOME」とみる考え方です。
快適な空間でずっと家族と一緒にいられるとか、自分が好きなときに好きな場所に行けるとか、そういった「人生を豊かにする」ための生き方として選ばれているのがVAN LIFEなんです。
VAN LIFEにぴったり! ホンダアクセスのコンセプトモデル「TRIP VAN」
- 東京オートサロン2019で発表された「TRIP VAN」とは、どんなクルマなのでしょうか?
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渡邊:日本ならではのVAN LIFEをテーマに、Hondaの軽バン「N-VAN」をベースにしたコンセプトカーです。
渡邊:アメリカであれば、土地が広くてガソリン代が安いので、大型のVAN やキャンピングカーに乗って気軽に旅に出かけられますが、日本では維持費や駐車場の問題でなかなか実践しにくい。
そこで、日本のクルマ事情に合った軽自動車を選びました。使い勝手がいいだけでなく、使い込むほどに味わいの出る素材やデザインを採用しています。
宮下:今日、実際に見せてもらって驚きました。渡邊さんのおっしゃる「カッコいい」がまさに再現されている。熱狂的なファンがつきそうな感じです。今すぐお借りして、このまま旅に出かけたくなりました!
渡邊:クルマ旅のスタイルも変わってきています。大量の荷物をクルマに積み込んで、というより、プロダクト自体が機能的でコンパクトになっているので、セレクトした道具でシンプルにまとめるほうがカッコいいという流れになってきている。旅のスタイルもそうだし、ミニマルな美学がある。クルマ自体も、コンパクトで燃費がよくて、かつデザイン的にも洗練されているものが求められていると思いますね。
- 宮下さんは今年(2019年)1月から「Carstay(カーステイ)」というサービスを始めましたが、きっかけは何だったんですか?
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宮下:訪日観光客と日本各地のガイドをつなぐNPO法人を2014年からやっていて、これまでにのべ1,200人の外国の方を連れて日本各地を旅してきました。日本にはまだ知られていない“秘境”と呼ばれる場所やガイドブックには載っていない魅力的な場所がたくさんあるんですが、そこへ案内したいと思っても、鉄道の駅から遠いとなかなか行けないし、泊まるところも少ない。
クルマがあれば、移動がすごく便利だし、車中泊をすればどこでも滞在できるので、訪日観光客が気軽にクルマを借りて日本各地を快適に旅行できるようなサービスがないかと思って探したんですが、なかったんです。じゃあ自分でやろうと思って始めたのがCarstayです。まずは車中泊をしたい人と、駐車場を貸したい人のマッチングサービスを始めたんですが、「クルマはどこで借りられるのか」という問い合わせがすごく多いので、車中泊ができるVANやキャンンピングカーのシェアリングサービスも秋から始める予定です。今後、さらにVAN LIFE を楽しむ人のプラットフォームとしてCarstayを充実させていきます。
渡邊:女性のひとり旅や、カップルやファミリーで車中泊をする人も増えてますから、安心、安全にクルマで旅をするためのサービスはすごくいいですよね。
車中泊の旅をもっと快適にするためのサービスを
- おふたりのVAN LIFEのエピソードをうかがえますか?
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宮下:Carstayを立ち上げるにあたり、まずは自分でやってみようと思ってクルマの旅を始めました。最初は車中泊のノウハウがなかったので失敗ばかり。停めていい場所がわからずに近所の人に怒られたり、警察に職務質問を受けたことも(笑)。シェード(目隠し)をつけるということも知らなかったので、朝、目が覚めたら、外からジロジロ見られてたりとか(笑)。こうした経験がCarstayのサービスに生きています。クルマを安心、安全に停められる場所を見つけることが、車中泊の旅の第一条件だと思いますから。
渡邊:私は東京から宮崎まで、ステップワゴンに乗って車中泊の旅をしたことがあります。仲間と4人でドライブして、途中でサーフィンしたり、キャンプしたり、浜辺に駐車して寝たり。春先の涼しい時期だったので、クルマの中で寝ても快適でした。
でも夏に四国に行ったときは、ちょっと厳しかったですね。暑かったので窓を全開にして寝ていたら、ひと晩で32カ所も蚊に刺されました(笑)。他のメンバーは夜中に避難していて、朝起きたら私1人で、身体中がボツボツでした(笑)。
宮下:真夏の暑さと防虫は、車中泊の大きな課題ですよね。外部電源が使えるかどうかも、車中泊の旅には大事なポイントです。外部電源があれば、小さなエアコンやサーキュレーターを回せますし、車内でパソコンを使って仕事をする人にも必需品です。
もう1つ、初心者に方に注意してほしいのが、水平な場所で寝ること。私はこれを知らずに、斜めの場所で頭を低くして寝てしまったことがありました。そしたら次の日、気分が悪くて丸1日動けなくなってしまったんです。かなり危ない状態でした……。
自分で体験してみて気づくことがたくさんあるし、情報を求めている人に正確な情報を届けたいのでWebメディア「VANLIFE JAPAN」も始めました!
- VAN LIFEに適しているのは、どういったクルマでしょうか?
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渡邊:一番は「機能的」であるかどうかです。つまり、無駄がないということ。その点では、機能性とサイズを突き詰められてつくられた軽自動車は圧倒的に秀でています。TRIP VANはコンパクトな車体のわりに荷室が広く、また燃費もいいので、旅はもちろん普段使いにも最適です。日本の環境でVAN LIFEすることを考えたとき、TRIP VANは「究極の答え」の1つだと考えています。
宮下:コンセプトモデルで終わらず、商品化してほしいです!
自然とつながり、人とつながる。魅力いっぱいのVAN LIFE
- これからクルマの旅や車中泊に挑戦したいという人に向けて、VAN LIFEの魅力を教えてください!
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渡邊:日本には四季があり、美しい海や山があります。たくさんの素晴らしい場所があるということを、海外からの観光客もふくめて、もっと多くの人に感じてもらいたい。
クルマで自然の中に入っていってその場所で眠るのは、ホテルや旅館に泊まるのとはまた違う楽しさがあります。自然からダイレクトに肌に伝わってくる感覚があるし、感じる量もケタ違いです。
そこで苦労することがあっても、それがいい思い出になったり、笑い話になったり。そういった体験を通して、クルマがもっと好きになると思います。
宮下:VAN LIFEが好きな人たちに話を聞くと、「不便なのが楽しい」という答えが返ってきます。みんなで協力して苦労を乗り越えるプロセスが楽しく、一緒にいる人の知らなかった一面が見られたり。
私自身、VAN LIFEをきっかけに仲良くなった人とこのたび結婚しました(笑)。彼女は今、VAN LIFEを実践しながら情報を発信する「VANガール」として活動しています。僕らだけでなく、夫婦やカップルでVAN LIFEをしている人は世界的に見てもとても多いんです。
VAN LIFEを通じて人との絆を深めて、日本人にも海外の人々にも日本の良さを味わってもらえたらうれしいです。
文/小村 トリコ
写真/福井 麻衣子
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