車中泊が広がりを見せています! 車中泊と聞くと「クルマのシートを倒してマットを敷いて、簡易的に寝ることでしょ?」と思っている人は多いと思います。
実はいま車中泊をするクルマには、いろいろなスタイルが登場しています。いわゆるキャンピングカーやトレーラーハウスのほか、トラックやバンをまるで家のようにカスタムするなど…。これらのクルマを総じて「モバイルハウス」と呼んでいます。
いったい「モバイルハウス」とは具体的にどんなクルマなのか、誰が何の目的で車中泊をしているのか…? そんな疑問を解消すべく、モバイルハウスのイベント「キャンパーフェス2019安曇野」(2019年11月2日、3日開催)に行ってみました!
目次
モバイルハウスの聖地に大集合!「キャンパーフェス2019安曇野」
今回、取材に訪れたのは、北アルプスの山々を見渡す長野の安曇野で開催された「キャンパーフェス2019安曇野」。今年で3回目をむかえるイベントで、毎年日本全国から「モバイルハウス」が集結します。
会場は「イラムカラプテ」というゲストハウスの前に広がる見晴らしのいい牧草地です。実はこの場所、モバイルハウスの聖地なんだとか!


- ~どうしてモバイルハウスの聖地なの?~
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イベント会場となった牧草地を所有している「イラムカラプテ」は、もともと安曇野でパーマカルチャー※塾を主催する、臼井 健二さんが経営していたゲストハウス「シャロムヒュッテ」が前身。
臼井さんは「シャロムヒュッテ」のオーナーだった当時、モノを持たないミニマムな暮らしを自ら実践。パーマカルチャーの一環として、この場所でモバイルハウスを製作するワークショップを開催していました。
そこに参加していた龍本 司運(しうん)さんが発起人となり、完成したDIYモバイルハウスのお披露目会を兼ねて開催したのが、1回目の「キャンパーフェス2017」だったというわけです。
実際、今回のイベントには臼井さんのワークショップに参加したことで「モバイルハウスの魅力にハマった」「作り方を知った」という人がたくさん来ていました。
※パーマネント(永続性)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)を組み合わせた造語で、循環型の社会を築くためにオーストラリアで提唱された思想


3回目となるイベント会場には総勢77台もの参加者が集まりました。昨年の2倍以上というから、モバイルハウスブームの勢いを感じます。
若い男性もいれば落ち着いたご年配の夫婦、子ども連れのファミリーまで、参加者もクルマのタイプも驚くほど多種多様。幅広い層を引きつけるモバイルハウスの魅力ってなんなのか、がぜん気になります!
モバイルハウスには、どんなクルマの車種がある?
一口にモバイルハウスといっても、さまざまなタイプがあります。今回のイベント会場に集まったモバイルハウスは、以下の5種類のクルマがありました。
- キャンピングカー
- バン
- トラック
- トレーラー
- 軽自動車
- ◆キャンピングカー(キャブコン、バンコン)
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トラックをベースに改造・架装した「キャブコン」(写真左)とバンをベースに改造した「バンコン」(写真右)の2タイプがあります。8ナンバーの特殊車両であるキャンピングカーには、水道付きのキッチンが装備されています。最近ではベース車両に軽自動車を使った、コンパクトなキャンピングカーも人気。
- ◆バン
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バンの代表トヨタ「ハイエース」(写真左)と軽自動車のバンのHonda「N-VAN」(写真右)。荷室が広いバンはカスタムしやすく、快適に車中泊ができるように、荷室をフラットにしたり棚を作ったり自由にカスタム。車内全体に木板を貼りつけて、まるで家のようにDIYしている上級者も。
- ◆トラック(軽トラハウス、軽トラキャンパー)
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軽自動車のトラック、ダイハツ「ハイゼット」(写真左)とHonda「アクティ」(写真右)。トラックの荷台に手作りした「家」をのせた、注目の「軽トラハウス(軽トラキャンパーとも)」。車検のときは「家」を取り外しできるようになっているそう。なかにはトラックの荷台に簡易テントをのせて車中泊仕様にしているクルマもありました。
- ◆トレーラー(トレーラーハウス)
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トレーラー内を車中泊できるようカスタムし、クルマで牽引するスタイル。キャンプ用品メーカーのスノーピークが建築家の隈 研吾さんと作った「住箱(じゅうばこ)」という商品で話題になったモバイルハウス。
- ◆軽自動車
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SUZUKIの軽自動車「ハスラー」で車中泊をしながら旅をする、YouTuberえりたく夫婦さん(写真は奥さまのえりさん)。ニトリで購入したマットを敷くだけのシンプルな車中泊スタイル。唯一のカスタムは吸盤で取り付けたカーテンくらい。
今回のイベントでは見かけませんでしたが、モバイルハウスのクルマには、バスをベースに改造した「バスコン」というのもあるそうです。
個性あふれるモバイルハウスを見せてもらいました!
続いて、キャンパーフェスの会場でひときわ目立っていたモバイルハウスのオーナーさん6人に話を聞きました。とくにミニマムな世界観を構築している軽自動車にフォーカス!
ウッディな空間はなごめるカフェのよう【スズキ EVERY(エブリイ)】
エイジング塗料でペインティングしたレトロな軽バンで、内装は天井まで全面に木をはったぬくもりのある空間。材料の半分以上に廃材を利用することで、持続可能な社会も意識。「軽なのでちょっとのコストでいっぱい楽しめる。わが家の子どもたちにとってもいい遊び場になっています」


移動する「私のおうち」を満喫中!【スズキ CARRY(キャリイ)】
地球にやさしい循環型生活へのあこがれと、大好きな自然の中に暮らしたいという思いから移住を検討中の藤田さん。タワーマンションからモバイルハウスへ住居をシフトし、息子のりゅう君と一緒に旅をしながら移住先を探しています。「この1作目は夢が詰まったプロトタイプ。でも快適性が追求できていなかったな。改良点を反映して、2作目も作りたい!」


アンティーク調の三角屋根のかわいいおうち【マツダ ニューポーターキャブ】
まるでおとぎ話の中から飛び出したようなモバイルハウスを発見! なんとオーナーさんは男性。「ベースは昭和60年式の軽トラなんです。レトロ調のクルマに仕上げ、かわいいものをのせました」と話す若林さん。中世ヨーロッパを彷彿とさせるアンティーク調の家具や建具はすべて手作り。天気のいい日は気の向くままに遠出し、車内で仕事をすることも多いそうです。


創作魂が止まらない! 趣味の小部屋を次々作って、どんどん遊ぶ【スバル サンバー】
「荷台にのせるハウスを作るのはもう9台目。釣りやキャンプなど用途に合わせ、ハウスを載せ換えています」。稲本さんは企画設計、木工所のプロである田畑さんは施工を担当。板を交互に組むログハウスの工法で、外壁は焼杉(やきすぎ)を使用。板を焼いてから金ブラシで削って木目を浮き立たるという加工を施した後に、防水用塗料を塗った自作の杉板は、高級感のある木の質感が光っていました。


全国をモバイルハウスで旅する車中泊の達人【ダイハツ ハイゼット】
中古のドアや古い牛乳瓶ケースなど、ほぼすべて廃材で作ったレトロな雰囲気のモバイルハウス。気を付けたのは、荷台の天井高をできるだけ「低く」つくったこと。そのきっかけは、車中泊で旅を続ける中で2度も大きな台風に見舞われ、背の高い荷台が強風にあおられる不安を感じた経験から。車内では座るか寝るかだけで高さにこだわりはないため、安心感を優先して天井を低めに。本州全土をひと通り制覇した現在でも、引きつづき甲斐犬のカンちゃんと一緒に旅を続けています。


“アートシンキング”を体現したモバイルハウス【スズキ CARRY(キャリイ)】
芸術家の思考回路で企業の新規事業開発をサポートするアートファームBulldozerの代表取締役兼運転手/パラダイムシフターの尾和さん。ベッドルームとオフィス、ワークショップを兼ねたモバイルハウスのテーマは「移動式観覧車」。内側からステンドグラスのような車輪を回すと、万華鏡のように予測できない光の組み合わせが、車内を彩ります。


「モバイルハウス」ってどんな意味? 主催者に教えてもらいました
「モバイルハウス」と一口にいっても、これだけ多種多様で個性的なモバイルハウスがあることに驚きましたか? そこで続いて気になってくるのは、そもそもの「モバイルハウス」の意味や歴史的な経緯について。
お話をうかがったのは、今回のイベント「キャンパーフェス2019安曇野」の主催者のひとり宮下 晃樹さん。車中泊をする人のためのシェアリングサービス会社「Carstay(カーステイ)」の代表を務めている、まさに車中泊のプロです。
モバイルハウスという言葉の意味は?
宮下:モバイルハウスは海外からきた言葉で、「動く家」のことを指しています。バン(=荷台が広いクルマ)を家のように作り変え、旅や暮らしの拠点とするVAN LIFE(バンライフ)のスタイルもモバイルハウスの一種。一方でYouTuberえりたく夫婦さんのようにクルマのシートを倒してマットを敷いて車中泊することだって、「家」のように利用しているならモバイルハウスだといえます。
モバイルハウスが注目されるようになったのはいつ?
宮下:昔から車中泊を旅や遊び・暮らし・仕事に取り入れている人はいましたが、注目を集めるようになった最初の兆しは2008年のリーマンショックだと思います。ミニマリストなど「持たない暮らし」への関心が高まったころです。当初はカウンターカルチャー系の人たちが、資本主義の枠組みから離れ、時間も場所も自由に過ごしたいという思いから、モバイルハウスに関心をもったようです。
日本で注目されるようになったきっかけはあるんでしょうか?
宮下:ミニマムサイズのモバイルハウスが日本独自に発展したことは、注目すべき点です。海外は道も広いし土地もあるので、キャンピングカーやトレーラーハウスのように、かなり大きなモバイルハウスが存在します。でも日本は大きな車両は入れない道や駐車場が多いですからね。
とくに軽トラックの荷台にDIYで箱のような家を作ってのせる「軽トラハウス(=軽トラキャンパーとも)」の登場は、実に日本的でおもしろい。茶室のように小さな空間に哲学や美学を表現しています。
モバイルハウスは、どんな人たちが利用しているのでしょうか。
宮下:最近では、「日常的な住居」としてがっつりモバイルハウスで暮らす人もいれば、「動くオフィス」としてフリーランスが仕事に利用したり、「移動する別荘」の感覚で金土日だけ使ったり、すそ野が広がってきたと感じます。
モバイルハウスの魅力。固定資産税がかからない!?
モバイルハウスの魅力はなんだと思いますか?
宮下:例えば軽トラハウスは、廃材などを使ってがんばれば5~20万円ぐらいで作れるコスパの低さも魅力のひとつです。お金をかけず、自分の創意工夫で楽しく自己表現できますし、SNSウケも抜群。なにより若い人もシニアもハマる理由は「自分らしいモバイルハウスを作る喜び」にあると思います。
モバイルハウスは「ハウス」といってもマンションや持ち家と違って、固定資産税がかからないという点も見逃せません。普通の住宅に比べ、はるかに安い金額で作れるのも大きなメリット。なにより、好きな場所に、好きな時間に自由に家ごと移動できるのが最大の魅力といえます。
注意したいのは、モバイルハウスを停める場所(車庫証明など)は確保しないといけないこと。また、DIYで作った木造のハウスは、きのこや苔が生えることも。雨漏り対策をするなど、常にメンテナンスを行う必要はあります。もちろん車両本体のメンテナンスも必須です。
クラウドファンディングで作った「家」で新しい住まい方を探す
最後にお話をうかがったのは、モバイルハウスのオーナー赤井 成彰さん。会場内でもウロコ壁のようなデザインがひときわ目立っていました。なんと、フルタイムでモバイルハウスに生活しているので、少し詳しく話をうかがいました。
「いま僕の家と呼べるのは、このモバイルハウスだけです!」と笑顔で話す赤井さん。昼は会社で過ごし、夜寝るためだけに帰る生活をしていた会社員時代、「家賃って高くない? 住まいって何?」と疑問を持つように。そんなとき、15万円という驚きの低予算で作ったモバイルハウスに夫婦で暮らしている龍本 司運(たつもと しうん)さんのWeb記事に出会い、これだ! とひらめいたそう。
「動く家=モバイルハウスを作って新しい住まい方を実験してみたい」とクラウドファンディングを始めたところ、78万4000円の資金の調達に成功。車両を購入し、モバイルハウスの制作をスタートさせます。
赤井さんのモバイルハウスは手の込んだウロコ壁のデザイン。「ジグソーで一枚一枚、板を切って仕上げました。いや~、大変でしたね! まったくのDIY初心者だったので、大変さすら想像できなかったんです。でも、この空間にいるだけでテンションが上がる家を作りたかったんです」と赤井さん。


ハウスの屋根に145Wのソーラーパネルを設置し、照明など最低限の電力で生活。冷蔵庫はなく、ハーブやきのこを干したり、農家のおばちゃんにもらった根菜を使ったり、日持ちする食材で自炊している。水は湧水をくんで、20リットルタンクにキープ。
「江戸時代の生活はモノをあまり持たずに、狭い空間をうまく利用していたみたいなんです。その江戸のライフスタイルから学び、生活に生かしています。また、暮らしてみて気づいたのは、災害に強いこと。家を動かせてインフラを自分で持っている。モバイルハウスは最強の防災袋なんです」と語ります。
最初はシンプルに作って、必要な設備は後から付け足そうと思っていたそうですが、「十分に足りている」と赤井さん。今後も、おもしろい人に会いに行ったり気になる場所を訪れたりしつつ、モバイルハウスでの冒険を続けていくそうです。
【まとめ】自分らしさが表現できる、自分らしく生きられる
今回イベントに参加して驚いたのは、ひとつとして同じデザインのモバイルハウスがなかったということ。それぞれに創意工夫をこらし、自分らしさを表現していて、クルマのアート作品を見ているようでした。
みんなと同じことをしなくていい、遊び方も生き方も自分流に過ごせるのがモバイルハウスの大きな魅力。この小さくて大きな可能性を秘めた“おうち”、一度知ってしまうと、私もほしくなってきました!
2020年はイベント名を「モバイルハウスビレッジ」と変えて開催予定です。Facebookで告知されるそうなので、気になる人は検索してみてくださいね。
文/嶺月 香里
写真/松本 いく子
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