必要なものだけをクルマに詰め込んで、自由気ままな旅に出る「VAN LIFE(バンライフ)」。それを実践するバンライファーにとって大切なことの1つが、クルマを自分だけのくつろぎ空間へとつくり変えるDIYの技術。
今回登場する鈴木 大地さんの愛車は、ある意味、その究極のカタチと言えます。それもそのはず、鈴木さんは大工歴20年を超えるプロフェッショナルなのです!
仕事道具をたくさん積んだまま現場に移動できて、仕事が終わった後はいつでも快適に車中泊ができるようにと、愛車をVAN LIFE仕様にしてしまった鈴木さん。プロが行う本気のカスタムとは? 初心者にも役立つDIYのコツとは? お話をうかがいました!
- 鈴木 大地(すずき だいち)さん
- その道20年のベテラン大工として、主に店舗やマンションなどの改装を手がけつつ、2018年からVAN LIFEをスタート。ハイセンスなカスタムがまたたく間に話題を呼び、現在は「VAN LIFEビルダー」としても活動。BS日テレ『極上!三ツ星キャンプ』をはじめ、テレビや雑誌、イベントでVAN LIFEのDIY術を披露するほか、依頼を受けてクルマのカスタムも行う。
Instagram @daichi_suzuki.jp
目次
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「人生のリセット」で挑戦したバンライフ車のカスタム
まずは、鈴木さんがVAN LIFEを始めた経緯について教えてください。
鈴木:最初は「泊まれるクルマがほしい」と思ったんです。ぼくは住まいが八王子で、仕事の現場は東京都心部が多く、通勤にクルマで1時間半くらいかかります。毎日の往復は疲れるので、たまに現場の近くで車中泊したいときがあって。
でも、そのとき乗っていた商用バンでは、脚を伸ばして寝ることができず、車中泊の翌日はどうもからだが痛い……。
そんなとき、ある現場で海外のVAN LIFEを紹介した洋書を見かけて、瞬間的にビビッときました。「こんな風に自分で好きなように空間をつくってみたら、面白いんじゃないか?」って。
鈴木:そう思い立った翌月の2018年6月には、メルセデス・ベンツのトランスポーターT1N、通称「ベントラ」を買っていました。このクルマはとにかくサイズがでかくて、車内で立って動きまわれる高さがあるのがよかった。
それからは仕事の合間に、少しずつカスタムを進めていきました。
もともとアウトドアは好きだったんですか?
鈴木:いや、全然! どちらかというと、旅行とかキャンプとかは面倒くさいというタイプでした(笑)。実は、クルマのDIYにハマったのは……離婚の影響もあります。
2017年に離婚して、今までの自分の人生、生活をリセットしようと考えました。大工の仕事は20歳のときから続けてきたんですが、思い切って新しいことにチャレンジしたくて。クルマのカスタムもその1つでした。
さっきも言ったように、「通勤疲れしないため」という現実的な理由から車中泊したいと思ったんですが、いざクルマを買って、カスタムを始めたらすごく楽しくって。離婚してから1人暮らしになって、子どもたちに会えないことが辛かったんですが、クルマのカスタムをしているときだけは夢中になれて、辛いことを忘れられたんです。
実際にVAN LIFEを始めてみて、いかがでしたか?
鈴木:3カ月くらいかけて制作して、現在の基本形ができました。荷台に大きくスペースをとり、仕事道具をがっつり積み込めるようにして、その上をベッドにしたのが特徴です。車内空間が広く、自分の部屋のようにリラックスできます。
できあがってからは、週の半分くらいは車中泊して、残りは家で寝るという生活です。夜は都内の気になっていた店で食事したり、サウナや銭湯を巡ったり……。職場と家の往復だった生活とはガラッと変わりました。
誘われたらふらっと気軽に立ち寄るし、自分でも面白そうな場所を探して行く。フットワークが軽くなって、人付き合いにも積極的になりました。こうしてできた人脈が、思わぬところで次の仕事にもつながっていきました。
VAN LIFEで知った「自分の作品」を認められる喜び
鈴木さんは現在「VAN LIFEビルダー」として、テレビや雑誌などで引っ張りだこのご活躍ですね。そうした活動はいつ頃から始まったのでしょうか。
鈴木:クルマのカスタムが完成してすぐ、2018年11月に、ぼくのバンライファーとしての「デビュー戦」がありました。長野県安曇野で開催された、軽トラキャンパーたちが集まる「キャンパーフェス2018」に、たまたま誘われて参加したんです。
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鈴木:それはまさに転機といえる体験でした。イベントに来ていた大勢の人たちが、ぼくのベントラを見た瞬間、「ウソでしょ!?」と口々に言うんです。みんなが心底おどろいて感動してくれている様子でした。これは正直言って……快感でした(笑)。
今までやってこられた大工のお仕事とクルマのカスタムでは、何が違ったのでしょうか?
鈴木:大工というのは、基本的に職人仕事です。クライアントの望み通りであったり、デザイナーや設計士の図面通りであったりと、「他の誰かの考え」に忠実な仕事をするのが、ぼくたち職人の役目。もちろん、そのためには高い技術力と豊富な経験が求められます。
でも、クルマのカスタムをやってみて初めて、「自分のアイデア」で自由にものづくりをして、できあがったものを「自分の作品」として見てもらえる体験をしました。こんなにたくさんの人が自分のクルマに注目してくれて、喜んでくれる。めちゃくちゃ楽しいなって。
そうこうしているうちに、いろんなところからクルマのカスタム関連の仕事の依頼をもらうようになって活動が広がっていきました。たとえば車中泊イベント「カートラジャパン2019」でYURIEさんの愛車サンシー号のリノベーションを手がけたり、『極上! 三ツ星キャンプ』(BS日テレ)というテレビ番組に出演して、車中泊のDIY術を若い芸人さんに教えたり。
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カスタムの秘訣は、その人の暮らしを想像すること
鈴木さんが現在手がけているクルマは、依頼を受けて制作しているものなんですよね。
鈴木:僕のInstagramを見てくださったお父さんからのご依頼で、小学生の娘さんと一緒に車中泊できるように、というオーダーでした。まっさらな状態でクルマをお預かりして、壁材を張るところから家具の組み立てまで、トータルでの車内空間づくりをしています。
鈴木:このカスタムの一番の見せ場は、ベッドからの「引き出し式」のキッチン。料理をする時以外は収納しておくことができます。
何しろ2人で寝るので、少しでもスペースを有効活用できるようにと、収納を多くする工夫をしました。カセットコンロや冷蔵庫など、車中泊に必要なものはひと通りしまっておける。普段は見えないので、車内がより広く感じられるはずです。
鈴木:2つのベッドのうち1つのベッドは少し高い位置にして、ハシゴで登るようにします。便利さを追求するだけでなく、こういうちょっとした遊び心があると、使っていて楽しいですよね。とくに小学生のお子さんには喜んでもらえると思います。
こういった車内のDIYで大切なことは何でしょうか。初心者でも参考になるポイントがあれば教えてください!
鈴木:まずは、必要な条件を書き出していくことです。このクルマの場合だと、お父さんと小学生の娘さん、2人で車中泊するクルマだというのが前提です。実際に使っているところを想像して、どんな環境だったら使いやすいか、どんな装備があれば便利かを考えていきます。
たとえば、キッチンを使うときはどんな動きをするのかなど、クルマの中での導線をなるべく具体的にイメージして、それに合った空間づくりを意識するといいですね。
鈴木:あとは実測してみることもすごく大事です! ぼくは図面を描いたりはしないんですが、つくる前にある程度イメージを固めておいて、さらに骨組みをつくりながら、そのつど、メジャーや木材を車内に置いてスケール感を確認しています。
実際に現場で見てみると、たった数㎝の差でもけっこう違って感じるんですよ。「これだけの幅があれば問題なく動けるな」「ここはもう少し広くとろう」など、現場で合わせてみてわかることは多いです。
いきなり最初からつくり込んでしまうと、後でイメージと違ったときに修正するのが大変なので、やりながら微調整するのがオススメです。
いよいよ完成! 親子旅用の車中泊カスタムがこちら
そして取材から10日後、完成した車内の写真を、鈴木さんが撮影して送ってくれました!
挑戦したいアイデアがたくさん! 夢はふくらむ
最後に、鈴木さんはこれからもVAN LIFEを続けていく予定ですか?
鈴木:VAN LIFEを始めたことで、以前には考えられなかったような仕事ができて、たくさんの面白い人たちにも出会うことができています。
やりたいことはまだまだあって、今度はこれをつくろうとか、あれに挑戦してみようとか、新しいアイデアが際限なくふくらんでいきます。構想を練っているときが一番楽しいですね。自分の作品をつくる活動は、今後もずっとやっていくつもりです。
今の目標は、ベントラの現行車を手に入れることと、自分専用の広いアトリエ兼ガレージを持つこと。クルマは男のロマンです。いつか叶えたいですね!
取材・文/小村 トリコ
写真/木村 琢也
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